piece:2 昼休み
「ーーだから私はね、研究会でもぉぉっと大きな事をすべきだと思うのよ」
「…………じゃあまずお前が部活に来るところから始めなくちゃな」
昼休み。午前中の授業を終えた生徒達、教師達に与えられる休息時間。
教室、食堂、中庭、廊下、部室、体育館。各々がその一時間足らずで、それぞれの自由を謳歌する。
短いからこそ輝く、毎日の高校生活の清涼剤。
そんな中で二人の少年少女は、自分達の教室で弁当箱に箸を伸ばしていた。
「はぁぁぁ、ユウは本当に馬鹿ね」
その中の一角、どことなく淀んだ空気を察知したのか、明らかに人口密度の低い教室の窓際で、少女は心底呆れた声で、諭すように続けた。
「私はね、忙しいの。お分かり? お分かりでないのでしょうね。だったらこんな事聞かないわ。ユウなら分かってると思ったけど、期待外れも甚だしいわまったく……」
「えぇ…………、なんで僕がそこまで言われなくちゃならないんだよ。……僕が悪いの? なんでだよ意味分かんないよ。ただの事実じゃないか」
「だからアンタね。なぁんで私が部活に来ないと活動を拡げられないのよ。そんなのそっちが今の内にちょちょいとやって、私が帰った時にその手柄全部寄越せばいいだけじゃない」
「……鬼畜がすぎる」
「私だって遊んでるわけじゃないのよ」
「遊んでなかったらなんでもいいわけないだろ。……何でもかんでも首突っ込みすぎなんだ。自重フラグだぞ」
「何よ、せっかくの高校生活なんだから精一杯満喫してやろうってだけじゃない。なんか悪いの?」
「少なくともこれから割食う予定の僕達に悪い」
二人の論戦の怒涛の勢いは一向に衰えることなく、何故かその手は互いの弁当箱へと高速で伸びていた。
「今日の唐揚げ冷凍じゃないわね。おばさんの手作りなんて大当たりだわ。締め切り終わったの?」
「あぁ、一昨日終わったんだ。てか環さんの玉子焼きなんか違うな。チーズと……シソ? 美味い」
「そういえば『僕達』じゃないわよ。光栄な事だから喜んでくれて構わないわ。ーーもう一個頂き」
「……………割食うの僕だけかよ!! 何させる気だ!? ーーそれで最後な!!」
「大丈夫、命の危険は最小限よ」
「……メグのその境界線は一般常識から引き上げ過ぎて当てになんないんだって。…………せめて一般の子供が怪我なんてしないレベルのヌルゲーにしてくれ」
「ダメよ…………もぐもぐ」
「やっぱり危険じゃないか!! ーーてかそれ本当に最後の唐揚げ!!!」
「守るべきものからは常に目を離さない事ね。これが今日の教訓よ。これから毎日一つずつ、ユウは賢くなるわ」
「新コーナーが初回から悲劇すぎる件について!!」
「………………おーい」
裕也が悲嘆に暮れていると、すぐ隣から困ったような声がした。知らないが、どこかで見たことあるような男子生徒だ。学年章から先輩だと分かる。
「おっ、やっと気づいた。 いやぁなんかスマンなぁ昼飯時に」
「いや、別に構いませんけど。僕達に何か用ーー」
「あぁぁぁ忘れてたぁぁ!!!」
「そういうこっちゃ、瀬乃。分かったら生徒会室。ダッシュダッシュ」
慌ただしく弁当箱を鞄に押し込み、その過程で何に思い至ったのか、その後はある程度の速度で立ち上がり、適当にクラスメイトに声をかけながら出ていこうとする。
「メグ。今週の金曜は来ないと、部長に相当絞られるぞー」
分かってるー、と手を挙げながら教室を早足で出ていく。それに生徒会らしき男子生徒も続いた。
「……来ないフラグだよな……」
裕也はやれやれと、その嵐を見送って玉子焼きを頬張った。
なんだか不思議で、優しい味がした。