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ゲームキャラの現実世界転生記  作者: 矢野 光輔
9/21

妻への思いと妾候補

先日、漣先輩の父親から「娘を貰ってほしい」と言われた。

多少混乱したが、とりあえず理由を聞いてみた。

師範と師範代の理由は「武道の達人ならば漣家にぜひ欲しい」だった。

婿入りしてほしいということだろう。

先輩の理由は「助けに来たその雄姿に惚れた」とのことだ。

貞操の危機を救ってくれた相手ならば、好きになっても変ではないかもしれないが、よく考えてからにした方が良いと思う。

以前テレビで知ったが、「吊り橋効果」というものがあって、特異な環境での恐怖・緊張による興奮を好意と勘違いする場合があるらしい。

今回の事件での状況はそれに近いと思う。

しかし、それを伝えたのに3人は意見を変えなかった。

逆に誠実だと受け取られてしまった。

面倒事になりそうだったので、ハッキリと断っておいた。

いつも通りの平穏な日常に戻りたかった。

しかし、私の願いは叶わなかった。


「や。陸くん。今帰り?」

部活が終わり帰ろうとしたら、校門に漣先輩が立っていた。

明らかに私を待っていたようだ。

「・・・これから道場に稽古に行きますが。」

先日の婚約騒動から漣先輩はなるべく私と一緒にいようと行動していた。

学校では、「最近頻繁に安達陸を待つ女子高生がいる」という話が広まり、学友に質問されたりしている。

思春期の男子中学生からしたら、中二の男子に年上の恋人がいるという話は腹の立つことかもしれない。

いじめにでも発展したら、正直困る。

対応としては、私の胡散臭さをアピールした。前世とか転生の話だ。

世にはよくは知らないが、「中二病」という思春期に掛かる精神疾患があるらしい。

運良く私は今中学二年生だ。世間的に妄想逞しい時期だろう。

先日の私の発言を妄想話・悪質な冗談にしようと試みた。

無駄だったが・・・。

後で知ったが、師範と師範代は超常現象の類を信じるタイプで、前世の話や転生もあると思っているらしい。その手の番組も欠かさず見ているらしい。

道理で私の話をあっさり信じたわけだ。

師範と師範代に意見を覆らせることは難しいかもしれない。

しかし、先輩本人が断れば話は別だ。

先輩ともっとこの件について話をするべきだと思う。思っている。思っているのだが・・・。

「漣先輩。話があるのですが。」

「陸くん。憩って呼んでくれると嬉しいな。」

私の言葉を遮り、先輩から熱い眼差しで言われた。

しかも私と肩が触れ合いそうな距離まで近づいてこられた。

傍から見れば仲睦まじい恋人としか見えないだろう。

「・・・。」

拒絶することは出来るのだが、未だに拒絶出来ていない。

創造主に設定された人格にあった「超紳士」「女の敵は許さない」という部分が影響しているのか、女性全般に対して強く言えないのだ。

断る明確な理由はある。

私は≪WEO≫でムーンラビット様の創造されたルナと結婚している。

創造主も快くお認めになったことだ。

人格設定でも「愛妻家」「ラブラブな2人である」とされている。

勘違いしてはいけないが、設定だから愛しているわけではない。

戦いの際にもルナは私を助けてくれたし、ギルドにいる時も2人の友好は結ばれていた。

今もルナへの大切だという思いは変わらない。

純粋に好きなのだ。

ただ、この世界に転生しているかは分からない現状では迂闊なことは出来ない。

転生していないのであれば漣先輩と付き合うという道もあるだろう。

しかし、後に転生していると判明したら不倫となる。

それはしたくなかった。

「・・・先輩。私には前世で愛する妻がいました。

私と同じようにこの世界に転生しているかもしれません。今も思いは変わりません。

今先輩と付き合えばそれは不倫になります。なので、先輩の気持ちには答えられません。許して下さい。」

あまり感情を込めずに淡々と言った。やっと言うことが出来た。

漣先輩には酷だが、これで諦めてくれるだろう。

そう思いながら先輩の目を見た。

「安心して。お妾さんでも大丈夫だから。私の人生の終わりが陸くんの傍であればそれで良いの。

あと、憩って呼んでね。」

明るい笑顔でそう言いながら、腕を絡めてこられた。

手強い。

そう思った。



しつこく名前で呼ぶように言われたので、「憩さん」で妥協してもらったある日。

憩さんから買い物に誘われた。正直気乗りしない。

ルナへの後ろめたさを凄く感じる。

妹の舞に彼女と最近やけに親密だと知られ、蔑んだ目で見られた。

男子中学生が女子高生と付き合っているというのは、社会的にアウトなのだろう。

「兄さん不潔。爆発したら?」

付き合っていないのに、そう言われた。理不尽さを感じる。

しかし、彼女を無下にも出来ないので、仕方なく買い物に付き合うことにした。

「陸がJKと買い物か・・・。将来有望だな。プレイボーイになるかもしれん。漣さん家の娘さんは良い子だし、ナイスバディなスポーツ系お姉さんだ。その娘を攻略かー。萌えるな!!」

「陸、ゴム要る?安易な行動は女の子を不幸にしちゃうからね?優しくするのよ?あと、不良に絡まれたら必ず倒すこと。トゥルーエンドへ行くための必須攻略イベントだからね。倒した人数と時間が鍵よ!!」

憩さんと買い物に行くと知った両親から謎の応援を受けた。


駅前で憩さんと待ち合わせた。

道場に迎えに行くと言ったのだが、後で合流したいと言われた。

よく分からないがそれが様式美らしい。

待ち合わせ場所に到着してから、周囲を何気なく眺めていると、少し離れた所にいのとくわを見つけた。

デートという雰囲気ではなかったので、2人も誰かと待ち合わせだろう。

私には気づいていないようだった。

声を掛けようかと思った時に、憩さんに肩を叩かれた。

「やあ陸くん。待った?」

「いいえ、今来たところですよ。」

「今の会話はテンプレだよね。でも、そこが良い!古き良き文化!」

よく分からないがはしゃいでいるようだ。ノリが両親に似ている。

憩さんの服装は白を基調としていて、薄手のカーディガンを羽織っていた。清楚な感じがしている。

「良く似合ってますね。道着や制服とはまた違った憩さんが見られて嬉しいですよ。」

「わわ!まず服を褒めるって、ベタだと思ったんだけど、意外と威力があるね・・・。」

とてもはしゃいでいるようだ。

そのままショッピングモールへ向かうことになった。

出発する時にいのとくわがいた方を見ると、見慣れない女性と合流していた。

おそらく私と同年代だろう。黒い長髪で、目鼻立ちが整っている。日本人形のような雰囲気を纏っていた。

いのとくわは私服だったのに、彼女は制服姿だった。

見慣れない制服なので少し離れた学校のものだろう。

どういう接点があるのか分からないが、いのとくわも親しげに笑っていた。

見慣れない少女も嬉しそうに笑っていた。

最後に見た彼女の笑顔に見覚えがあるような気が、何故かした。


買い物は無事に終わった。

途中、憩さんが化粧品売り場や下着売り場にまで私を連れていき、他の女性の変な視線に晒されたが。

「寝る時はシャネルの5番」とか「勝負下着」とか言って興奮気味だったが、その後の食事では落ち着いてくれていた。

彼女に食事代を払うと言われたが、あまり小遣いを使わず貯めていたので私が支払った。

何やら感動していた様子だったが、問題は無いだろう。

今日は化粧品と女性用下着は大変高価なのだと学んだ。

将来くわが女性に贈り物を送る際にでも「やめておけ」と言える。

そんなことを思いながら憩さんを自宅前まで送り届けた。

何やら憩さんがソワソワしながら上目遣いで私を見ていたが、よく分からなかったのでそのまま別れた。

憩さんの無念そうな顔が印象的だった。


家までの帰り道、妙な気配に襲われた。

何かのテリトリーに入ったような感じだった。

見渡すと誰もいない。

夕暮れ時なのだからそれなりに人がいてもいいはずなのに、人気が無い。

ふと前を見ると誰か立っていた。

よく見ると、昼間いのとくわと会っていた制服の少女だ。

逆光で顔はよく見えないが、微笑んでいるような怒っているような、不思議な表情だった。

「・・・僕に何か用ですか?」

やや緊張した面持ちで問いかけた。

「うーん。分からないかなー?仕方ないのかなー?しょうがないのかなー?」

見た目とは裏腹に、間延びした軽い口調だった。

「まあ、騎士だったからしょうがないよねー。」

その言葉にびくりと身体が動いた。

彼女は妖艶に微笑んで、こう言った。


「久しぶりリック。元気にしてた?」

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