第124話 歯
◾隆臣
俺とエースはMMAの装甲車両に揺られながら、3日前にミンチ殺人事件が発生した浅草の現場へ向かっていた。もちろん凛とジョーカーには先に帰ってもらっている。
あのあと俺はセーラー服の少女ににミレイの代わりに感謝の言葉を伝え、同時にミレイが押し倒したことを謝った。
少女は全然怒っていなかったので、その点に関してはよかった。
そして少女の名前は神楽詩葉で、台東区立上野中学校に通う3年生だということがわかった。
詩葉はすごく礼儀正しい子で、しっかり相槌をしてくれる上に常にニコニコしているから、話をしていて非常に心地よい。ミレイとは大違いだ。
ミレイはほとんど相槌してくれないから、聞いてるのかよくわからないし、俺と話すときは常にむっとしているから、話していて気持ちいいものではない。
ミレイが悪いとはいえ、さすがに言い過ぎたと俺も思っている。俺は女の子に対してかなり甘い方だ。なのにどうしてあんな厳しいこと言ってしまったのだろう。わからない。わからないけど、ミレイが心配だったんだ。中学3年生なんだから、当たり前のことは当たり前にできて欲しいと思ったから怒ってしまったんだ。
「大丈夫かなあいつ?」
「心配なの?」
つぶやいた俺にエースは首を傾げて聞いてきた。夜空色のポニーテールが振り子のようにぷらぷら揺れ動く。俺が猫なら確実にポニーテールに飛びついてたな。
「心配ってか、あいつあんなんだから絶対友達もいないだろ。最初はイライラしてたけど、なんかかわいそうに思えてきて」
「そっか。でもミレイもあのマンションに住んでるんだから、きっとすぐに会えるよ。そしたら話し合って仲直りできる!」
エースは手をぐっと握ってガッツポーズで言った。何でも前向きに考えられるエースは本当にすごいと思う。俺はエースのこういうところにいつも助けられてるな。
「だな」
「うん!」
エースは並びのいい白い歯を見せ、目を細めて言った。
そう言えばガイストって9歳か10歳の女の子の霊魂だけど、歯って生え変わるのかな? それともずっと乳歯と永久歯が混在した状態なのかな?
「なあエース、気になったことがあるんだけど」
「ん? なぁに?」
「ガイストの歯って生え変わるのか? それともずっとそのまま?」
「ガイストの身体的成長は皆無だからね。きっと乳歯は生え変わらないよ。もし抜けたとしても、また乳歯が生えてくると思う。怪我したのと同じで、まったく元通りに修復されちゃうんじゃないかな」
エースはほっぺに人差し指を置いて言った。かわいい仕草だ。なでなでしたい。
「やっぱそうなのか」
「どうしたの急に。歯なんかのことで」
「いやこの前、凛が抜けそうな歯があるって言ってて」
「うん。言ってたね」
「凛は成長しちゃうんだなあって」
「どゆこと?」
「子どもの成長は速いなあってことだよ」
子どもの成長は本当に一瞬だ。俺もそうだった。チビだったのにあっという間にこんなに大きく成長した。
凛も同じだ。今の凛は今しか見ることができない。俺はそれがすっげー悲しいんだ。儚さを感じるんだ。
そんなことを思っていると、エースは、
「私だって生きて成長していれば、誰もが驚く最強ぼでぃになれたんだよ! きっと! 才能はあると思うの!」
腰に手を当て薄っぺらい胸をぐぐぐと張った。すごい自信だな。これのどこに才能が隠されているのか問い質してみたい。
「そっか。そんなエースも見てみたいが、俺はそのままのエースが一番好きだぞ」
「ほんと!? 隆臣がそう言うならこのミニチュアぼでぃにもう何も文句言わないね!」
エースは目をキラキラさせて、本当にうれしそうに言った。夜空色の瞳に浮かぶキラキラが星のようだった。
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