表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

Ep5:自給自足で時は過ぎ…

温泉が見つかったことで大司の生活水準は精神的な面でも大分向上した。

流石にあの巨鳥は何度も食えるものじゃなかったが、時々ブタモドキをニ、三匹なら余裕を持って

狩れるようになったし、新たに川でしゃけっぽい魚に山葵っぽい山菜も発見できた。

特に鮭っぽい魚は黄金リンゴの木のチップで燻製に出来たので

捕れるだけ捕った。ドラゴン達のすさまじい戦闘能力にも大分慣れた気もする。

颯爽と空を飛んで獣の群れを容易く火炎ブレスで焼き尽くす様にも……たぶん、慣れた気がする。


「桃栗三年柿八年。梅は酸い酸い十三年。梨柚子大馬鹿十八年。林檎ニコニコ二十五年…」


大司はそんなことを口走りながら森で見つけた食える果実や種を生らす木々の周りの雑木を

ドラゴン達と協力して伐採しまくってその木で策のようなものをこしらえ、

なんちゃって果樹園を作ることに成功もした。


「そろそろキノコも…いや、焦るな俺。桃栗三年柿八年。梅は酸い酸い十三年。

梨柚子大馬鹿十八年。林檎ニコニコ二十五年…」


大司の言っている言葉の意味は「果物は育てるのが大変なので"焦らず腐らず長い目で頑張れ"」

というのが真意である。木の下で戯れるドラゴン達を見ながら今後どうなっていくのか

大司は思案に耽ることにした。そろそろタバコの残り本数も心許こころもと無い。


◇Dragon's Party◇


大司とドラゴン達が暮らすこの地域では四季らしい四季どころか乾季や雨季みたいなものも無い

ある意味では安定した気候であるせいか、正直どれだけの月日が経ったか分からなかったので

温泉を見つけた日を一年の始まりの日としてねぐらの近くにあった大きな岩に

夜が明けるたびに傷をつけて日数を数えていた。


「今日で……一年…か」


大岩に付けた傷が365を超えたのを前にした大司の姿も大分変わっていた。

髭は難破船から見つけたナイフなどで剃れるが流石に散髪は難しく、

大司の髪は肩まで伸びる分までは放置するしかなかったのでセミロングとなり、

来ている服も最初のスーツやTシャツではなく下はパンツ一丁で

上には難破船から失敬した布地であつらえた

古代ローマのトガみたいなものを羽織った姿になっていた。そのせいか見た目が

ファンタジー世界の住人というより古代人みたいな見た目になっていた。


「クシュー」「グァッ」「クルルッ」「ゴァッ!」「キュッ」

「グルッ」「キィ」「ギィ」「ヴォ?」「ヴァー」「ギルルッ」


ドラゴンたちも大分大きくなっていた。平均体長は3mで、

オニキスやボーパルは全長5mに届きそうだし、一番小さなティーですら2mを超えている。


「よし、今日は何を話してやろうかな…?」


さかのぼると半年前ほどのことなのだが、気が利いたり時々甘えん坊だったりする

ドラゴン達に囲まれているとはいえ人恋しくなった大司は少しでも気を紛らわすため

難破船から回収していた本の類を音読するようになっていた。それを聞いていたスイなどの

ドラゴン達の中では特に賢いものが大司の物語に反応を示すようになったのだ。

それが大司も気に入ったのか、ドラゴン達が喜ぶ話は何度も聞かせるようになった。

流石に見つけた本の類は全部読み尽くしてしまったので、今度は大司は覚えている限りの

ラノベやサーガ、伝奇モノにホラー(一部除いて大不評)やラブコメなんかを

寝物語として話して聞かせたのだ。


そしてある日、大司の脳内物語のネタが底をつき始めた頃のこと…


「ォ…ゥ…ァ」

「ん?」


おもむろにゆったりと近づいてきたスイが優しげな瞳で口を小さく動かし始める。

よく見ると他のドラゴン達も似たようなことをしている。特にオニキスは何だか必死そうだ。


「どうしたんだお前ら?!」


考えてみれば大司はドラゴン達の生態をまるで知らない。今までが順調すぎたのではないかと

今になって大司は後悔の念にさいなまれる。最強クラスのドラゴンとて今まで一緒に暮らしてみて

わかったように一つの命を持った人間と同じ動物なのだ。何かしらの病気やら抗い難い習性なんてのが

あったとしてもおかしくない。下手をすれば地球基準とは違ってこっちのドラゴンは

実は短命なのかもしれない…そう思うと大司は取り乱してしまう。


「ああ畜生! どうすりゃいいんだ?!」


自分自身もそうだが、怪我はともかく未知なる病気への対策を殆どしてなかったため備えも無い。

とにかく体をさするなりどうにかするべきではと大司はひとまずスイに近寄ったその時、


「おとう…さま…お父様」

「ち、ち…父…」

「とーちゃん…父ちゃん」

「ぱぱ…ごぁッ! パ、パパ…!」

「おとーさ、ん…おとーさん…」

「お、やじぃ…親父ぃ」

「ちちうえ!」「とうさん!」

「おとうさん…ふぁ~ぁぁ…」

「おとさん?」

「ととさま…」


「ヘァッ!?」


大司は耳を疑った。ドラゴン達が明らかに人の言葉を喋ったのだ。

最初だけなら空耳で済ませたかもしれないが、ドラゴン達は何度も反芻して

あっという間にしっかり聞き取れる発音になったのだ。


「お父様……やっと…、やっと言葉を覚えることが出来ました!」(スイ)

「父、今日はブルーオーガの続編が聞きたい」(レト)

「えー…おれソレ嫌いだわー」(キイ)

「パパ! 私いつもの怪獣王がいいッ!!」(オニキス)

「おとーさん…今日は一緒に寝ても良い?」(ヴァイス)

「親父ぃ…たまには歌でもいいんだよ?」(ルゥ)

「「双子が主人公なら何でもいい!!」」(キーラ&ギーラ)

「ふぁぁぁ~ぁ…難しい話で…すぐ眠れるから…」(ボーパル)

「今日は居酒屋が出てくる物語を所望するぞ、おとさん」(マーナ)

「我が望むは…復活の唯一皇帝~世界再編統一編~唯一つ!」(ティー)


「キイイイエエエエアアアアシャベッタアアアアアアアアアア!!?」


思っていたことと真逆ナナメ上の状況に大司は奇声しか出なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ