見上げればそこに
空がずっと遠くそして青く見える。そんな景色を想像できますか?
モワッとした暑さで目を冷ました。汗をかくことはないが、起きた時にげんなりするそんな目覚めだった。地面は僕らを蒸すように熱くなっていた。
僕はたまらず外に出る。案の定、白い光がこれでもかと降り注いでいた。黒っぽい格好をしている僕の肌を太陽は容赦なく焼いていく。少し前まで涼しい風が吹いていたとはとても思えない。
顔を上げるといつもより随分と空は青く、そして高く感じた。雲ひとつない空は綺麗だが、私はその綺麗さとは裏腹にゾッと震えていた。あいつが出てくるのはこんな青く晴れた日が多いのだ。いや数えきれないほどたくさん出現する、あいつらといったほうが正しいのかもしれない。
私はいったん部屋に戻り、簡単に腹ごしらえをしながら出かける準備をした。家にある食料は底をつこうとしている。どうしてこんなタイミングで晴れになるのだ。雨なら遭遇する可能性もだいぶ低いし、逃げる場所も多いと言うのに。
だが背に腹は変えられない。食料調達をするために仲間を複数連れて家を出発した。幸いまだあいつらはいなかった。
「油断は禁物だが、朝が早いうちに急ごう。」
仲間に声をかけて、僕らは足をせわしく動かして目的地に進んだ。ほどなくしていくつか食べられそうなものを見つけることができた。これならしばらくは食料に苦労しなさそうだと幸運に感謝した。
仲間で手分けして持ち帰る準備を始めた。だが、聞きなれてしまった地響きを僕らが見逃すはずがない。
「来る。」
僕らは一斉に身構える。
『ギュギェー!!!ンギャー!!!』
寄声をあげ、地響きを起こしながら巨躯をとんでもないスピードで走らせてくる。
「散れ!まとまっていると踏まれるぞ!」
一旦食料を手放し、回避に専念する。一足で全員踏み潰されることだってある。だがよく見れば決して避けられないスピードではない。なんなく二体をやり過ごす。
むしろこのようなタイプは対処がしやすい。本当に怖いのは直接害意を持って、無慈悲な鉄槌を下してくる奴らだ。
『ア“ア―!!!ンリダァ!!!』
そしてそのような奴は必ず群の中にいる。歯向かおうとしても僕らに何ができると言うのか。我々に直接向かってくる敵意を必死で逃れるしかない。
「…!」
仲間が一人、掴まれた。彼の悲鳴は奴らの耳には届かない。満足げにすくっと立ち上がった奴は笑いながら、ブチっと彼を潰した。興味がなくなった破片をボトッと我々の目の前に捨てる。まるでその力の差を見せつけるかのように。
「畜生…!!」
このまま行ったら全員全滅だ。それくらいなら一矢報いてやる。残りの仲間には隠れるように言い、僕が戻らなかったら食料だけ回収して家に帰るように指示を出した。
「見ていろよ、この怪物め。」
地面に落ちている物に身を隠しながら、少しずつ足元に近づく。どうやら奴は他の個体と交信を図っており、一時的にこちらへの関心が外れたようだ。今しかない。一気に距離を詰め、足元からよじ登る。
奴らの足元はとても硬く、とてもじゃないが歯が立たない。弱点はこの硬い外殻をよじ登った先にある、肌色の部分だろう。そこを思い切り噛んで奴らを撃退した武勇伝を幾度となくじいちゃんから聞いている。
ようやくたどり着いた。恐る恐るその場所に足をかける。先ほどまで何も反応がなかったのに、掴まっている足が突然動き出した。
「やばい、気づかれたか…!?」
奴の手が探り探り、僕を探す。見つかったら終わりだ、直接見えないように隠れながら、急いでポイントを探る。よし、ここならこの逆立つような毛も少ない。
噛めば、流石に居場所がバレる。死ぬ可能性も限りなく高くなる。だがそれがなんだ。仲間の無念を晴らすように死ぬ気で噛み付いた。
『ィタァア!!!』
怪物が悲鳴をあげる。効いたか?とてもこれだけで倒せるとは思っていない。必死におりながら逃げる。
だが、無駄だった。外殻にたどり着く前に僕は、先ほどの仲間と同じように巨大な指に掴まれた。ああ、これが無力という感覚か。
体のどこにどう力を入れようが、ピクリとも動かない。頭だけかすかに動かすと、横目に仲間が餌を引っ張っているのが見えた。
「ばか、まだ早い…」
『アッイ!モォミゥシィ!!!』
「やめろぉー!!!」
僕の叫びも虚しく、もう片方の腕が仲間の元へ伸びる。どうせ死ぬなら何度でも噛んでやるよ。全身の力を呼び起こし、奴の手に噛み付いた。
再び悲鳴をあげながら、思い切り僕は投げ飛ばされた。吹っ飛びながら地面に叩きつけられた僕はしばらく動けなかった。
「やめろぉ…」
動けない僕は、食料も奪われ、仲間が蹂躙されていく様子をただ見ていることしかできなかった。
僕らが何をしたって言うんだ。お前にとっては必要もない必要もない小さな食料すら奪って、何の恨みがあるって言うんだ…
『ママー、いもむしさんひろったぁ!!』
『こらっ!そんなもの拾っちゃダメ!ポイしなさい!』
かすかに聞こえる奴らの歓喜の声が脳裏に響く。屈辱に震えながら体をよじる。
「くそっ、覚えていろよ…いつか必ず…」
そこで僕の意識は途切れた。
完
読んでくださりありがとうございます!いつもと異なる視点に立つと見える景色がまるで違います。