piece:3 コンビニ
少女は、ずっとそこにいた。
時刻はものの数分で天頂へ到達し、新たな一日を祝福せんと秒針を刻む。
しかし少女は、そこにいた。
終わりゆく一日には目もくれず、耳もかさず。穴ボコだらけのおにぎりコーナーにしゃがみこんでいた。
数分か数十分か。何かを待つというふうではなく、むしろ相手に待たせてやっている、といったふうな。余裕が漂う空気を纏って少女はそこにいた。なんて。
人気のない深夜帯のバイトをそれなりでこなす青年は、そう思うのだった。
少女は何かを呟いている。不機嫌ではないが無機質気味に。遠慮がないのだろう。それは会話をしているように聞こえた。電話もイヤホンも見ては取れないが。
青年が耳をそばだてると、何やら菓子類の話をしているようだ。同居人にアイスを買って帰るか否か、といった提案をされているふう。バイト青年は自身のそういった聞き耳と、その擦り合わせ能力に自信を持っていた。
しかし結局のところ、電話相手の提案は却下されたらしい。今日はもう糖分過多だろうとかなんとか呟いていた。バイトは本日の日付を確認し、心の中で舌打ちする。見知らぬ同居人に、少し妬く。
少女はそれで話に決着をつけたのか、猫がのびをするように立ち上がり、パンコーナー雑誌コーナー食玩コーナーアイスコーナーとぐるりと店内を回り、至って普通にレジへと赴く。
少し間を置いて、これでいいんですか? と青年は尋ねた。
疑問符を頭上に浮かべる少女は、青年にとってもどこか意外で、問いを咀嚼した少女は少し笑った。意外。
「趣味なんです。チョコミントアイス」
はぁ、と溜め息のように頷く。聞いておいてそれは無いだろうとバイトの中身が自責する。後悔はあるがそれで良かったとも思った。さっさと手順通りに精算してもらい、軽く一礼して終了だ。
だから手順通りでなかったのはレジから去るのが一拍遅れている少女の方だ。何かを見ている。
店内なんかおかしいですかね? 青年は砕け切ってない半端な口調で尋ねると、少女は少し申し訳なさそうに頬を緩めた。
「ここで、友達がバイトしてたんです、この前まで」
どこにでもありそうな理由だった。バイトは、俺と入れ違えかもしれないすね、と適当な予測を言葉にしてから、それ以上特に何も言えずにもう一礼し、少女を見送った。
少女はゆったりと軽快な足取りで自動ドアをくぐる。真夜中の外気はコートの上からも適度な刺激をもたらし、それはむき出しの手先と顔には痛みとなって現れる。
周囲は人口の明かりでそれなりに明るく、建物の窓からは生活の匂いが揺らめいていた。
かじかむ両手に吐息をかける。手袋は、忘れた。
夜空を見上げれば、そこには雲ひとつとしてなく。
半月が、満たされない孤独を背負って輝いている。
空気が揺れている。
街のナカミが揺れている。
今までが終わって、これからが始まる。
今までが始まって、これからが終わる。
「やな感じ」
右手のビニールには二つのチョコミントアイスが提がっていた。




