菊花の宴
いつの間にか夕暮れが早くなって。
袖の長いカーディガンを羽織りたくなって。
なんだか辺りが静かで、虫の声が弱くなったことに気づく。
こんなに綺麗な月の夜は、菊の花弁を浮かべて一献、といきたいところだけど。
あいにく酒精とは相性が良くないようなので。
籠いっぱいの菊の花。
赤紫が鮮やかな、秋の色。
一つ手に掴み、花びらを指で挟んで一気にむしり取る。
力を入れなくても、軽く引っ張るだけで簡単に外れた。
一つ、また一つ、手に取ってはむしって。
むしむしむしむし。
容易にたくさん取れる感触が気持ち良い。
花びらをむしる、ほんの少しの背徳感が更に快感を増して。
むしむしむしむし。
ボウルの中、赤紫色の山ができた。
さっと茹でて、おひたしにする。
食べ物とは思えないほど、綺麗な色。
口に入れてみれば、シャキシャキとした歯触りとほのかな甘み。
食欲の秋と言うから。
花より団子、色気より食い気、だったりするけれど。
これなら一挙両得、一石二鳥。
風流を気取って、空腹も満たす、秋の夜かな。
※食用菊です。