第215話 赤の剣の本当の目的 イナミの残骸
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特殊溶液で満たされたカプセルの中で体を赤子のように丸めて浮かんでいる小さな少女……これから兵器に成り果てるかわいそうな女の子。つい数週間前まではパリの収容施設で隔離されていたが、ロシアが約240万ユーロで購入し、被検体として利用している。
生まれつきの滅びぬ体と超人的な身体能力に加えて強力なガイストを保有している。我々はただでさえ最強な彼女を無敵の兵器に仕上げるために、さらに2つの工夫を施そうとしている。
1つ目が第八感覚を覚醒させること。霊核を体内に組み込んで神獣との親和性を向上させ、第八感覚の真価を発揮させるのだ。そのために私は赤の剣にとある神獣の霊核の奪取を命じた。さきほど本部からウッズチームが例の神獣を倒して霊核を確保し、現在は船で輸送中だという連絡があった。
そして2つ目は生物兵器との融合だ。人間に対してのバイオ兵器の融合は今のところすべて失敗に終わっている。ウイルスによる身体能力の向上は見られたが、侵食を制御できずに身体を乗っ取られて内部から腐敗して死んでいた。
しかし彼女は特別だ。彼女は人間ではない。きっとうまくいく。ただでさえ不死身の肉体が神獣とのシンクロでさらに昇華される。ならば内部からの腐敗にも耐えられるはずだ。あとは両方のブツが届くのを待つのみ。下ごしらえは過不足なく済ませている。
もしこの実験が成功して、そのデータと被検体9999番を暗部に送れば約1600万ユーロの大金が手に入る。それだけでなく被検体9999番のクローンを1体製造する度に約8000ユーロが入る。最高のビジネスだ。なんとしてもこの実験を成功させねば。
■???
「ナタリア、それお前のじゃないか?」
アジト内で私は元マリーノファミリーの幹部のナタリアに話しかける。
「ん? ああ悪い。ありがとう」
そう言ってナタリアは色の着いた木の破片のようなものを拾い上げてコートのポケットにしまい込んだ。
「おい、なんかそれすげー気持ち悪いぞ」
「お前はわかる人のようだな」
「どういうことだ?」
「これは私が――いや、私の元ボスとそのガイストが2025年に破壊したSCPの一部だ」
「は?」
元ボスってのはロマーノ・マリーノでそのガイストってのはクローバー。こいつは財団職員時代からヤツと面識があったのか? それにSCPの一部だと?
「SCP-173――彫刻。オブジェクトクラスはEuclid。視線を逸らしたり瞬きをすると高速移動で接近し対象を絞殺する」
「SCPの残骸を所持し続けるなんて趣味が悪すぎる」
「これは私にとって宝具同然のものだ」
ナタリアはそう言いながら私から遠ざかる。10メートルくらい離れた場所でナタリアは振り返り、あの気味の悪い破片を私に翳した。
そして私が瞬きをした瞬間、ナタリアは私の目の前にいた。
「まさか……」
「そう。このSCPはまだ生きている。粉々に砕いたから絞殺する力は残っていないが、視線を外したり瞬きした対象に高速で接近する力はまだ残っているんだ。これ以外の残骸はすべてサイト-19に再収容されていて、SCP-173-1からSCP-173-168まで名付けられている。オブジェクトクラスはNeutralizedに格下げされた」
「まさか他のSCPの残骸も持っているわけじゃないよな?」
「それはない。他の残骸は使い物にならないものが多い。私が倒した中ではイナミちゃんの残骸が一番扱いが簡単で強い」
「イナミちゃん……?」
「そう。173だからイナミ」
「財団職員はSCPを愛称で呼ぶのか……」
SCP財団に対するイメージが変わった瞬間だった。
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