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第110話 更木荘

◾隆臣


 結局第二次ヒトデVS団子戦争は和解に終わった。

 きっとヒトデVS団子戦争は必ず和解に終わるものなのだろうな。

 俺たちがこうして呑気に焼肉を食べている今も、この広い世界のどこかでは紛争で何人もの罪なき人々が亡くなっている。

 世界がヒトデ好きと団子好きだけなら、誰も争いで死ぬことはないのに。世界は残酷だ。




 いやー、うまかった! マージでうまかった! 久しぶりに飯で幸せを感じたぜ。

 肉が舌に触れた瞬間、電流が走ったんだ。そして脳内のリトル隆臣(天使)が告げた。「これ以上食べてはいけない。これ以上食べたら普通の肉に戻れなくなる」と。

 しかしそこでリトル隆臣(悪魔)が現れて、「こんな日にしか食えないんだから腹いっぱい食っちゃえよ」と言った。

 俺はしばらく逡巡した後、悪魔の言葉を聞き入れてしまったのだ。

 そしてリトル隆臣(天使)が言っていた通り、普通の肉に戻れるか今すごく心配だ。しばらくは麺か魚で游玄亭の味を思い出せないようにせねば。

 俺たちは10人でなんと合計48万8573円だった。一桁間違えたのかと思った。

 しかしおいしさはそれに見合ったもので、ここに来たのは間違いではなかった。

 会計を済ませた後は解散して、俺、エース、凛、ジョーカーの4人は有楽町駅に向かっていた。


「おいしかったですねっ!」


 凛はにこにこ笑顔で見上げてきた。なんだその顔! かわいすぎる!


「ああ、めちゃくちゃうまかったな!」


 ジョーカーの車イスを押しながら、俺も笑顔で返す。


「たかおみぃ〜、そこのセブンでスイーツ買ってこぉ?」


 ぽわぽわエースはセブンイレブンを指さしてぽわぽわ言った。ぽわぽわするほど満足したんだね。


「おう。いいぞ」


 てなわけで俺たちはセブンに寄ってスイーツを購入し、三鷹家に帰った。

 今日の出費……14万6780円。和也さんからもらった食費全額と、俺の貯金が少し切り崩されました。

 凛とジョーカーには申し訳ないが、明日からは節約レシピでいかせてもらおう。




 凛とジョーカーはいつもより1時間くらい早く寝たので、俺たちも1時間早く三鷹家を後にした。

 俺とエースは歩いて田町の自宅に向かう。

 そしてオンボロアパート更木さらき荘に帰ってきた。

 俺たちの部屋は203号室。オンボロとはいえ、一応トイレとバスは各部屋に設置されている。三鷹家に比べたら浴槽めっさちっさいけど。


「あら、今日は早いんだねぇ」


 と、ちょうど101号室から出てきたの節子せつこばぁが話しかけてくる。


「ただいま節子ばぁ。今日は仕事が早く終わったもんで」


「そうなのかい。ちょっと待ってなさい」


 節子ばぁは部屋に戻って小さな鍋を持って出てきた。


「肉じゃが作りすぎちゃったから、おすそ分け」


 と言って小さな鍋を差し出してくる。


「いいんですか?」


「いいってもんよ。死にかけのばぁさんにゃあ少し多すぎたのさ」


「いつもありがとうございます」


「ありがとっ」


 俺とエースは節子ばぁにお礼を言う。

 節子ばぁは今年で95歳の元気なおばあさんだ。

 自分では死にかけとか言っているけど、田町では有名なパワフルおばあさんで、あと10年は軽く生きているだろう。


「それじゃああたしゃあ銭湯にでも行こうかね。じゃあの隆臣ちゃん、一夏いちかちゃん」


「はい」


「じゃあね節子ちゃんっ!」


 節子ばぁはそう言ってプラスチック製の桶を片手にスタスタ更木荘を出て行った。

 エースと節子ばぁは友だちである。ただの友達ではなく、85年ぶりに再開した友だちだ。

 どういうことか。つまり、生前のエース……一夏と10歳の節子ばぁは同じ小学校に通っていて、その頃から仲がよかったということだ。

 こんなボロっちいアパートで運命の再会を果たすなんて、誰が想像していただろうか。いやー、エモい!

 俺とエースが節子ばぁを見送っていると、節子ばぁとは入れ違いに、


「くんくん。焼肉の匂いがする。これは……游玄亭だね?」


 と、103号室の不健康そうな女子大生の袴田はかまださんが帰ってきた。


「よくわかりましたね。袴田さんも游玄亭に行ったことあるんですか?」


「ああ、よくダクト飯を食いに行くよ」


 と、袴田さんは誇るように言った。


「ダクト飯?」


 首を傾げたエースに俺は、


「(しーっ! ダクト飯っていうのは、ダクトからの匂いをオカズにしてご飯を食べることなんだよ)」


「え〜!?」


 レジェンド春日考案のダクト飯のことを小声で教えてあげると、エースは目をまんまるにして驚いた。


「いやー、ダクト飯はイイぞぉ? 人の目は多少あるが、タダでオカズをもらえるんだからな。こんなに素晴らしいことはない。お前らの服に染み付いた匂いだけでも1週間はいける。ぜひここに身ぐるみを全部置いていってくれないか!?」


 謎多き袴田はまた謎のことを言った。エースは思いっきり引いている。


「なんてのは冗談だ。制服ちゃんとリセッシュしとけよ」


 袴田さんはそう言って大きなあくびをしながら103号室に入っていった。

 ちなみに俺とエースはファブリーズ派です。



 To be continued!⇒

ご閲覧ありがとうございます!

明日で第2部第1章の本編は終わりです!

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