第119話 朝ラッシュ
◾隆臣
俺、エース、凛、ジョーカー、ミレイの5人は山手線で上野に向かっていた。
車イスのジョーカーを満員電車に乗せるわけにはいかないので、ジョーカーには一旦霊魂化して俺の中に入ってもらい、駅に着いたらエースが複製した車イスに乗せる。
この際ジョーカーを凛の中に返さないのは、ジョーカーは右足首を骨折しているので、その修復に凛の魔力粒子が消費されないようにするためである。
でも俺の中なら、俺の体内由来の魔力粒子とジョーカーを構成する体内由来の魔力粒子は構成が違うので怪我の修復をしてやることはできないが、電車内でも安全かつ他に迷惑をかけることなく上野まで移動できる。ジョーカーもそれを理解してくれている。ちなみにエースにも霊魂化して俺の中にいてもらっている。満員に押し潰されるのはかわいそうだし、1人分でもスペースを確保する必要があるからな。
俺は凛が潰されないように守りながら満員電車に乗っているんだが、やばいぞ! ミレイが乗客にもみくちゃにされて目を回している。助けてあげなければ。
しかし足はほとんど動かせない。手を伸ばしてミレイ手を掴まなければ。
もう少し……あともう少しで届きそうなのに!
――ガタン!
車両が急に揺れた。
クソッ! 届きそうだったのに、今のでますます遠くなっちまった。ミレイの顔が苦しそうだ。このままだとかなりまずいぞ。
次の駅は新橋だが、ここで降りるしかなさそうだ。
まずはミレイをこっちまで引っ張らないといけないが、この距離はもう手が届きそうにない。
(エース、俺の身体能力を強化してくれ。ミレイをここまで連れてくる。あいつたぶんすっげー酔ってんだ。新橋で1回下ろしてやりたい)
俺は体内のエースにそう言った。
(あ、うん!)
エースが返事をすると、体の内側からパワーがみなぎってきた。
俺は人を掻き分けてミレイのところまで行き、ミレイの腕を掴んで引っぱり抱き寄せた。
ミレイは14歳の中学3年生だと言っていたが、凛より5、6センチ身長が高いだけで、小学生にしか見えない。
しかし、おっさんの加齢臭やおばさんの化粧臭さ、香水の変な臭いや汗臭いのが立ち込める中、ミレイからだけはすげーいい匂いがした。ずっと嗅いでいたくなるような――心が落ち着くいい匂いだ。
「大丈夫だぞミレイ。次で降りるからな。もう少し辛抱してくれ」
ミレイの声は聞こえなかったが、胸の中で小さく頷いたのがわかった。
To be continued!⇒
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