第266話 ステーキハウスタナカにて
■ジョーカー
世界標準時7月18日13時30分頃(日本標準時7月18日22時30分頃)――ゲーム内時刻11月3日7時過ぎ。わたしはタナカのキッチンでチャリオットと向かい合わせで席に着いていた。
「まずはメニューを決めよう。はい、メニュー」
チャリオットはそう言ってメニューを渡してくれた。
タナカのキッチンは巨人族のタナカという人物が経営する高級ステーキハウスで、本店をヨトゥンヘイムの首都ヨトゥンに構え、ヨトゥンヘイムに7店舗、ミッドガルドに4店舗展開しているチェーン店だ。
メニューを眺める。安価だが大味な霧の牛(ヨトゥンヘイム産)、高価だ凝縮された旨みが特徴の矮牛(ニザヴェリル産)、海中に生息する海牛の一種である黒毛洋牛(ヨトゥンヘイム産)など、様々な地域で取れた牛系動物の様々な部位をレアからベリーウェルダンまでの焼き加減で注文することができる。
今回わたしは年に数匹しか出荷されないというミッドガルド極東帝国産最高級ワ牛A5ランクシャトーブリアンをベリーウェルダンと、同じ肉のハンバーグをセットで注文した。赤いのは嫌だわ。そしてドイツ人といえばやっぱりハンバーグよね! 生前にはハンバーグはなかったけど。
チャリオットはアルヴヘイム産空牛A5ランクサーロインをミディアムレアで注文していた。
「ジョーカー、俺は結局お前の悪趣味を理解できないままだった。せっかくの最高級をベリーウェルダンなんてもったいないだろ」
「あんたこそおかしいわよ。肉を生のまま食べるなんてありえないわ」
「本当にかわいそうだと思うよ。君の生まれが」
「生まれ……まさか調べたの? わたしの家系を」
「いやいや、みんな知ってるでしょ。そんくらい」
「まさか……黒魔女伝説ってやつ?」
「それそれ」
黒魔女伝説……誰がそんなもん作ったのかしら。ほんとにまったく……これじゃあプライベートなんてあったもんじゃないわよ。
「黒魔女伝説では具体的にはどんなことが語られてるの?」
「知りたいか?」
「ええ、そりゃもちろん。リンカへの憑依でリンカとしての記憶はすべて思い出したけど、黒魔女伝説についてはなんにも知らない。だから教えて」
「いいだろう。教えてやる。黒魔女伝説……お前の伝説について」
なんだか不思議な気分ね。他人から自分について聞かされるなんて。
To be continued!⇒
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