こうして、Fラン冒険者の俺は転生した
この世界には、金が欲しい冒険者と、助けてほしい依頼者を仲介するギルドがある。
ギルドに登録された冒険者たちは、その能力や功績に応じてS~Kの12ランクに振り分けられる。Sは勇者級で、当然<加護>を受けており、一人で一国を相手取って戦うことができるレベルである。Kは初心者で、武器の扱いがわかるかわからないか、というレベルである。
そして、各ギルドの名物オヤジとも呼ばれる、大抵どのギルド支部にも1人いて、初心者に戦闘の基礎を教えたりしているのが古参のFランクである。<加護>を受けているわけでもなく、<加護>を受けていない者たちの中でも突出して強いわけでもなく、ただ長年の経験とギルドへの貢献のみで中堅のランクをもらっている彼らは、血気盛んで優秀な若者たちから、嘲りをこめて、「Fラン冒険者」と呼ばれていた。
いっつもギルドに居るおっさんこと、Fランク冒険者ナックは、死んだ。といっても、冒険者にありがちな事故死でもないし、病死でもなく、ましてや老衰などではない。
世界で初めて開発された転生魔法。その被験体第一陣に、運良く選ばれたのだ。人類の永遠の夢である不老不死に一歩近づいた転生魔法の完成目前のデータ試験の被験体となったのである。もっとも、未だ完成前で転生する時期を指定できないという難点はあったが、それでもナックは魔法技術の発展のために試験に参加した。そしてナックは、一度死んだのである。
こうして、長年にわたってギルドに所属した割にパッとしなかったFランク冒険者ナックは、死んだ。
目が覚めると、街中だった。あらかじめ魔術師たちに教わっていた情報によると、俺は転生する瞬間までこの世界に存在しなかった新たな人間として転生する。年齢は若返って16歳くらい。
当然、新たな人間なので生まれも何もなく、身元不明だがギルドは誰でも受け入れるはずなので、問題ない。さらに、俺に関する引継ぎ資料が代々のギルド長に手渡されているはずだった。
ただ、何年後に転生するか、という一番大事なことだけは不明だった。
それにしても、何年たったのだろう。街並みはあまり変わっているように見えない。もっとも、ここが俺がかつて居た街であるどころか、行った事がある街である保証は全くないので、街並みはあてにならない。
仕方がないので、道行く人に聞いてみることにした。
「すいません、今年って何年でしたっけ?」
「あん?坊や若いのに物忘れかい?建国歴161年だよ。」
埃にまみれた服を身にまとった男が教えてくれた。
だが、161年だというが、建国歴と言われてもどこの国かがわからない。
「本当にすいませんが、正暦で教えていただけないでしょうか?」
「正歴なら2630年じゃないか?いや、31か?とにかく、それくらいだよ。」
なんということだ。正歴が日常的に使われていないようで、今年が正確に何年かも分からないようだ。それに、建国歴とは、どこの建国からなのだ?
だが、とにかく何年たったのかは分かった。俺が死んでから、150年だ。
「旅をしてるんで、この町がよく分からないのですが、ギルドってどこですか?」
「ギルドぉ?そんなものうちの街にはないんじゃないか?少なくとも、俺は覚えがないな。」
ギルドが無いかもしれない、だと?
150年たったから変わったのかもしれないが、あの頃は大抵の街には支部があった。38国2000支部がギルドのうたい文句だった。たとえ支部が無いような街や、村でさえも、おっちゃんが一人でやっているような出張所が置かれていた。
そして、誰もがギルドの場所を知っていた。ギルドは街に必要不可欠なものにして、街の中心拠点だったからだ。
それが、今やギルドの場所もわからず、あるかどうかすら不明だという。俺を転生魔法で送り出した、あの世界最大にして最強の組織――といっても組織としての一体感はあんまりなかったが――が、もはやその勢力を保っていないというのだろうか?
だとしたら大変困ったことになる。ギルドは、然るべき待遇を用意すると誓ったが、ギルドが無いんじゃその待遇も用意されようがない。
それに、(あんまりパッとしなかったものの)冒険者一筋で生きてきた俺には、他に手についた職が無い。
「おう君、ギルドなら確か裏通りのどっかにあったぞ。あっちだ、あっち。」
荷車を引いて通りかかったおっさんが教えてくれる。
「ありがとうございます。」
そう言うと、俺は早速、教えられた裏通りに足を向けた。
感想機能がちょっと変わったみたいですね。楽しみです。(圧力)




