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7月7日、雨。

作者: 桜瀬

「なんでこんなことになってんの?」

姫は憤慨していた。


今日は7月7日。

年に一度のトクベツな日。

だというのに。


「10年連続雨って、なんなのよー!」


哀しいかな、七夕に振替はないのである。


――嗚呼、もう貴方の笑顔も優しい声も忘れてしまいそう。


なんて感傷にふけってみたりしても

雨が止んでくれるわけもなく。


加えてもう一つ

気に食わないことがあった。


さらさら揺れてる、アレである。


いや、笹飾りはいい。

二人を祝福してくれるという心意気は嬉しい。

幼子が小さな手で色紙を繋いで飾りを作る姿は健気で実に愛らしい。

しかし、だ。


「なんでさらっと願い事とか書いてるのよ」


年に一度のデートで浮かれモードに乗じれば

少々無茶ぶりしても大丈夫とか思われてるのか?

だが待ってほしい。


「・・・会えてないんですけど?」


こっちは超が何個つくと思ってるんだというレベルの遠距離な上に

一年に一度の逢瀬すらままならないというのに

なんで四六時中くっついてるようなリア充どものお願いが叶うというのか。

理不尽だ。


挙句、外国の赤い服を着た老人から

「ウチの木にも短冊ぶら下げるのやめてくれる?」

とかクレームまで来る始末。


溜息で雨雲を散らせたなら

どんなによかっただろう。


天帝の娘といえど

天候は簡単に変えられるものではない。

誰かに頼むとしても、降らせた話は聞くけれど

降りすぎた雨を止ませる話は聞いたことないし。


考えてみれば7月7日は梅雨時期。

雨が降って当然である。


もしやこれは私たちを会わせまいとするお父様の策略・・・?


いやいや、昔はこんなじゃなかったはず。


調べてみると、ずいぶん前に暦の数え方が変わっていたらしい。

月ではなく、太陽で数えた結果

以前に比べて1か月ほど前倒しになってしまったのだとか。

おのれ太陽暦。余計な真似を。


***


自室に戻ると、誰が持ち込んだのか

窓辺に笹飾りが置かれていた。


「・・・・・・」


風が吹くたび、笹の葉はさらさらと涼やかな音を立て

色とりどりの吹き流しがきらきらと揺れている。


その光景を見ているうちに

少し思いついたことがあって準備していると

俄かに部屋の外が騒がしくなった。


「織姫さまー。いらっしゃいますかー?」

「え?ちょっ、ちょっと待って」


待ってと言ったのに

話を聞かない侍女が慌ただしく扉を開く。


「・・・織姫さま?」

「な、何よ。・・・飾りが取れかかってたから直してただけよ」

「はぁ。あ、いえ。彦星さまが参られましたよ」

「本当に!?」


息を切らして外へ駆け出すと

果たして愛しい想い人が

数年前と少しも変わらぬ姿でそこに立っていた。


「お会いしとうございました・・・!!」

ひしとその胸に縋る。


「でもどうやってこちらへ?」

「これですよ」


差し出されたのは、笹の葉で作られた小さな舟だった。


「地上の笹飾りを見ているうちに、思いついたのです」


舟を作ろう、と。


「とはいえ、私は牛飼いの身。

 舟を造ることも操ることもすぐには思うままにならず

 ずいぶんお待たせしてしまいましたね」

「いいえ、いいえ。時間ならこの先いくらでもありますわ」


大きな腕に優しく包まれるだけで

離ればなれだった時間が埋まっていく気がした。


数時間後にはまた別れなければいけない運命だとしても。

一年経てばまた会えるのだ。



「たまには、地上の風習に乗ってみるのも悪くないものね」


窓辺に飾られた、大きな笹飾り。

風に踊る吹き流しに隠れるように

後から加えた1枚の短冊が揺れていた。

誤字修正。

晴れる地域もあるみたいですが、うちの地元は雨マークついてました(泣)


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