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第117話 黄泉比良坂にて

◾凛


 わたしは死者に会うことができる。

 眠りに落ちたとき、わたしの意識は体から自由になれる。自由になった意識はどこにでも行ける。わたしは意図的に幽体離脱をすることができるのだ。

 そのことに気がついたのは、ジョーカーがわたしのガイストになるちょっと前だから、だいたい1年ちょっと前のことだ。

 最初はどうして自分の全身が見えるのだろうと思っていたが、次の朝にググってみたら、それが幽体離脱であるということがわかった。

 幽体離脱がちょっと楽しくなったわたしは、夜な夜な自分の体から抜け出し、知らない街や学園を探検したり、街を俯瞰してみたり、お父さんの研究所まで行ったりもした。

 とっても楽しくて、わたしは幽体離脱にハマってしまった。

 しかし幽体離脱をした次の朝は、決まって酷く疲労していた。恐らく幽体離脱にはかなりの体力を要するのだろう。

 そして疲労が蓄積し、わたしは学校で倒れてしまった。

 保健室で眠っていると、お父さんが大事な研究を抜け出して迎えに来てくれた。

 そのせいでお父さんの研究は仕切り直しになったのは言うまでもない。

 わたしは目が覚めてから、お父さんに泣いて謝った。でもお父さんは怒っていなかった。ただ、幽体離脱はほどほどに、としか言わなかった。

 その後しばらくは幽体離脱をしなかった。

 けれども、わたしは幽体離脱で一度行ってみたい場所があった。黄泉比良坂よもつひらさかである。

 そこはこの世とあの世の境目にあり、そのどちらにも属さない場所。そして死者に会うことができる場所なのだ。

 そこならお母さんに会えるんじゃないかとわたしは考えた。

 しかし黄泉比良坂は島根県にあり、とても夜のうちに行けるような場所ではない。

 でもわたしは、行きたい場所を想像すれば、そこに意識を飛ばすことができるのを知っていた。

 寝る前に山陰本線揖屋いや駅の周りの画像をたくさん見て、離脱後は揖屋駅を想像して、意識をそこに飛ばす。

 揖屋駅からは浮遊を利用して、歩くよりも速く黄泉比良坂へむかった。看板があったので、目的地には簡単にたどり着くことができた。

 たしかにそこの雰囲気は違った。山上からは冷たい風が吹いてきて、あまり呼吸をしたくない感じがした。

 現世うつしよでもなく幽世かくりよでもない世界。2つの世界の狭間の世界に到着したのだとすぐにわかった。

 古い矢印型の看板には、坂下を指して「現世」、坂上を指して「幽世」と書かれていた。

 目の前の鳥居には、人間とも妖怪ともつかぬ者が1人立っていた。


「あのー、お母さんに会いたいんですが……」


 と言うと、其の者は鳥居の前からゆっくりとよけてくれた。

 襲ってきそうな木々の間の坂を少し進むと、そこは宴会場だった。

 狭間の世界には生者、死者、妖怪が混在していて、みんなで楽しく酒を飲んだり、食べ物をつまんだり、踊ったりしていたのだ。

 なんだかわたしは拍子抜けだった。狭間の世界はきっと恐ろしい場所だと思っていたからだ。

 どうやらこの空間には古びた鳥居が2つあり、この鳥居で現世と狭間の世界、狭間の世界と幽世を分けているのだろう。

 わたしは幽世側の門番さんに頼んで、お母さんを呼んでもらった。

 何度も幽世門を行き来する者がいたが、わたしは誰がお母さんかすぐにわかった。

 髪の毛が雪のように白くて、瞳が赤い宝石のようにきれいで、何より美人だからだ。

 わたしはお母さんといっぱいおしゃべりしたり、いっぱい遊んでもらった。

 お母さんはほんとうにきれいで、お母さんの声はとてもやさしくて、お母さんのなでなではとても落ち着いて……お母さんと一緒にいると一番安心する。

 お母さんは大きくなったわたしに会えて嬉しいと言った。わたしもお母さんに会えてとってもうれしかった。

 空が明るくなると、わたしは体に戻らなくてはいけない。

 わたしはお母さんにお別れをして、自分の体に戻った。

 その後も何度か、幽体離脱をして黄泉比良坂に遊びに行った。

 みんなわたしのことを、お母さんがいなくてかわいそうだと言うけど、わたしは全然かわいそうじゃない。

 だってお母さんはすぐそばにいるから。あの世とこの世は繋がっているから。

 お父さんは死後のお母さんに会えないみたいだけど、わたしは今でも三鷹家は3人家族だと思っている。

 そして最近は家族が増えた。いつか本当の家族になって、みんなでお母さんに会いに黄泉比良坂に行きたいと思っている。



 To be continued!⇒

ご閲覧ありがとうございます!

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