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ゲームキャラの現実世界転生記  作者: 矢野 光輔
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危険な気配

いの指導の下で行われた猛勉強のおかげで、波はあるが学力は中の上ほどになった。

正直、中学受験でそこまでしなくても良いと思ったのだが、いのの強引さには抗えなかった。

くわも同じだ。

そんなことが二年ほど・・・苦行に近い時間が流れた。

結果、受験にはなんとか合格。

いのとくわと中学も同じとなり、私たちの縁はまだ続く予感がした。


中学に入学して2人は直ぐにやりたいことが見つかったようだ。

いのは陸上部に入り、さらに生徒会会計になった。

くわはバスケ部に入り、ポイントゲッターとして活躍している。

私は合気道部に入った。だが、部員が少なく、放課後は体育館より道場に通うことの方が多い。

時間はあまり合わないし、やりたいこともバラバラだが、それでも私たち3人は何故か仲が良かった。


「りー。合気道部は大会で好成績を出さないと、部費が今より少なくなるからね。あと、部員集めも頑張んなよ。」

いのは生徒会会計として声をかけてくれる。

「りー。バッシュって高いって知ってた?一足で眼鏡のフレーム買えそうなんだけど。どこに行ってもお金が必要で嫌になるよ。ところで、そろそろ眼鏡掛けない?眼鏡人口をアップさせたいんだ。」

くわは休み時間に愚痴や世間話などをしに来る。

聞いた話によると、

いのは生徒会でもリーダーシップを発揮しているらしく、生徒会長よりも発言権があるらしい。生徒会でも怖いイメージを持たれているらしく、鬼会計として有名になりつつある。

くわは一年生にして、レギュラー候補になるぐらい活躍している。練習試合を見学に行ったら、正確なシュート、パス回しの上手さ、コート全体を広い視野で見ているようで驚いた。ただ、体格は良いのにパワーが足りず、リバウンドなどは下手だった。

私も部活には出ているが、どうやら部内では私が一番強いようで、先輩や同級生の指導役になってしまった。正直教えることに自信がないので、道場で教わったことをそのまま教え、組手の練習相手になるぐらいしかしていない。顧問の先生は他の部活との掛け持ちらしく、あまり来てくれない。

部活動では、やや不本意な状況だが、概ね私の中学生活は良好だ。


放課後、私は道場へ向かっていた。

道中声を掛けられた。ついでに頭を軽く叩かれた。

「やあ、りーくん。今からウチに来るの?」

声を掛けてきたのは、私が通う道場の娘さんで、名前は漣憩さざなみ いこいさんだ。

長髪をポニーテールにしている快活な女子高生だ。

目鼻立ちも整っていて、間違いなく美人に部類される。高校生の中でも背が高く、胸も大きいので、道場に通う男性陣の人気も高い。道場以外でも彼女を目で追う人は多いらしい。

以前、くわが道場に来た時、私を「りー」と呼んだのを聞いて気に入ったらしく、以後私のこともそう呼ぶようになった。

「はい。漣先輩、今日もお手柔らかにお願いします。」

そう言って軽くお辞儀をした。

「お手柔らかにしたら、上達出来ないでしょ?厳しくするからね。」

漣先輩が爽やかな笑顔をしながら私の頭を粗っぽく撫でてきた。

「それに、お爺ちゃんとお父さんは、りーくんは実力を隠してるんじゃないかって言ってるし。私も何となくだけど、りーくんがぎこちなく戦っているような気がするんだよね。」

どうやら気付かれかけているようだ。

私は成長するにつれて、腕力・体力・器用さ・敏捷性が急上昇していた。

今現在、外見上はやや筋肉のある普通の中学生だが、戦闘能力は大人の格闘家と互角以上だと推測している。さらにスキルを使用すれば、熊や虎も倒せるだろう。

上手く隠していると思ったのだが、道場の師範と師範代も侮れない存在だ。

「・・・正直同年代との組手は物足りない感じはしてます。でも、大人との組手は身長差があってしにくいんです。僕の身長がもう少し伸びたら、大人の先輩方や師範代に全力で当たっていきますよ。」

漣先輩は今時珍しいくらい純粋な女性と聞いている。彼女の言い分を全て否定するより、一部肯定した方が彼女も納得するだろう。

「そっかー!りーくんは努力家だね!偉い!」

また頭を乱暴に撫でられた。

抵抗できないのは、何となく漣先輩が母に似ているからだろう。褒め方が過剰気味なところなどが似ている。

そんなやり取りをしながら私たちは道場へ向かった。


「ただいま。」

道場での稽古を終え、帰宅した私を母が慌てた様子で迎えてくれた。

「良かった、陸。無事みたいね。舞もさっき帰ってきたし、本当に良かった・・・。」

「何かあったの?事件とか?」

さすがに母の様子がおかしいので尋ねた。

「昼過ぎに連絡網が回ってきてね、隣町で誘拐未遂事件があったらしいの。女子高生が車に連れ込まれかけたらしくって・・・。」

これは由々しき事態だろう。隣町で起きたなら、次はこの町で起こってもおかしくはない。

私個人は誘拐されても大丈夫かもしれないが、舞はまだ小学生で、集団下校しているとしても油断は出来ない。

詳しく母に話を聞くと、被害にあった女性は、高校でも有名な美人。犯人は、大型車に乗っていて、複数の男性、全員年齢は若く、顔も隠していなかったらしい。しかも、白昼堂々人通りのある道で犯行に及んだというから、驚きだ。

短絡的な犯行で、馬鹿のやることだろう。

やはりどこの世界でも法を犯す者は必ず出てくるのだろう。

この世界についての情報は沢山得ているので、世界が美しいばかりではないのは分かっているが、せめて自分の手の届く範囲だけは美しい世界のままであってほしいものだ。

「あ~、心配だわ~。うちの天使たちが怖い目に遭いそうで~。」

そんなことを言いながら、母が私の頭を抱きしめながら高速で撫でる。

「・・・。」

されるがままになっていると、居間から舞が顔を出してきた。

見ると、舞の頭の毛がグチャグチャになっていて、疲れた顔をしていた。

「・・・。」

先に母の洗礼を受けたらしいことを私も理解した。


母の心配をよそに、その後の私の日常は平和なものだった。

家族も隣人も、学校の誰かが被害に遭うことは無かった。

だが、誘拐未遂をした連中は見つからなかった。

犯行に使われた車は盗難車で、町から離れた林道に乗り捨ててあったらしい。

目撃者の証言や防犯カメラの映像を調べても、犯人は捕まらなかった。


ある日、道場での稽古を終え他の門下生と共に門を出た時、漣先輩に声を掛けられた。

「それじゃりーくん、気をつけて帰るんだよ。」

「ありがとうございます。では、また明日。」

門の外まで見送りの出てくれた先輩にお辞儀を返し、帰宅の途に就こうとした。


その時、不快な気配を感じ振り返った。


少し離れた所に若い男が立っていて、携帯を弄りながらタバコを吸っていた。

こちらを見ているような気がした。

正しくは、漣先輩を見ているような・・・、品定めしているような粘着的な目線だった。

<危険察知:上級>のスキルを持っているが、今までは後ろから母に抱きしめられたり、くわに背中を叩かれたりする時に事前に察知するくらいしか効果を発揮しなかった。

しかし、<危険察知:上級>は、もっと察知対象が広く、悪意や敵意を持つ者にも反応するのかもしれない。

ということは、あの男は私や周りにいる誰かに危害を加える可能性があるのではないか?

すぐさま、誘拐未遂犯のことが頭に浮かんだ。

私が男をジッと見ていると、男は道を曲がり視界から消えた。

私はスキルの効果を信じている。

<危険察知:上級>で反応したならば、あの男は犯罪者という前提で考えるべきだ。

「漣先輩。さっきあそこにいた若い男が僕たちを見てました。師範や警察に伝えて、注意するように言ってください。前に話題に上がった誘拐犯かもしれないですよ。僕も親に言っておきます。」

「え!?そうなの?分かった。伝えておく!」

そんな会話をしてから、不吉な予感を覚えながら私は帰宅した。


すぐに不吉な予感は的中する。

数日後、漣先輩が誘拐されたからだ。


私はそれを道場の仲間から聞き、すぐさま動いた。

町外れの森近くを目指して、<友情検索>で探りながら一直線に走っていた。

何故その方角に向かったのか振り返ると、知らないうちにスキルが発動したのだろう。

<第六感:中級>というスキルだ。

≪WEO≫では、時々突然地中のアイテムを探知したり、ボスの弱点を知ることが出来るスキルだ。

この世界では、野生の勘という形で効果を発揮したようだ。


一報を聞いてから数十分。

町外れの森に入り、少しすると黒い大型車が廃屋の前に止まっていた。

風化しかけている廃屋の前に、若い男が立っている。明らかに不審だ。

「なんだてめえ。さっさと失せ・・・ぐぶっ!」

近づいて、さっさと見張りを殴り倒す。ついでにスキルも使っておく。

事前に<友情検索>を行い、廃屋内に漣先輩がいることは分かっていた。

扉を開け、廃屋に入った時、


私は冷静にその光景を見ていたのを覚えている。


若い男が6人。

口を押さえている男。右手と右足を押さえている男。左手と左足を押さえている男。携帯で撮影をしている男。両足を押し開いている男。順番待ちらしき男。


見知った女性が1人。

男たちに仰向けにされ、服も下着も剥ぎ取られ、肌を露わにした涙を流す漣先輩。


怒りも悲しみも恐怖もなく、私は創造主の尊い言葉を口にしていた。


「汚物は消毒だ。」

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