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ゲームキャラの現実世界転生記  作者: 矢野 光輔
4/21

陸の成長

今の家族との距離が近づいたと感じた。

平和な世界の人間として生活するということに奇妙な感覚もした。

しかし、本当に早いもので五年が経った。

私は10歳になった。

成長に伴い、≪WEO≫時代とまでは言えないが、かなり強くなった実感がある。

全力を出しての計測はしていないが、小学四年生では、非常に強い部類に入るだろう。

全力を出すと異常に思われるので、他の生徒を参考にして程よく手を抜いている。


成長するにあたり、両親からパソコンの使用が許可された。

教育上有害なものが閲覧できなくするフィルターというものが掛かっているらしいが、気にしていない。

調べることは≪WEO≫関係、創造主と仲間のことだけだ。

だが、あまり成果は出ていない。

サービス終了してから、15年ほど経っているようで、手掛かりはほとんどない。

創造主が所属していたギルドについては、若干分かったぐらいだ。

「やや好戦的なギルド・拠点の内装外装を気にしない・陽気な連中」との評価がされていて、所属している知名度のあるプレイヤーについてのコメントが一部載っていた。


ギルド「能天気な虎たち」・・・ギルドランキング第45位

 ・ギルドマスター:キングコング 男 暗黒騎士 レベル100

          質実剛健。喧嘩とお祭り大好き。戦略が上手く、元軍人では?という噂がある。

          名言「休みたい?バカヤロー!休む時は死ぬ時だ!!」


 ・所属メンバー3:ガブリエラ・エスポジート 女 魔法使い レベル100

          ギルドのムードメーカー。火炎系魔法大好きで、敵味方巻き込むこと多し。

          名言「ヒャッハー!汚物は消毒だー!!」


 ・所属メンバー7:ムーンラビット 女 精霊使い レベル100

          いたずら好き。魔法罠をよく仕掛ける。発言が変態的で有名。

          名言「魔法少女の全裸発光シーンを考えた人に国民栄誉賞を与えるべきだよー。」


 ・所属メンバー8:トシアキ・ザ・チェリー 男 弓兵 レベル100

          皮肉屋。毒舌。自虐的。「絶対にリアルは自宅警備員」と言われている。

          名言「働きたくないでござる!働きたくないでござる!」


私の創造主である、ガブリエラ・エスポジート様には他にも色々逸話はあるが、名誉のため伏せておく。

なお、各プレイヤーが創造した私のようなキャラは多すぎてネットには掲載されていなかった。

≪WEO≫ではプレイヤーは、1人につきレベル1のキャラ1体無料で創造できる。

そのキャラを自分好みに育てていくわけだが、中には2体目以上欲しいという人も多いので、新しいキャラが課金して創造されていく。総キャラクター数はプレイヤーの3倍以上になる。

全キャラを個人が把握するのは無理なので、大体有名なプレイヤーや交流のあったプレイヤーのみが記録されている。



パソコン以外に、両親から許可されたものがある。

格闘系の習い事だ。

自分の保有する戦闘用スキルを検証し、有効活用することが出来ると思ったからだ。

両親には「物騒な世の中だから、護身用に習いたい」と言ったが。

合気道の教室に通い始めて、程なくして自分の保有するスキルがいくつか分かった。


<物理防御:最上級>・・・敵からの物理ダメージを7割減少させるスキル。この世界でも、ノーダメージは無いようで、油断すると痛い目にあうだろう。


<見切り:最上級>・・・敵からの物理攻撃の回避率が7割になるスキル。この世界では相手の動作が遅く見えた。動体視力の向上という効果なのかもしれない。


<武芸百般:上級>・・・特殊な武器以外の一般的な武器全てが装備可能になり、攻撃時のダメージが追加されるスキル。この世界では、単純な構造の武器は慣れた手つきで使えるようだ。試しに道場にあった木刀を振ってみたが、斬線も揺らがず、手によく馴染んでいた。(勝手に触ったので怒られた。)


<危険察知:上級>・・・側面や後方からの攻撃に敏感に反応するスキル。気配や空気の流れなど、そういうものを感じとっているようで、目を閉じても効果はあった。


他にもあるが、日常生活でも道場でも検証できないし、使えないスキルが多い。

今現在未確認のスキルは、敵プレイヤーやモンスターを倒すためのスキル、殺すためのスキルだ。

・・・まあ、危険というものは突然やってくるものだ。遭遇した際には検証してみよう。

勿論そんな機会はやってこない方が良いのだが。



私の学校生活は平穏そのものだ。

ケンカは時々あるが、いじめなどの問題も発生せず、学友たちとの仲も概ね良い。

弟や妹に接しているような感じで付き合っている。

学友からは「兄貴」「大人の貫禄」「若年寄り」などと言われることもあるが・・・。

だが、私の個人には問題がある。

学力が微妙なことだ。

長年の検証から、この世界で生活すると、<共通言語>と<言語理解>は概ね並行して強化されていくようだ。

日本語は完璧に習得した。だが、努力しても学力が伸びず、正直悩んでいる。

元々リック・ロートブラッドの知力は最低レベルだったので、折角<成長強化:上級>のスキルがあっても、頭の成長が遅いのだろう。

テストでも、基本問題は解けるのに、少し問題文が複雑になっただけでまともに解けなくなってしまう。

不敬だが、創造主に対して、「ステータスを上げる際は、運に回すより知力に回しても良かったのに」と思ってしまったぐらいだ。

ここ数年、運によって助かったことは多くはない。

当たりつき菓子で当たりを当てることは多い。買い食い時、学友からはラッキーマンとして重宝されている。

あと運のおかげでは?と思っていることは、親切な学友に恵まれたことだろう。

そんなことを考えながら、私の学校生活が今日も始まる。

「りー。昨日の宿題ちゃんと解けた?」

「りー。俺の宿題写す?」

噂をすれば影が差す。親切な学友が現れてくれた。


井上八千代と桑田勝利。


井上さんは茶色い髪をした短髪の女の子だ。ややつり目で、明るく元気な陸上部。成績も良い。

桑田くんは背の高いひょろりとした男の子だ。眼鏡の奥の柔和な瞳に癒される人は多いらしい。

2人とも入学以来同じクラスで、幼馴染と言っていいだろう。

「ありがとう。一応やってきたから、2人に見てほしい。」

ノートとドリルを渡しながら答えた。

「あー。計算違う。りーは応用問題が本当に駄目だね。勉強してる?」

「俺、成績普通だけど、得意科目ぐらいはあるのに、りーは全部微妙だよな。」

言葉は刃物だと思う。2人の言葉に少し傷付いた。

「成績はイマイチだけど、体育は優秀なんだよね。」

「りー。脳筋と言われないためにも、頑張れよ。」

「・・・いのとくわの期待に応えられるように善処します。」

頭の悪い私で申し訳ない。

私たち3人はりー、いの、くわと呼び合う仲だ。以前から仲は良い。

思春期に入れば、お互いを意識しあい、距離を置くものだ。

もうそろそろ私たちも疎遠になるのかもしれないが、それはそれで仕方ない。精神年齢が同じ相手との付き合いの方が良いに決まっている。

この2人の健やかな成長を期待しよう。

「りーとくわは、そういえば、中学どこに行くか決めた?私はスポーツ進学。」

「まだ全然。りーは?」

四年生で受験のことを考えるのは早い気がするが、校長が教育に熱心で、若いうちから将来設計をするべきだと言っている。学校のホームページでも様々な中学校の情報を載せている。

そのため、教師も親も進学を少なからず意識し始めていて、生徒にもその兆しが出始めている。

いのもその内の1人だ。

「僕は普通の中学に進学すると思う。スポーツに力を入れている中学もあるけど、学力が・・・。」

両親は体育の成績は良い私に才能があると思っているので、スポーツに力を入れている学校に通わせても良いらしい。

しかし、私はスポ-ツの才能ではなく、戦いの才能・・・スキルを持っているのだ。

この平和な世界では、正直言って警察か自衛隊でないと将来活用出来ない。

「りー。自分の可能性を閉ざしちゃだめだよ?人の可能性は無限大なんだから!」

いのに熱く諭された。

「俺、道場でりー見たことあるけど、滅茶苦茶強いよなー。格闘家になるのも良いと思うぞ?」

くわが進路相談に乗ってくれた。なるほど、格闘家か。それも良いかもしれない。

「だめだって!りーはスポーツ選手になって良い汗流して!くわも!バスケ得意でしょ!?」

周りの注目を集めながらも、いのが熱弁してくる。

「えー。でもバスケって眼鏡破損率高いんだぞ?レンズとフレームの抱き合わせで意外と高価だし。俺って『眼鏡はファッションだと思う派』だしなー。眼鏡大事。」

「僕も特に良い汗を流したいわけじゃ・・・。」

「・・・この軟弱男子どもがー!その弛みきった根性、叩き直してやる!!」

しまった。

お怒り様がお越しになってしまった。

いのは即断即決を美徳としている。悪いことに、それを他人にも強要してくることが多い。

普通なら嫌がられる行為だが、いのの決断と選択がプラスに働くことが多いため、半ば許されている。

リーダーの素質はあるのだが、もう少し優しくなった方が良いと思う。

いのは別名「鬼軍曹」と呼ばれていて、掃除などをサボる男子を、その鬼の形相で震え上がらせている。

今もその形相である。

「りーもくわも卒業までに私が真人間にしてやる!親御さんに胸を張れる男にしてやろう!!」

くわはいのの気迫に押されて頷いてしまっていた。

このあたりの一連の流れは昔からだ。私たちにとってはテンプレである。

いのの剣幕は、私には猫の威嚇の様にしか感じないが、ことを荒立てるのも大人気ない。

いつも通り、私は粛々といのに従った。

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