piece:6 ストーブ
「………………なにそれ?」
「なにって、見れば分かるでしょ。ストーブよストーブ」
少年は呆れ果てて溜め息をついた。
少女も呆れ果てて溜め息をついた。
ゴミがあった。
彼女が抱えている自身の胴体程もある物体は、なるほど、確かにストーブと呼ぶに値するのだろう。ただしその前に『途轍も無くボロっちい』とつくような。
だから、そこにはゴミがあった。
少女はよたよたと足元がおぼつかない様子で部室の入り口を通過し、奥まで行ってから、大雑把に放るようにその鉄塊で一角を占領する。
「…………え、使うの?」
「バカじゃないの」
罵倒される謂れはないが動機は分かる。ので、とりあえず窓を開け放ってみた。
開けっ放しだった入り口との間で形成された冷気のトンネルが、室内の気温を一気に氷点に近づける。予想以上に寒い、むしろ痛い。飛んできた拳も痛い。
力みすぎて窓の閉口に重低音を響かせながら
「チョコミント」
一言。家に余ってるから構わない。
「それで。みんなはまだ?」
「会誌の印刷に行ったよ。帰ってきたら綴じるからな」
「そう、一応報告だけしとこうと思ったんだけど…………あれ?」
「どした?」
「いや…………あぁ、なんか壊れてるのかしら、これ」
「そりゃそんだけボロかったらな………」
「いやー、まだこの子生きてるはずなんだけどー………ダメね」
暖房器具の最下部に突き出た点火レバーと思わしき出っ張りをガシュガシュ踏みつけてから、嘆息とともにドアの向こうを指さした。
「ゴー」
「やだよ」
つまり『用務員室に持っていけ』とのお達しだ。断固お断りである。
「あれれ〜メグちゃん来てる〜」
「本当だ。来たのならちゃんと作るの手伝っていけよ」
「うへー、なにこれ寒くない? 廊下と全然変わんないじゃん」
会誌の原稿を印刷しに出ていた部員が帰ってきた。手元には文芸部と合わせて十数人分のコピーが、束になって積み上がっていた。
すると一番後ろから飛び込んでくる影。
「あああ!!! メグお前、一昨日はよくも!!」
うるさい。やかましい。騒がしい。鬱陶しい。五月蝿い。
「はぁ……あんたねぇ、私の素晴らしい進化に置いてかれたからってメソメソメソメソ……ダサいわよ」
「んだと!! 来週はオレの超圧勝ですからー。ハットトリックで逆転サヨナラホームランでコールドゲームですからー。全身くまなく洗ってよく寝てよく食べてよくストレッチしてから待ってろ!!!」
「スポーツマンシップ欲張りすぎだろ……」
「おいお前ら。三人セットではしゃぐのはいいが、早くこっちを手伝え」
「一秒遅れるごとに仕事量が累乗されるんだってさ。おぉ怖い怖い」
「そういえばホッチキス新調したんですよ〜 力持ちさんです〜」
「部長。『ルイジョー』って何ですかー? サッカー選手ですかー」
「そうか、まずはお前に割り振られた冊子数が『五』だとするならなーー」
「「ハタラクノダイスキ!!」」
その身代わりは一級品。部長の暗い笑顔に照らされながら、裕也達も会誌の束をページごとに分けて長机に並べる。これを順番に重ねて仰々しい大きめのホッチキスで止めれば完成だ。
時おり手の中の文章に笑みをこぼし、会話のタネにしながらも、作業は着々と進んでゆく。
一名、途方もない深淵に両目を突っ込んでどうしてか数字をカウントしている可哀想な奴がいたが、そんな奴を誰も気にかけることなく、滞りなく手順は進みーー
「ね〜ね〜。なんかコレ煙出てーー」
ボフン
メルヘンとユーモアに満ちた愉快な音と
密室を満たす薄黒くて鼻を貫くナニカと
開け放った窓から吹き込む極寒の風刃と
宙を大げさに舞う巨大で純白の紙吹雪と
あとはーーもう何も言うまい。
「………あと……三十四…………」




