第38話 第六の事件! 吸血鬼ノエル
遅くなりました。すみません
◾凛
「みにゃん」
わたしとジョーカーに非常によく懐いている黒い子猫さんがベッドの中に潜り込んできました。
「エリオット〜、わたしどうすればいいのかな?」
わたしは黒猫のエリオットに話しかけます。
「マリアちゃんのことも信じられないし、それでジョーカーにあんなこと言っちゃって……そしたらジョーカーほんとにどっか行っちゃったよぉ〜。うぇ〜ん」
わたしは声を出して泣きながらエリオットをぎゅっと抱きしめました。
「にゃおん。にゃーにゃーみゃん」
わーなんか言ってます! でもわたしネコ語わかりません……。
「絶対にわたしからはジョーカーに謝らない! たしかに悪霊って言ったのは酷かったかもだけど、ジョーカーの方がもっと酷いこと言ったもんっ!」
ガイストとは人の霊魂が使い手の魂に憑依した存在のこと……つまりそれに対して『悪霊』と言うのはガイストにとって自分の存在を真っ向から否定されているのと同義なのです。禁句なのです。
それはわたしも理解していました。でもジョーカーの発言が許せなかったのです。
わたしはバフっと布団を剥ぎました。そしてエリオットを上に持ち上げて眺めます。
「エリオットはかわいいですね」
眠たそうにゆったり瞬きをするエリオットを下ろしてわたしはエリオットのお腹に顔を埋めます。
「もふもふもふ〜ぅ。もひゅ〜ぅ」
柔らかくてあったかくてもふもふでふかふかで気持ちいいです!
すると、
――リンちゃんもと〜ってもかわいいよ!
突然そんな声が聞こえてきました。
「まさかエリオットしゃべりました?」
エリオットに尋ねますがエリオットは首を横に傾けるだけで何も発しません。そりゃそうです。人間と猫は会話ができませんので。
するとまた、
――泣いてる姿もミエル……じゃなくてエリオット? を愛でる姿もとってもかわいい! まるで天使だ!
再びどこからともなく声が聞こえてきました。その発言内容からして猫のエリオットが喋り出したわけではないようですね。
わたしは跳ね起きて、
「誰ですかっ!?」
声の主を探すために部屋の隅々に目をやります。
「ばぁ!」
「うわぁぁぁあああああ!」
――ドテン!
わたしは驚きのあまりベッドから転げ落ちてしまいました。
「いてて」
床に頭を打ちつけましたぁ! 痛いです! いたたです……頭に星回ってるかもです。
「ごめん! 元気づけようと思っただけなんだ」
突然目の前になんの兆候もなく現れたショートカットの小さな女の子はそう言ってわたしが起き上がるのを助けてくれました。
「あなたは……誰ですか?」
わたしはわるい子じゃないけどお礼も言わずに尋ねました。不審者にお礼は言えないもんっ。
「僕の名前はノエル・シャルル・アラール=デキジュ。気軽にノエルって呼んで?」
そう言いながらノエルちゃんはわたしの乱れた前髪を直してくれます。
「わたしは三鷹凛です」
わたしも自己紹介します。
「知ってるよ。君のことはずーっとずーっと昔からね」
たしかにノエルちゃんはわたしが凛と名乗る前からわたしをリンと呼んでいました。
ノエルちゃんなんだかとっても怖いです。ストーカーさんですか?
「――?」
不審そうな顔をするわたしに、
「だってリンちゃんは僕の許嫁なんだから」
「いい……なずけ?」
「そうだよ」
「じゃあノエルちゃんは男の子なんですか?」
「うん! よく女の子と間違われるけどね……」
頭をかいてノエルちゃ……くんは言いました。
全然そうは見えません。桃色の髪の毛と瞳は目を奪われるほどキレイだし目鼻立ちが整っていてと〜ってもかわいい!
でも目線を下げるとタイトな男性用のスーツを身に着けています。てことは男の子なんですね!
わたしは意外な出来事に驚いてしまいましたがノエルくんは敵対する存在ではなさそうです。
「でもお父さんからそんな話聞いたことないんですが」
「そうなんだ……」
ノエルくんはうつむき加減で悲しそうに呟き、
「悲しいけど、今はあんまり気にしないで」
と。
「ところでノエル……くんはガイスト使いなんですか? それとも上級感覚覚醒者ですか? さっきわたしの目の前に湧いて現れましたが」
「(湧いて現れたって……)うん。紹介するね。出てきてクローバー!」
ノエルくんの背後からすーっと女の子が現れました。ノエルくんと同じ薄ピンクの髪の毛は肩甲骨辺りまで美しく伸びています。
「僕のガイストのクローバー。物体を霊体化する能力を持ってるんだ。生物にも有効だから僕は霊体化してここに侵入したんだよ」
ノエルくんはそう説明し、クローバーちゃんは大きく頷きました。
こうしてガイストの能力を言うあたりやはり敵ではなさそうです。
ちなみに不法侵入ですが今のところ通報するつもりはありません。
「ところでリンちゃんのガイストはどこかな? 居間かい? それともお風呂? おトイレ?」
と、ノエルくん。
わたしはバツが悪くなって、
「えと……そのですね。ケンカしちゃって……それでその、はい……」
たどたどしく答えてしまいました。
「家出しちゃったんだ。なるほどじゃあ今はいないんだ〜」
わたしはこくりと小さくうなずきます。
するとノエルくんは愉快に笑って、
「1つお願いしたいことがあるんだけどいいかな? これは僕がここに来た目的でもあるんだけど」
「はい。わたしにできることなら」
「グッド! とっても簡単なことなんだ。そこを動かないでね」
そしてわたしに顔を近づけてきた。厳密に言えば自分の唇をわたしの唇に近づけていたのだ。
これって……ノエルくん、わたしに……キキキキキッスしようとしてるっ!?
出会って数分の見知らぬ男の子にファーストキス奪われちゃうぅぅうう!
きしゅ……きすぅ…………キス! は! わたしの初めてのキスは! あの人にもらって欲しいのに! 「た」で始まって「み」で終わるわたしの初恋の相手……優しくてかっこよくてお兄ちゃんみたいなあの人に!
ノエルくんから離れようとする。
しかし――体が……う、動かない!? どうして!? 体が凍ったように全く動かない!
声もでない! 息も……! ひょっとして金縛りっ!?
「大丈夫、ちょっと痛いだけだから。我慢すればすぐに終わるから」
そして、わたしとノエルくんの唇がゆっくりと触れ合った。
To be continued!⇒
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