転生しても俺はFラン冒険者で、って、え?最初からFランク?
「ナック?どのナック・エーフランのことかい?知らない訳がないだろう。」
おっちゃんは突然身を乗り出して、目を輝かせて語り始めた。
ナックについて、彼が延々と語ったことによると、
・本名はナック・エーフラン
・常に冷静沈着で、最強
・『建国の12英雄』のリーダー
・『栄光のラリア支部』の創設者
・ナガイル王国の初代グランドマスター
・転生魔法のテストに志願して転生
・死後、名誉Sランク、ナガイル王国公爵位 追贈
らしい。間に、やたらと「うちはナック様が創設者の凄い支部なんじゃ」と何回も自慢されてすこしムカついたが、俺のイメージが今どうなっているかは分かった。
確かに、一部の情報はあっている。名前はナックだし、ナガイル独立の頃に依頼を受けたし、一瞬だけグランドマスターもやったし、転生魔法で転生した。
だけど、あまりにも情報誇張され過ぎじゃないか!?
最強だったことなんてないし、『建国の12英雄』なんて呼ばれたことないし、別に転生魔法のテストに積極的に『志願』したわけじゃないし、Sランクとか公爵とかにされているのは初耳だし。
なんか、すごいことになっている、ということだけは分かった。絶対に、正確な情報の継承が行われていない。もしかしたら、幹部の間では伝達されているのかもしれないが、末端のレベルでは、伝説にされてしまっている。
もしここで、俺が「自分はナックだ」と言い出したら、偽物だと言われるか、精神療養院につれていかれるか、あるいは納得してもらったとしても、実物が俺みたいなのでは失望されるのがオチだろう。
これは、一度、管区本部まで行ってみた方がいいのかもしれない。
ここは、ラリアの近くなのだろうが、ラリアから王都ナガイルまでは馬車で3日はかかるんじゃないだろうか。ラリアがアスリア帝国との最前線に当たるため、王都との間の道は特に念入りに整備されていたが、それでも早馬で2日かかった。馬車ならなおさらかかるだろう。
だが、旅費が無い。足らないのではなく、文無しで転生したのだ。正直、今日寝るところすら怪しい。
だが、幸いにして今は昼間だ。今のうちに依頼をこなして稼げば、宿代くらいは用意できるだろう。
「おっちゃん、冒険者登録したいんだけど。」
「なんじゃ、坊主。ナック様の功績を聞いて憧れたか?」
「いや、まぁ。うん。」
憧れるも何も、俺が本人なのだから答えに迷う。だが、面倒な話をしないためにも、とりあえず頷いておいた。
「よし。名前は?年はいくつじゃ?文字は書けるか?かけるならサインするんじゃ。」
名前は、何と答えようか。ナックと言ったら、「英雄の名を借りる不届き者!」などと怒られかねない。だが、もしかしたら、英雄の名前が一般に広まっていて、町中に『ナック』がいて、当たり前な名前なのかもしれない。
いや、待てよ。なんでわざわざ自分の名前に気を使わなければいけないのだ。どう考えてもおかしな話だ。俺は、誰が何と言おうと、当然『ナック』だ。
「名前はナック。年はさん、いや、えーと、16。文字は書けるよ。」
36と言いそうになったが、今の自分の見た目を思い直して、16と言っておく。
俺は、差し出された冒険者登録届にサインして、冒険者登録をした。
登録届の、最初に貰えるランクの欄を見ると「Fランク」と書いてある。そう、最初は一番下のFランクから、って、えっ!?
いや待て、なんで届に書かれた登録時のランクがFランクなんだ?
Fランクは中堅冒険者だ。普通、冒険者登録するときは、一番下のKランクから始まる。
もしかして、転生したF級冒険者の俺だと分かっているのか?
「なんで、始まりがFランクなんだ?」
「自分は強いと思ってるのは、分かるがなぁ、坊主、最初はみんなここからスタートなんじゃ。それに直に現実を見るじゃろう。」
いや待て、いくら少数精鋭だといっても、スタートがFからなんてことがあるだろうか?しかも、試験も無しに、一発Fランクである。
ギルドも随分適当になったものだ。
「いや、それにしても、なんでFランクから?」
「最初は、一番下のFランクから。これは決まりじゃ。お前さんが、兵士出身とかだったならばCランクやBランクでもよいが、お前さんはただの少年じゃろ。いくら自分に自信があるちゅうても、一回F級冒険者としてがんばってみるんじゃ。」
兵士がBランク?全く訳が分からない。
一般的なHランク、歴戦の兵士はGランクというのがギルドでの相場だった。それがBランク?全くわけが分からない。
もし、兵士の強さがかつてと変わっていないとするならば、ギルドの冒険者のランクは5段階ずれて、弱体化している。
つまり、今のBランクは150年前のGランク相当で、かつてのFランクは今はきっとAランクなのだろう。だとするならば、ここに所属しているというC級冒険者も、Hランク、極めて一般的な冒険者でしかない。
支部も減り、知名度も落ち、登録者が激減し、そして登録者の質も大幅に下っているとしたならば……、
今のギルドは、かなりヤバイかもしれない。




