第173話 玄武と麒麟
◾玄武
「ご、ご主人さま……どうして三次元世界に?」
目の前には、あたしと同じくらいの体格で、顔だけはかわいらしく整っている少女がいた。つややかで美しい純白の髪の毛は2つのイカリングのようになっており、黒い瞳は邪悪な美しさを秘めている。赤、青、黄でカラフルに構成された漢服は絢爛豪華でかわいらしい。
外見だけ見ればご主人さまはかわいいと思う。でも……、
「質問しているのはこっちだ。何をやっていると聞いているのだ」
ご主人さまはお腹に風穴が開いたアガリビトの頭をぐりぐり踏みつけて尋ねてきた。
アガリビトはしかし、表情を変えずにずっと圧縮作業を行っている。上がったことにより痛覚も鈍くなったのだろう。
「か、体の修復を……」
「じゃあこのゴミクズアガリビトはなんだ?」
「魔力粒子の圧縮作業を……手伝ってもらってまして…………」
――パチン!
頬を手のひらで思いっきり叩かれた。痛烈に痛い。あの悪魔に手足をちぎられるよりも遥かに痛い。
「そんなことくらいで下等なゴミクズの手を借りてっ! お前は神獣としてのプライドはないのかっ!」
「ご、ごめんなさい……」
「謝るなっ!」
「っ!」
今度は手の甲で方を叩かれた。痛い。
あたしはこの麒麟の下僕だ。瑞獣のほとんどはどんなにあがいても獣類の長たる麒麟には敵わない。唯一抗えるのは鳥類の長たる朱雀のみ。麒麟には獣類や四神に対する絶対有利権限があるからである。
麒麟とあたしたち四神は強弱を争うことなく、数百年間楽しく生活していた。
しかし2年前、赤の剣により朱雀は実体化して暴走し、シナガワヤスマサという鬼に敗北してに人間に肩入れした。
麒麟はもともと低次元の存在を毛嫌いしていたが、とある人間にそそのかされ、低次元の存在をまるでゴミクズのように扱い始めた。
人間どもの伝承通り、麒麟はそれまで生命を傷つけたり、ましてや殺生などは一切してこなかった。
しかしその人間と出会って以降。まるで人格が変わり、低次元の生命を傷つけ、ひどい時には命を奪った。
「ねぇ? もっと痛み付けられないとわからないの? なら痛みつけてあげる」
「い、痛いですっ! やめてくださいっ!」
そして麒麟はあたし、白虎、青龍を絶対有利権限を行使して下僕にした。
それまでの楽しかった生活は消え失せ、あたしたちはまさに奴隷のように扱われた。
ごはんも一日一食。牢屋のような場所に閉じ込められ、毎日毎日ご主人さまの気晴らしでこの身を傷つけられた。
「やめない。この無能下僕っ! どうして何もできなの?」
「いらい! ちぎれちゃいますっ!」
2年前まではお互いにタメ口だったのに、麒麟はあたしたちのご主人さまだから、敬語を使って失礼のないようにしなければならない。そうしないと爪を剥がされる。
ご主人さまはあたしのほっぺたを強くつねり、最終的にはちぎった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
本当は声を上げて泣き出したいくらい痛い。けどご主人さまの前では泣くことは許されない。気道をちぎられかねないから。
だからあたしは頑張って声をこらえた。でも涙がこぼれ落ちてしまった。
「泣くなァ!」
せっかく修復したばかりの両目がまた潰された。
あたしはこの世界でも……地獄を味わわなければならないのか?
To be continued!⇒
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