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第39話 第六の事件! 吸血鬼の特性

◾凛



 わたしは唇に痛みを感じました。あごにあたたかいのが伝い口の中は血の味がします。

 しばらくしてノエルくんは唇を離してくれました。うぅ息が苦しかったよぅ。

 ノエルくんは唇に付着したわたしの血を舌でぺろり舐め取りとろけた表情で、



「おいひぃ。この味……やっぱり! ようやく出逢えた……っ!」



 と。

 その唇の奥には血のついた尖った犬歯が覗いています。犬歯というより牙に近いですね。



「の、ノエルくん!? 今のは何ですか!?」



 今ノエルくんは完全に唇を噛んできました。わたしの大切なファーストキスを奪ったんですから……せめてまともにキスされたかったです。

 涙目でわたしは尋ねます。



「ごめんね。今のはその……ちょっとあれでね。へへ」



「ジョーカー!」



 不信感を抱いたわたしはそう叫びました。

 しかしジョーカーはいつものように足と腕を組んで呆れた表情で登場することはありません。さっきわたしが追い出してしまったからです。

 すぐに机のペン立てからカッターを手に取りカチカチと刃を出しました。

 自分の身は自分で守らなきゃ……。ノエルくんはとっても怖いです。

 


「待った待った待った! 僕たちは戦う気はないよ! 決して!」



「そうよ。だからカッターを下ろしてちょうだい」



 そんなわたしにノエルくんとクローバーちゃんはそう言ってなだめようとしてきます。

 しかしわたしは手を下ろしません。



「なんでわたしの唇を噛んできたんですか!?」



 ジョーカーなんていらないだ! わたし1人でも何だってできる!

 するとノエルくんは困り果てたように顔を歪ませ上半身をメトロノームのように揺らします。それよりワンテンポ遅れて桃色の髪の毛が揺れています。



「うーん」



 悩んだ挙句隣にいるクローバーちゃんにこしょこしょばなしをしはじめました。

 とはいえわたしにも聞こえちゃってますが……。



「(あのこと言うべきかな? 一応僕の許嫁だし)」


「(うーん、隠しごとはよくないよ)」


「(そうだね)」



 ノエルくんは決心したように姿勢を正しティッシュで口元の血を拭きます。そしてわたしを正面から見つめて、



「僕はね、吸血鬼なんだ」



 と。



「正確には真祖の血族だから眷属けんぞく――ダンピールだけどね」



 わたしは不信感を抱いたまま頭上にクエスチョンマークを浮かべるだけでした。小首を傾げてツインテールを揺らすだけでした。



「僕たち吸血鬼は普通の人間の何倍もの身体能力を有している。それ故に大量のエネルギーを必要としそれを得るには体内由来の魔力粒子が含まれている人間の血液を摂取しなければいけないんだ。ガイストが能力を発動するときだって体内由来の魔力粒子を消費するでしょ? でもガイストは実体化していれば自分の体内で魔力粒子をつくれるからそれだけで事足りる。

 でも吸血鬼の場合は吸血鬼の血が体内に存在している限り能力を維持し続けるために恒久的に莫大な体内由来の魔力粒子を消費し続けなければならない。それが吸血鬼特有の吸血衝動に起因しているんだ。ま、僕みたいな眷属より真祖の方が吸血衝動がだいぶ強いみたいだけど」



 わたしはカッターを下ろして黙って聞いていましたが頭の中は当然混乱していました。

 ノエルくんが吸血鬼……? 吸血鬼ってことはまさか……吸血鬼事件にも何か関わりが?



「そこで僕はリンちゃんに提案したいんだぁ。リンちゃんは僕の許嫁。だから結婚していっぱい血を吸わせて欲しいんだよぉ〜。はぁ……はぁ……」



 ノエルくんはまるで欲情したような荒い息づかいでした。その顔も火照っています。



「怖いですっ! やめて! 近づかないでください!」



 ノエルくんから離れるべく後ずさりしますが逆に自分を部屋の角に追い込んでしまいました。どうしよう!

 ノエルくんの桃色の瞳が深紅に変りわたしの体は再び石のごとく動かなくなります。

 ノエルくんの甘い吐息がわたしの顔を撫でます。わたしはいっさいの抵抗ができません。誰か助けてっ!

 唇と唇が触れ合うその寸前、



「ジョーカーが家を飛び出して行ったけど、何かあったの?」



 エースが壁をすり抜けて現れました。そしてすぐに今の状況を理解して目を丸くします。わたしと見知らぬ男の子がキス寸前だったのだから当然です。



「ちょちょちょちょちょっと何してるの!?」



 顔を赤くして慌てふためくエース。それを見たノエルくんははぁとため息ををついて、



「残念。リンちゃんの血、やっぱり甘くておいしかったのに……。もう少しだけ欲しかったなぁ〜。それじゃあまた今度遊びに行くからね! バイバイ! リンちゃん!」



 手を振ってクローバーちゃんと一緒に壁をすり抜けて豊園邸を後にしました。

 すぐにわたしの体は自由に動くようになります。今まで息ができなかったので肩で大きく呼吸をしました。

 よかった。助かった。エースのおかげです。

 エースはわたしに駆け寄り、



「大丈夫!? 口から血出てるよ。それに今のは一体……?」



 心配そうに声をかけてくれました。

 しばらく息を整えてからわたしはジョーカーと喧嘩したことと吸血鬼と自称するガイスト使いのノエルくんについて説明しました。



「そんなことがあったんだね。ジョーカーが豊園邸の近くにいる気配はないよ。本当にどっか行っちゃったのかも。とにかくみんなに伝えないと。凛も一緒に来て」



 わたしはエースに腕を掴まれて一階に降りました。



◾凛



 わたしは、みんなの前でさっきのことを説明しました。

 それを聞いてナディアさんが話をまとめてくれます。



「なるほどな。やるべきことは2つだ。1つめ。凛とジョーカーが仲直りすること」



「…………はい」



 わたしは俯いて小さな声で返事しました。おっしゃる通りです。



「そして2つ目。ノエルについて調べることだ。敵なのか否か、組織との関係について、そして吸血鬼事件との関連を調べる必要がある」



 ナディアさんは続けます。



「吸血鬼は自分の体内で作られる魔力粒子や人の血を吸って得た魔力粒子を利用して常人を超越した能力を得ている。普通の人間の数倍から十数倍の身体能力を持ちその身は不老不死で傷は一瞬のうちに癒える。

 吸血鬼には2つの種類……厳密に言えば3つ種類がある。1つが真祖と呼ばれる吸血鬼の究極個体。現在13人のみ存在が確認されている。もう1つが真祖の血を引く眷属――ダンピール。これは吸血鬼と人間との間に生まれた混血種と真祖や混血種の眷属の体液を何らかの形で摂取した含血種がんけつしゅの2種類がいる。それぞれ先天種や後天種と呼ばれることもある。

 そんな吸血鬼にも1つだけ弱点が存在する。それは日光だ。吸血鬼は日光に弱い。紫外線を浴びると吸血鬼の強さの原動力となっているテロメラーゼが分解されその結果能力が著しく低下し、長時間日光を浴び続けると瀕死になることも確認されている。しかし真祖のほとんどが日光を克服しているし眷属の中でも日光が平気だったり耐性があるものもいる。

 日光以外で倒す方法はたった一つだけ。頭や胴体に致命傷を与えること。腕や脚を攻撃してもすぐに修復されてしまう。私の予想だがシャルル・アラール=デキシュ家は原初の吸血鬼で真祖たるブラド3世の直系でノエルの兄も真祖だ。だからノエルもそれなりの日光耐性はあるだろうな」



 ナディアさんはそう言った後にわたしの方を見て、



「とにかくまずは凛、あんたはとっととジョーカーと仲直りをしなさい」


「……わかりました」



 わたしはくちびるをとがらせて返しました。



 To be continued!⇒

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