第118話 落し物
◾隆臣
凛が玄関のドアを開けた瞬間、
――ゴツン!
「あぅぁ」
何かにぶつかる音とかわいらしい声が聞こえてきた。
「いてて……」
「え? あ、ごめんなさいっ!」
おでこを両手で押さえた灰色の髪の毛の少女に、凛は慌ててぺこりぺこり謝った。
黒いライダースーツを着た小柄で華奢なこの灰髪の美少女……どこかで会ったような…………?
「あ! お前あのときの!」
そうだ思い出したぞ。こいつはエースとジョーカーの髪の毛を引き抜いて、透明化して逃げたやつだ。すっごい静電気がきたのも覚えている。
エースとジョーカーもそのことを思い出したようで、帽子をぐっと掴んで頭を守った。警戒のしかたが小動物みたいでかわいいなぁ。
「君の顔見ると無性に腹が立つんだよ。ねぇ隆臣、この子のほっぺたつねっていい?」
「ダメに決まってんだろ」
「わたしはこいつのただでさえちっちゃい背をもっと縮めてやりたいんだけど、ダメかしら?」
「当たり前だろ」
アホなことを言うエースとジョーカーに俺は呆れながら答えた。
髪の毛は女の命とか云うしな。女性にとっては、髪の毛をたった数本抜かれただけでも怒るものなのかもしれない。
おでこをさする少女に対して、
「お前もこのマンションに住んでんだな。俺は品川隆臣。こっちはガイストのエース」
「三鷹凛です。わたしのガイストのジョーカーです」
俺に続いて凛も少女に自己紹介をしてくれる。
すると少女は俺たちに背中を向けた。
少しだけ間が空いて、
「ミ、ミレイ……」
と、呟いた。
「ミレイっていうのか。同じマンションの住民として、これからよろしくな」
「ん……」
ミレイは小さく頷いた。
「それじゃあ俺たちは行くから。お前も学校遅刻するなよ」
俺はそう言い残して立ち去ろうとした。
しかし、ミレイが俺の制服をがしっと掴んできた。
「ん? なんだ?」
「……があるの」
「え?」
「お願いが! あるの!」
ミレイは思い切ったように言った。その声は鈴のように美しく、歌を歌ってもらいたいくらいだ。
「お、おう。俺ができる範囲でならなんでも協力してやるぞ」
ミレイとはこの前会ったばかりだが、仲良くなれる気がするんだ。友達や親友よりももっと仲良くなれる気が。
エースやジョーカーの様子を見るからに、どうやらそう思っているのは俺だけみたいだけど。
「えっと……」
ミレイは顔を桃色に染め、恥ずかしそうに俺の顔を見上げ、
「落し物を探して欲しい!」
「落し物? 何か失くしたのか?」
「カートリッジ……いや、カプセル。上野駅付近で落とした」
「そんなに大切なものなのか?」
カートリッジだかカプセルだか知らないが、わざわざ探すほどのものなのか。そう思い俺は尋ねた。
「うん。とっても」
ミレイは大きく頷く。
「おっけい。学校行くついでに見てってやる」
「ほんとう!?」
「嘘じゃない」
俺がミレイの落し物探しに付き合う方針で話を進めていると、
「今回ばかりは隆臣の意見には反対だよっ! こんなやつに付き合ってたらロクなことが起きない気がするっ!」
「わたしも探さないわよ。それにあんたはMMAの捜査に協力するんでしょ? そんな時間ないじゃない」
エースとジョーカーはぷりぷり怒ってしまった。
「女の子が目の前で困っているのに、見捨てられるわけねーんだよ。俺は」
俺の言葉にエースとジョーカーは顔を見合わせ、ぷっと吹き出して笑った。
「まったく隆臣は本当にお人好しだよね」
「違うわよエース。こいつみたいなのはお人好しじゃなくてロリコンって言うのよ」
「ロリコンじゃねーよ!」
ジョーカーの言葉を俺は全力で否定する。
俺はロリコンじゃない! ロリっ子依存性なんかじゃないんだ! たしかに小さな子は好きだ。男より女の方が好きだ。だからと言ってロリコンではない!
「ははは」
「ふふふ」
エースとジョーカーは愉快に笑った。
ちくしょうからかいやがって。でもそのかわいい笑顔に免じて許してやる!
「ミレイちゃん! わたしも手伝うからねぇ〜」
凛は自分よりも少し背の高いミレイの頭をなでなでし、年下に対する言葉遣いでそう言った。
凛が年上にタメ口使うなんて珍しいな。凛もミレイに何か感じるのかもしれないな。
煽られたと勘違いしてミレイは怒るかと思ったが、気持ちよさそうになでられていた。凛にはなでなでで人を気持ちよくするハンドパワーがあるのかもしれないな。
「はっ! ご、ごめんなさい! わたしとしたことが年上のお方に何たるご無礼を……! ほんとうにすみませんでしたっ!」
我に返った凛はまたぺこぺこ謝った。
ミレイも我に返り、また俺たちに背中を向けて、
「(あ……あ、あり……とぅ)」
声が小さすぎてなんて言ったかわからなかったが、きっとありがとうって言ったんだな。なんとなくわかる。
To be continued!⇒
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