Fラン冒険者、とりあえず街のギルドに行く
小一時間探して見つけた建物は、傾きかけた粗末な小屋だった。
扉をノックするも返事がない。仕方が無いので、壊れかけの扉を慎重に開いた。
「ごめんくださーい。」
「なんじゃ、用か?」
真昼間にもかかわらず、薄暗い小屋の中、酒瓶を傾けるおじさんが返事をした。
おっさんが一人、昼間から飲んだくれるのがギルドだっけ?かろうじて読めるかどうかというような薄れた表札には、ギルドと書いてあったが、もしかして読み間違えたんじゃないだろうか。
「あのー、ここってギルドですよね?」
「いかにも。ナガイル管区ラリア支部のナド出張所じゃ。栄光のラリア支部じゃぞ。」
驚いた。ラリア支部。それは、俺が作った支部だ。
当時、今から170年くらい前かな、ナガイルという小さな国は、アスリア帝国を主に戴く公国から、自らの自治による王国となり、帝国からの完全独立を宣言したばかりだった。そのナガイル王国から、ギルドに依頼が届いたのだ。かつては荒事だけを得意としたギルドも、俺がいたころには銀行、金融、運送、統治、そして国家の顧問までをも行う一大組織となっていた。
そのギルドに持ち込まれたのは、アスリア帝国と戦ってナガイル王国を守る、という依頼だった。しかし、アスリア帝国は世界有数の陸軍を有する国家で、しかも時の皇帝<激帝>アスリア8世は自分を虚仮にしたものを絶対に許さない性格だった。
当然、そんな失敗確定のような依頼を受ける冒険者はおらず、その結果冒険者の数が集まらず、なおさら失敗の可能性が濃厚になるという悪循環に陥って、依頼の依頼主への差し戻しも目前に迫っていた。そうなれば、ギルド側がとる選択肢は一つしかない。
どこのギルドにも一人はいる古参のFランク冒険者を拝み倒すのだ。古参のFランク冒険者、通称『Fラン冒険者』も、純粋に自分の武芸だけではなく、ギルドへの長年の貢献も含めてFランクをもらっている以上、ギルドにお願いされたら断れない。
かくて、俺(と飲み友)はナガイル王国を守るという依頼に身を投じることとなってしまった。こんな依頼に集まったのは、拝み倒されたFランか、よほどの変人ばかりだったが、俺たちは何とか戦い抜き、ついにアスリア帝国を撤退させたのだった。
その時に、兵士として戦ってくれる冒険者を募集するために立ち上げたのが、ラリア支部だった。ギルドには、明確な総本部のようなものはない。ただ、国ごとの管区に分かれていて、管区本部とグランドマスターがいる。新しく立ち上げたラリア支部は、ナガイル管区の管区本部(一個しか支部が無かったのだから当然だ)となり、俺は一時期グランドマスターをしていた。
もっとも、ナガイル王国の首都イールにギルドができたことで、管区本部とグランドマスターの地位は持っていかれてしまった。
その後、ラリア支部も優秀な人に任せて、俺はまた一介のFラン冒険者に戻ったのだった。
「栄光のラリア支部、か。『栄光』などと名乗る割には、ここはボロっちく見えるけど。」
「ふん。いまやどこのギルドもボロボロじゃ。お前さんは、物語の中のギルドにあこがれてここに来たのかもしれんが、ギルドが輝いていたのは昔の話、今や物語の中だけじゃ。」
「にしても、栄光のラリア支部、ねぇ。」
俺がいたころのラリア支部は、変人と奇人に満ちていただけあって、たしかに活気はあったが、事実上の総本部と呼ばれていた無国管区のラジ本部――どこの国にも属さない島に作られたギルドの最大拠点――などと比べれば、『栄光』どころか塵に等しかった。
優秀な後任者に託したのが功を奏して、今のラリア支部はラジ本部のような大ギルドに成長したのだろうか。
「ラリア支部は籍を置く冒険者が80人もいるんじゃぞ。」
おっちゃんは、自慢げに言った。なんか、見ていて面白い、気さくなおっちゃんだ。
だが、80人とは……。
俺がいたころのギルドは、38国2000支部100万登録者を誇っていた。単純計算で、1支部500人だ。立派な、規模の大きい、あるいは『栄光』などと呼ばれる支部は、1万人以上いるような、首都にあるギルドや、ラジ本部のようなものだけだった。
それが今や100人にも満たない支部が『栄光』と呼ばれるらしい。支部自体の数が減っているらしい上に、登録者数100人で栄光と呼ばれるとなれば、ギルドの登録者数は、もはや10万をきるレベルなのではあるまいか?
俺は、80人と言うのは出張所に登録された者を除いているのではないか、という最後の希望をこめて、恐る恐る聞いた。
「それは、出張所も含めて?」
「あたりまえじゃ。ラリア支部は4つも出張所を持っているんじゃ。我がナド出張所は2番目に規模が大きいんじゃ。」
「じゃあ、ナド出張所の登録者は?」
「7人じゃ。C級もいるぞい。」
なんと!
ギルドの弱体化を嘆いていたが、C級がいるのなら話は別だ。C級は、非<加護>冒険者の最高位とまで言われたランクだ。才能と鍛錬で、魔法と武器を使いこなし、数百の兵士を一度に相手取って戦えた。<加護>さえ受けていればSランクに手が届いたかもしれないレベルの冒険者である。
こんな出張所にさえCランクがいるのだとしたら、今のギルドは少数精鋭主義なのかもしれない。それなら、有名でなくなっているのも説明がつく。
「すごいね。すごい。すばらしい。」
「じゃろうじゃろう。」
おっちゃんは酒瓶を揺らしてご機嫌だ。
ついでに、自分のことについても聞いてみよう。少数精鋭になったのなら、機密だった俺の情報も、もしかしたら各所に共有されているかもしれない。
「ナックって冒険者知ってる?」
やたらと説明回になってしまった…
<加護>については、そのうち出てきますのでしばらくお待ちください。
それにしても、冒険者・職員・支部の総体もギルドと呼ばれ、各支部もギルドと呼ばれる。ややこしいね。あ、呼んでるの俺か。
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