第129話 ナディアとラナ
◾隆臣
俺たちは都営浅草線で浅草駅から三田駅まで行き、そこから歩いて田町の更木荘まで帰ってきた。
その際隔絶の結界を張ったナディアにずっとついてきてもらい、下半身おしっこまみれのエースをおんぶしていたのは言うまでもない。
おしっこが乾燥してちょっとアレだったけど、エースのだからぜんぜん余裕だった。むしろエースの桃みたいないい匂いの方が勝っていたかは、おんぶ中はいい匂いを堪能していた。もしこれ男だったらあの場に放っておいたかもしれない。まあさすがに助けてはあげるけどな。
エースはまだ起きないので、とりあえず下半身を拭いて着替えさせないとな。
俺は枕を敷いてエースを床に寝かせる。かわいく寝息を立ててすやすや眠っているように見える。寝顔もすげーかわいい。でも実際は気絶しているんだよな。
俺はタオルをお湯で濡らす。エースの短いスカートを下ろし、びちょびちょの靴下を脱がせる。シルクのようなきめ細やかでつるつるの白い素足が露になる。足もかわいいな。
エースは俺のガイスト――俺と一心同体のような存在だ。何度も裸を見たこともあるし、見られたこともある。そんな仲なのにどうしてだろう。こんなときに限って俺はパンツを下ろすのをためらっていた。俺の手でパンツを脱がせるのは、さすがにまずいんじゃないかと思っているのだ。
「キモイわよあんた」
ナディアはそう言って俺を押しのけた。
「なに自分のガイストにドキドキしてるの?」
「ドキドキなんてしてねーよ! 普通ためらうだろ! いくら家族でも!」
「そうかしら?」
ナディアは小首を傾げながら言った。
「そうだよ!」
たとえ実の妹である緋鞠にさえそんなことできない。もしそんなことをしたら、緋鞠が目を覚ましたときに俺がどこにいるかわからない。病院か天国か。
「私がやるから、アンタも着替えてきたら?」
「いいのか?」
「その制服も洗わないといけないでしょ? 私やるから」
「え?」
「え? って何よ」
「いや、お前ってそんなやつだったっけ?」
「私はもうお子ちゃまじゃない。地下図書館――大魔法の正式な継承者なのだ。大人のレディーなのだぞ!」
「そういうものなのか?」
大人のレディーねぇ……。たった数週間会わないうちにナディアは変わっちまったな。お子ちゃまボディ以外は。
「何ジロジロ見てるんだ」
「いや、何でもない。じゃあエースのこと頼むわ」
「任せろ!」
ナディアは小さな胸を小さな拳でトンと叩いてそう言った。
すると、
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
こんなときに誰だ? 宅急便か?
俺は廊下の引き戸を閉めて居間が見えないようにし、制服を脱いでワイシャツ&ネクタイ姿になる。
「はーい」
俺がドアを開けた瞬間、
「Ciao!」
小さな黒ずくめの女の子が俺に飛びついてきた。
「ラナ!?」
「タカオミィ〜! 会いたかったのだ!」
ラナは俺にぎゅーっと抱きついてきて、左右のほっぺにそれぞれ1回ずつちゅーしてきた。さすがイタリア人(いや、イタリアガラスか)。スキンシップが過剰だな。ラナはかわいい女の子だからちょー嬉しいんだけどさ……。
俺はラナを抱っこしながら、
「よ、ようラナ。元気そうで何りよりだ」
と。
「ラナはすっごく元気なのだ! タカオミも元気だったかぁ?」
ラナは目をきらきら輝かせて聞いてきた。
「ああ、俺も元気だったぞ。ナディアに会いに来たんだろ? ならもう少しだけ待っててくれ。ちょっと取り込んでてな」
そう言いながら開きっぱなしの玄関のドアを閉めようとしたとき、俺は玄関の外に大きなキャリーバックがあるのがわかった。
「すごい荷物だな。先にホテルに置いてから来ればよかったのに」
「んお? 何を言っているのだ?」
「何って、そのままの意味だよ」
「ここが我とナディアのホテルだぞ?」
「え?」
「言ってる意味がわからんのか? このぼろっちぃ家が我らのホテルなのだ」
「泊まるの? ここに?」
「そうだ」
「誰がそんなこと……」
「ナディアだ。これからはウラジミールではなく、すべてナディアが考えて物事を決定するのだ」
ラナがそう言うと、居間の方から、
「そういうことだ。今日からしばらくよろしく頼んだぞ」
と、ナディアの声が聞こえてきた。
こうしてナディアとラナとの奇妙な共同生活が始まった。
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