第151話 朱雀の宿主
今日はいつもの2倍のボリューム!
◾魔剣の蔵
「あらら〜」
大爆発が起こった。こりゃあ誰も助からないね。
辺りを見渡してみると、案の定瓦礫に埋もれる血だらけの死体が大量に転がっていた。見た感じ生存者はいなさそうだ。
過激派もみんな死んでそうだね。自爆テロだったのか。アトラスを殺し、そしてあの計画を円滑に進めるための。
「君も死ななかったんだね」
俺は鳥仮面の女に話しかける。
「ええ、おかげさまで。そう言うあなたこそ、傷一つない」
「まあ、これでもフォルコメンだからねェ。こんなんじゃ死なないよ」
「それじゃあ私はこの辺で失礼します」
そう言って鳥仮面女は立ち去って行った。
さて、それじゃあ俺もトランクケースを回収して、まずは東京観光を楽しもうか。
◾アリス
私は第八感覚覚醒者だ。13歳のときから南の四神・朱雀をこの身に宿しているのである。
2年前、母、父、兄、私で日本を旅行していたとき、京都で朱雀が暴走し、京都は火の海に呑まれた。それにより逃げ遅れた京都市民や旅行客は全員焼死し、私だけが品川靖将により救出された。
しかし私は全身を火傷し、どんなスーパードクターにかかっても助かる確率はほぼゼロだったらしい。
そこで靖将さんは朱雀の霊核を私に移植した。自らを倒した靖将さんに対しては完全服従する朱雀は、瀕死の私と同化し、私の全身の火傷を完治させた。
一週間ほど経ち、私は目を覚ました。
意識が戻る前、私は夢を見ていた。両親や兄、あのとき逃げ遅れた全ての人が炎に焼かれて苦しみながら死んでいき、私も酷い痛みに耐え続ける夢だ。あれは完全に地獄だった。
その夢にはまだ続きがある。見知らぬ男性に助けられた私は、その人にポッカリ空いた心を、家族を皆殺しにした張本人であるフェニックで埋められた。
気持ち悪すぎて、夢の中で何度も吐いたり、胸を掻きむしってフェニックスの霊核を取り出そうとした。しかしそんなことは無理で、私は疲れ果てて意識を失った。
夢の中で目覚めると、現実でも私は目を覚ましていた。
手だけに包帯がぐるぐる巻きにされ、何本もの管が腕に繋がっていた。そして感じたのは胸の痛み。見てると、何度も引っ掻いた跡があった。夢での行動は、現実でも行われていたようだ。
しばらくして何人かの医師と看護師が来て、私に色々と尋ねてきた。そしてあの男がやってきた。黒いスーツに身を包み、しかしそれには不釣り合いなデザインのネクタイをつけた大柄の男で、たった1人で朱雀を鎮めた男。私の命の恩人である靖将さんである。
靖将さんは私を見ると急に泣き出し、「すまなかった……君の家族を、僕は守ることができなかった! 許して欲しい! この通り!」と言って土下座をしてきた。
そのとき私はなんと答えたのか覚えてないが、靖将さんとはかなり長い時間会話をした。
最後に靖将さんはこう言い残して病室を後にした。
「僕のロクでなし息子は、君のような優しくて素敵な女性と結婚しなければ、きっともっとロクでなしになってしまうだろうな。いつか僕の息子と出会うような機会があれば、どうか仲良くしてやってくれ」
私はこの言葉を「自分の息子と結婚してくれ」というものだと今まで解釈してきた。
憎き霊獣とはいえ、朱雀を私の体に宿し、一面を取り留めさせてくれた命の恩人である靖将さん。私の中で靖将さんはかっこいいヒーローだ。その息子となればさぞかしカッコよくて優しいのだろうと私は思っていた。
実際はあんまカッコよくてなかったけど、でも優しさは靖将さん譲りだった。
フランスに戻って私はMMAフランス本部に所属することになった。約2年間、京都の街を焼き払い大量殺人を犯した最悪の殺人鬼と共存して、実は朱雀の人間態はすっごくかわいい女の子で、優しいところがあるということを知った。
そして数ヶ月前、玄武の霊核が異常に活性化し始めた。いつ暴走してもおかしくないらしい。
私は2年前の悲劇が繰り返されるのを恐れた。そして南の四神の宿主として、北の四神の暴走を食い止めるべきだと悟り、再び日本へやって来た。
吸血鬼事件やロザリオ事件、そして現在進行形のミンチ事件や予想される魔剣の蔵の襲撃。東京に来て約3ヶ月、様々な事件に巻き込まれてきた。
そしてついきのう。玄武の霊核が大量の魔力粒子や霊力粒子を圧縮し始めたという。
本来霊獣は使力粒子や神力粒子に憑依するが、現在は魔力濃度に占めるそれらの割合がかなり低いので、理論的には神霊や神獣が肉体を得ることはほぼ不可能である。
しかし使力粒子や神力粒子の下位互換である魔力粒子や霊力粒子を圧縮濃縮することで使力粒子に極限まで近づけ、それらに憑依することで霊核は実態化することができるという。朱雀のときもそうだったらしい。
こうなってしまえばもう我々の力ではどうすることもできない。もちろん、こうなる前にたくさんの宮司や巫女、陰陽師による鎮魂作業が行われてきたが、結果的には止めることができなかった。
こうしてまた1つ、東京に事件が舞い降りてきた。
To be continued!⇒
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