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エンマの休日  作者: セオミズノ
1/1

挿絵あり☆第1巻 休暇☆

挿絵(By みてみん)


「あ〜ええ天気や〜」

一人の青年は太陽の光と青い空に飢えていた。


「空、めっちゃキレイやし、気持ちええの〜」

「・・・ずっとドス黒い空ばっか見てきたわしにとっては・・・」

「うぅ〜ん」


「パラダイスやで!」

青年は両手を空に掲げ、開放感に浸っていた。


「にしても・・・シブヤっちゅうところは人間が多いの〜」


昼夜問わず賑あう渋谷。午後14時・・・。


「たった100年前はなんもなかった場所やと聞いてたけど」

「高い鉄の立てもんもぎょうさん立ってるし・・・」

「人間は究極に進化したの〜」


初めて渋谷に来た青年は、立ち並ぶビルを見つめ、

そして行き交う老略男女の人混みに視点を移した。


「あ〜今日のバイトめんどくせ〜」

「はいすいません、必ず明日には納品しますので」

「ねぇ〜今日の講義ブッチしない?」

「あ!いいね〜カラオケ行こ!」


「日本はほんまに平和や・・・」

「亜細亜地区でも日本人の罪人は5%くらいしかおらへんだしな・・・」


“ドン”

「ん?」


「おい、人にぶつかったら謝らんかい」

青年を冷たい視線を向ける女子高生3人。

「・・・」


「はぁ?何こいつ?ウケるんだけど!」

「ハロウィンはとっくに終わってるのにまだコスってるんだけど〜」

「スクランブルで一人ハロウィン・・・」

「ははは、ウケる〜」

娘、3人組は青年を見て笑いながら去っていった。


「こら!謝らんかい!」


「・・・」

——「全く笑いのツボがわからん・・・」——


「最近の娘はようわからん」

「第一、“はろうぃん”ってなんや?」

「なんかの和菓子か?」


「まぁええは、わしは今・・・有意義な時間を」


“プーーー”

「!?」


「おい!邪魔なんだよさっさとどけよ!」

車から一人の男が青年に向かって怒号を浴びせた。


「次から次へと・・・人間はほんま(せわ)しいの〜」


「ボケっとしてんじゃねーよ!ひき殺すぞこらぁ!?」


——「!!」——

青年は鬼の形相で車の運転席の男を睨んだ。


「殺すやとぉ!?」

「殺せるもんなら・・・殺してみぃ!」


と売り文句に買い文句で答えたが、

・・・歩行者の信号は赤なので悪いのは青年だ。


「あぁ!?」


“バタン”

一人の男が車から降りてきた。


「赤信号で突っ立てるのはテメェだろ!!」


青年は男に歩みよる・・・。


「そや、悪いのはわしや・・・」

青年に自覚はあった。


「そやけど・・・」

青年は男の鼻先3センチまで顔をつかずけた。


「それだけで貴様は人を殺すんか?」


男は青年の鬼の形相を間近にし、足が少しすくんだ・・・。


「は・・・はぁ? お前、何マジになってんだよ?」


「おお真面目や!第一・・・貴様に」

「わしは殺せへん!」


男は呆然と青年の顔を見つめ、青年の全身を上から下へと

視線を上下させマジマジと見つめた・・・


髪は肩まで伸びていて、全身着物・・・

尖った耳に・・・腕と足の爪は黒い。

足元には天狗が履くような底が長い下駄。


「おい・・・お前」

「“中二病”だろ?」


——!!

「はぁ!?誰が中二じゃ!」

「わしは3万980歳や!!!」


「!?」

男は、ぽか〜んとした表情を浮かべ青年を見つめた。

「やべ・・・お前、ガチ勢だろ?」


「はぁ?がちぜい?なんやそれ?」

「わしはそんな名前ちゃう・・」


青年は着物の裾をめくり、右の二の腕の刺青を

自慢げに男に見せた・・・


「どや?」

男は昔の古文書に書かれているような、変体仮名を見つめた・・・


「え・・・えん?読めねぇ」


「閻魔大王じゃボケ!!!」


——「????」——

「エンマ・・・ダイオウ?」


エンマは親指を立てた右手で自分を指し、自慢げに答えた。


「そや!わしは閻魔大王や!」


「・・・」

男は黙って青年に背を向けて、再び車に乗った。

“バン”


「おい・・・待たんかい!まだ話、終わってないやろ!?」


“ブ〜ン”

「・・・」


男は車のエンジンをかけ走り去ろうとした瞬間

エンマを見つめた・・・


「お前、病院行った方がいいぞ〜」


「はぁ?」

「なんで閻魔が病院行くねん!わしはめっちゃ元気じゃ!」


“ブオオオオオ〜ン”

「・・・」

「あ〜いう奴は絶対地獄行きやな」


そう・・・この青年は中二病ではなく、

地獄の神・・・

“閻魔大王”なのだ。


もちろん信じる人間などいない事は周知の通りだが。

なぜ・・・エンマが人間界にいるのか・・・


「あ!あかんあかん!」

エンマは重大な事に気づく。


「わしはこんな事しとる場合ちゃう」

「パンケーキ屋に行くんやった!」


そう・・・彼は今・・・

“有給休暇を消化している”


もちろんエンマの本業は、周知の通り。

——罪人を裁く事——


だが地獄界は単純に地獄という世界ではない。

欧米地区、欧州地区、亜細亜地区と各神々(かくかみがみ)の管轄があり、

彼、エンマは亜細亜地区担当の地獄界の神、閻魔大王。

しかし、彼は・・・1万年以上休暇を取っていない。


なぜなら、西暦2017年現在。

人類は70億人に達しようとしている。

特にこの100年、中国、インドなどの人口が増えた。

もちろんその分・・・罪人も増える。

つまり、エンマは・・・心的ストレスにより疲れていた。


「ふふ・・・」

エンマは含み笑を浮かべた。


「めっちゃ有給をエンジョイしたる!」


地獄界にいては気が休まらないエンマは

地獄に来た罪人から人間界のあらゆる情報を得て、


“人間界で休暇を取る事を選択した。”


そしてガッツポーズを決めている彼は今・・・


——人間界でパンケーキ屋を探している——


「そや!こう言う時は人間に聞くんが一番や!」

「確か・・・若い女子(おなご)に聞いた方がええってあの罪人言うてたな・・・」


エンマの前から一人の若い女子大生(JD)らしき女性が歩いてくる。

エンマは道を聞こうとしたが、

さっきバカにされた事を思い出し、エンマは声を掛けるのを躊躇する・・・


——「あかん、またバカにされるのも腹たつし・・・」

 「でもパンケーキ屋がどこにあるかわからんし」

 「かといって適当な店に入って・・・」——


「よっしゃ!ハラジュクがどこか聞くぞ!」


エンマは原宿のパンケーキ屋に行こうとしていた。

そして無駄なプライドを捨て、ゆっくりと拳を握りしめ・・・

JDに声をかける事を決心した。


エンマはぎこちない笑顔を浮かべ声をかけた。


「あっあのすいません〜」

小柄なJDはエンマの声に反応しエンマを見上げた。


「・・・?」

変な間が空き、エンマは勇気を振り絞った。


「あの〜ハラジュクのパンケーキ」


「え・・・?嘘でしょ?」

JDは焦った表情で答えた。


「は?なにがや?」


“バっ”

「!?」

突如。JDはエンマの顔すれすれを指差し、叫んだ——


「ああああああ!あのJK!」


「うるっさいねん!なんやジェイケイって!?」


エンマはJDが指をさす後方を見つめた。


「・・・」

——「!!!!???」——


「おっおい!なっなにしとんねん!あの娘!?」


「自殺よ!自殺!!」

エンマはJDに視線を向けたが、

すぐにJKに視線を戻した・・・


「おい・・・マジか」


JKはスクランブル交差点に立ち並ぶビルの1つ・・・

“MITAYA”と書かれた看板、40メール以上あるビルの屋上に

じっと佇んでいる——


「マジかよ!あいつ飛び降りる気か!?」

「警察呼んだ方がいいよ」

ビルの地上にはJDが叫んだせいで野次馬が集まってきた。


“カシャ、カシャ”

そして野次馬は、スマホのカメラで屋上に立つJKを撮影し始めた・・・。


「おい!お前らそんな箱なんか掲げて何しとんねん!」

「あの娘を説得せぇや!!」


「・・・」

エンマは冷たい視線を感じた。


そして、一人のチャラ男がエンマの問いに答えた。


「はぁ?あいつは死にたいんだから、死なせてあげればいいっしょ?」


「!」

「お・・・お前、何ちゅうことを」


「てか、動画の方がバズるかも!ユアチューブにアップしようぜ!」

「おっいいね〜!」


“カシャカシャカシャ”


エンマは周りにいる人間が

全員スマホを掲げている光景を見つめた・・・


——「あかん・・・ここにおる人間は全員クソや!」——


エンマは屋上に佇むJKを険しい表情で見つめた。


「・・・娘・・・」

「閻魔大王の前で命を絶つ事は・・・」

「大罪じゃ!!」


“バァ”


エンマは目の前のビルの扉に向かって駆け出した——


“ザザッ”

だがエンマは直ぐ(すぐさま)、立ち止まった。


——【ここなら、即死】——


——「!!??」——


“ピクピク”

エンマの尖った耳が小刻みに震えた。


「あの娘の声か・・・」

エンマは屋上にいるJKの口元に集中した。


普通の人間には聞こえないわずかな囁きも聞く事が出来る・・・

“地獄耳”


だが、エンマが神として得た能力の1つ。

この“地獄耳”がエンマの運命を翻弄(ほんろう)する・・・


——【ここなら・・・】——

——【あいつを殺せる!】——


「!?」

エンマの地獄耳には、予想外の言葉が飛び込んだ——

エンマは呆然と屋上のJKを見つめた・・・


——「殺せる・・・やと?」——



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