第138話 東京事変
◾隆臣
「事変……?」
「いや、もうすでに始まっている。世界を揺るがす大事件が…… 」
ナディアは神妙な面持ちで言った。
世界を揺るがす大事件……想像もつかない。爺さん目白がその発端になるのか。
「ユキタカは世界屈指の大剣豪だった。かつては少し先の未来を予想できるほどの第六感の持ち主で、欧米では〝死のサムライ〟や〝メイジキラー〟と恐れられていた。しかしあいつも人の子。今は高齢で、遊びのチャンバラとはいえ、三下ごときに負ける始末。あいつは確実に殺される。次の剣豪は魔剣の蔵となる。世代交代だ」
世代交代……それはどんなものにも必然的に訪れる。当然といえば当然なのかもしれない。
「勝てないのか? 爺さん目白は、魔剣の蔵に」
俺は尋ねる。
「かつてのユキタカであれば可能性はあっただろう。しかし今のあいつではなぁ」
現役序列6位に、元プトレマイオス候補じゃさすがに実力差がありすぎるのか。
「爺さん目白さんが死んじゃうなんて、わたし嫌ですっ!」
凛は白銀のツインテールを揺らしながら高い声で叫んだ。
俺も嫌だよ。学友が死ぬなんて。それはエースもジョーカーも同じようだ。
するとナディアは薄っぺらい胸を張って拳でトンと叩き、
「反ブラド派の魔剣の蔵を追って、ブラド派のアイラ・ハンプトン=ローズが私たち魔女隊を日本に送った。魔剣の蔵を止めるためにな。だから安心しろ。私たち魔女隊がユキタカを守ってみせる!」
と。
今の魔女隊がどれほどの力を持っているのかわからないが、とにかく爺さん目白は防衛されるようだ。よかった。
「だが危惧していることがある。それは我々魔女隊を持ってしても、魔剣の蔵は手に余る相手だということだ」
ナディアはそれまでペタン座りをしていたが、急に正座をして地面に手の平を付き、
「頼む……我々に協力してくれ!」
頭を下げた。土下座だ。
「私はユキタカにたくさんの恩がある。だからどうか……お前たちの力を貸してくれっ!」
顔は見えないが、ナディアの声は真剣だった。その横でラナもナディアの真似をしている。
すると凛は優しい声で、
「顔を上げてください」
と。
少ししてナディアとラナの顔が上がる。ナディアの目の端には涙が溜まっているのがわかる。
「爺さん目白はわたしたちのお友達です。友達が危ない目にあっているのを見過ごすわけにはいきません。もちろん最初から協力させていただくつもりです」
凛の言葉に俺、エース、ジョーカーはそれぞれ頷いて同意を示す。
するとナディアの顔が花が咲いたように明るくなり、
「本当か!? ありがとうみんな!」
と、満面の笑みで言った。かわいい。
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