第245話 絶対に秘密
■ナディア
私たち魔女隊はジョーカーから玄武の霊核を預かり、新宿のMMA東京支部へ向かった。私たち6人と東京支部の職員で玄武の霊核について研究するためだ。
魔法は宇宙だ。これは人類が魔法についてまだまだ無知であることの比喩として、片瀬宏光が自身の書物で用いた言葉だ。
人類は科学が発達する以前より魔法を解き明かそうとしてきた。しかし未だに5パーセント程度しかわかっていないらしい。
まさに宇宙と同じだ。人類は118種類の元素を発見してきたが、それは宇宙のたった5パーセントに過ぎず、95パーセントは未知のエネルギーと未知の物質である。
国際魔獣生態研究所(IMEL)にて魔獣や霊獣、使獣や神獣の生態の研究は行われているが、霊核を研究する機会は少ない。魔獣や霊獣であれば殺してから霊核を取り出して研究することができるが、そもそも希少で最強な使獣や神獣を殺すことは不可能だし、寿命で死ぬこともないので使獣以上の存在の霊核自体を研究する機会はほとんどない。
そのため今回の研究が1パーセントでも人類の知識を広げる役に立つことを祈っている。
まずは外側のランタンに危険因子がないかを調べたが、至って普通のランタンであることがわかった。
次に炎が灯る霊核をランタンから取り出して専用の機械に設置し、魔力粒子内の素粒子の組成を調べる。
しかしその結果に私たちは愕然とした。とんでもないことが明らかになったからだ。
私たちが玄武の霊核だと思っていたこれは、まったく別のものだった。神獣の霊核ですらない。もっと低級の……呪いの塊のようなものだったのだ。
「そんな! それじゃあ禁忌の魔女さまの頑張りは全部……水の泡」
「あんなに泣いてたのに……」
ルシアとエーリンの言葉に、魔女隊のみんなの表情が一気に暗くなる。
ジョーカーもレオも悪くない。これに関してはウッズチームが一枚上手だったとしか言いようがない。
結論を言えばルシアの言う通り、ジョーカーの努力は水の泡だ。
「みんなで約束しよう。ジョーカーには決して真実を伝えないって。それからタカオミとエースとリンにも絶対何も言わないこと。もし真実を知ったら、ジョーカーはきっと……」
ジョーカーはきっと……また無茶をする。私たちが想像もできないような無茶をして、きっと廃人になり果ててしまう。
私はオーラ、ホリー、ジャンヌ、エーリン、ルシアの顔を見つめる。
この子たちの精神年齢はまだ幼い。嘘を隠し通せるだけの精神力が備わっているだろうか?
「絶対に内緒にする!」
「それがジョーカーのためなら!」
「約束とかだいすき!」
オーラは無邪気に、ジャンヌは決意のこもった声で、ホリーは楽しそうにそれぞれ言った。ちょっと心配だけど、信じよう。みんなのこと。
MMA東京支部にも、4人に真実を伝えないように協力してもらおう。アリスなどの隆臣の友だちには特に注意してもらわなければ。私は居合わせた職員にその旨を伝える。
――ガタ……ガタガタガタ
呪いが詰まった霊核が装置内で震え出した。呪いが外に出ようとしてるんだ。さっきまでの魔力粒子の炎は消えていて、霊核が露わになっている。このものすごい負のオーラ、完全に呪いのそれだ。
「もうこれいらないよね? 壊しちゃっていい?」
エーリンはそう言って魔力粒子変換装置と魔力粒子圧縮装置を用いた魔力粒子圧縮型拳銃を取り出し、呪いの方に歩いていく。エーリンは様々な魔法マテリアルを所有しているが、その中でもコレはピカイチでカッコイイ。男の子が大好きな感じ!
職員が呪いの破壊を許可すると、エーリンは蠢く呪いの霊核に魔力粒子圧縮型拳銃を突きつけ、引き金を引いた。銃口と霊核の隙間から大量の魔力粒子が溢れる。
気持ち悪いオーラを放つ霊核は装置の中で粉々に砕け散った。呪いの破壊に成功したようだ。
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