不運とすれ違い
手詰まりだ。
「創造主」と「私と同じように転生した者」を探すことは困難を極める。
自力で探そうにも、私は幼児で非力、活動範囲も狭く、親の保護・監督下にある。
さらに言えば、情報も活動資金も協力者も全くない。
最後の頼みである、自身のスキルだが・・・、駄目だった。
≪WEO≫では多くのプレイヤー・創造されたキャラが習得していた<友情検索>というスキルを、昔も今の私も保有していることが判明した。
これは「半径500m以内にいる友達登録している者の名前・位置・現在HP/現在MP・ステータス異常の有無を把握することが出来る」というものだ。暗闇での連携、味方に変装した敵を割り出すのに便利だったりする。そして、・・・離れた仲間との合流にも使える。
期待を込めて使用してみたが・・・、残念なことが分かった。
<共通言語>のスキルで分かっていたが、≪WEO≫内の言語を理解する機能だったのに、今では日本語を理解する機能に変化していた。
この世界では魔法が使えないように、スキルには若干の補正が掛かっているということだと思う。
自宅で<友情検索>を使った際、把握したのは両親と妹、ご近所さんの名前・位置・健康状態だった。
皆の健康が確認できたが、≪WEO≫に関係しているかの根拠には全くならない。
次に<友情検索>に該当する条件を知ろうと試みた。
近所の老人が飼っている犬に会いに行った。見たことはあるが、名前の知らない犬だ。遊んだこともない。
直前の<友情検索>では名前も位置も全く反応しなかった。
飼い主に名前を尋ね、「太郎丸」だと知る。すぐさま<友情検索>を使うと・・・把握できた。
「・・・顔と名前が一致すると、それだけで自動で友達登録されるのか?友情の安売りだな・・・。」
迷子になった時に便利・・・ぐらいに考えることにした。
ガッカリしたその日の夜、父がパソコンを使い、調べものをすると言った。
失念していた!!
前に家中の物の名前とどの様なものなのかを母から聞いていたのに、スキルに期待し過ぎていた。
パソコンは、「情報を得るのに最高の道具で、歴史を変えた発明品」と母が言っていた。
それほどの物なら、大いに期待できる。
父に≪WEO≫について調べてもらえばいい。もしくは使い方を覚え、自分で調べればいい。
何か分かるかもしれない。私の胸は躍った。
「・・・お父さん。調べてほしいことがあるんだけど・・・。」
父にそう切り出すと、
「陸。お父さんじゃなくて、ダディだろ?もしくは、格好良くラブ・ファイターと呼ぶように。」
父が変なことを言い出した。
「パパ。二つ名で、ジューダス・プリーストとか闇夜切り裂く蒼い狼とかもあるでしょ?」
母も変なことを言い出した。
「ママ、それは前世の話だよ?俺は生まれ変わって、愛の戦士になってたんだ。」
「そうだったわね。元々私はラスト・フェニックスと呼ばれてたわ。でもパパと出会い、愛の炎で焼かれて、私も不死なる炎でパパを焼いたのよね~!熱い出会いだったわ!」
「俺も、ママの不死なる炎に焼かれて、ママへの永遠の愛を得たんだよ!」
いかん。この二人はよく分からない話を始めると、とても長くなるのだ。ついでに惚気も始まる。
「・・・また今度でいい・・・。」
私はそう言い残し、足早にトイレに向かった。
「おや?陸が仲間外れにされて臍を曲げてしまったかな?ここからが本番なのに。」
「私たちの出会いの場所、≪WEO≫の話とかしたかったのにね。」
「お互いハマりまくってたよなー。俺は同時にギャルゲーにもハマってたけど。」
「私は乙女ゲーとかに浮気はしなかったわよ。≪WEO≫一筋よ!」
「陸が生まれた時はエキサイトしてたねー。生まれ変わりがどうとか。名前付ける時にも『この子の名前はリック!駄目なら陸でヨロシク!』って。看護師さん軽く引いてた。」
「≪WEO≫で育てまくった自キャラだもん。滅茶苦茶思い入れあったし!」
「舞が生まれた時は冷静だったのに。」
「逆にパパがエキサイトしてたけどね。」
「俺が愛したギャルゲー『花束に愛を込めて』のヒロイン、仙田舞ちゃんの名前を付けたかったんです!!あのトゥルーエンドは感涙必至なんです!!舞ちゃんが幸せになってくれてよかったー!!」
「パパがあそこまで熱くならなかったら、名前は舞じゃなくて莉子だったけどね。」
「・・・俺たち、大事な子供の名前に思い切り我欲を混ぜちゃってるな。」
「・・・名前の由来を聞かれたら無難な理由を教えましょう。」
妹が眠る寝室に入った時、私はふと思った。
この世界で魔法は使用不可。スキルは補正は掛かるが使用可。
では、ステータスはどのように反映されるのだろう?
≪WEO≫時代の私のステータスは、腕力・体力・器用さ・敏捷性はかなりのもので、運も平均以上だった。
代わりに知力は哀れなぐらい低かった。
腕力・体力・器用さ・敏捷性・知力は、この世界でも同じ意味合いだと分かる。以前の私と同じようにレベルアップ・・・成長と共に上昇していくと思う。
運はどのように作用するのか?
≪WEO≫での運の効果は、「敵を倒した時、レアアイテムがドロップしやすくなる」「宝箱を開けた際、レアアイテムが出やすくなる」「食事やアイテムの生成成功率が上昇する」などがあった。
この世界では運というものは、完全に何の効果があるか分からない。
しかし、もしかしたら現状を打開できるかもしれない。
今の私の運がどの程度のものかは分からないが、低くはないはずだ。一度試す価値はある。
明日、両親に≪WEO≫について聞いてみよう。≪WEO≫について知っているかもしれない。
創造主が授けて下さった運がきっと導いてくれる。
そう思うと、気が楽になり、眠気も出てきた。
自分の寝床に入りながら、隣で眠る幼い妹の顔を見る。
可愛いものだ。天使と言ってもいい。
眠りに落ちながら、ボンヤリと考えていた。
そういえば、母は時々私や妹を「マジ天使!」と言う。創造主も同じ言葉を頻繁に発せられていたと思う。
私の名前についても、気になる。
「陸」という名前は、≪WEO≫のサービス終了前に創造主がされていた会話でも出てきた。
「産まれた子供にリック、もしくは陸と名付ける」と。
そして私の名前が「陸」・・・。
・・・もしや、母は創造主ご本人では?
いや、それなら妹の名前は「莉子」のはずだ。女の子が産まれた場合のお話もされていた。
しかし、もしかしたらありえるかもしれない・・・?
そんなことを考えながら、眠気が強くなる。
完全に眠る前に、両親が寝室に入ってくる気配がした。
「・・・ナイスな理由は考えた?」
「・・・神のみぞ知る。」
そんな会話が聞こえた気がする。
翌朝、早速居間にいた両親に問いかけることにした。
自らの幸運を信じて。
「あの・・・、お父さんは・・・≪WEO≫って・・・知ってる?」
私の言葉を聞いて、両親は微笑んでいた。
※以下、夫婦のアイコンタクトによる会話。
「あれ?ママ、昨日の会話、聞かれてた?ヤバイ?」
「分からないわ。でも、≪WEO≫についてそんなに知ってるような感じじゃないわ。」
「昨日の会話を断片的に聞いたけど、よく理解してない感じ?」
「可能性は高いわ。・・・クールになりましょう。オーケー、パパ?」
「イエス、マイロード。」
「うーん。聞いたことがあるような気はするけど、よくは知らないな~。ごめんな陸。」
父は申し訳なさそうに謝ってきた。
「えっと・・・謝らないでいいよ、お父さん。ありがとう。」
「どういたしまして。」
父がそう言ってコーヒーを一口飲む。
「じゃあ、お母さん。変なこと聞くけど良い?」
「なにかしら陸?なんでも答えるわよ~。」
「僕と舞の名前って、どうやって決めたの?」
両親は穏やかに微笑んでいた。
※以下、夫婦のアイコンタクトによる会話。
「タイムリーだよ、ママ!!名前の話題キター!!」
「お、落ち着いて・・・!まだ焦るような時間じゃないわ!」
「で、でも、この超展開、一体何なの?馬鹿なの?死ぬの?」
「私に任せて!!妄想力35000は伊達じゃないわ!!」
「陸の名前は、込めた意味が二つあるの。
大地みたいに大きく強く育ってほしかったから。あと、陸上自衛隊っていう世のため人のために頑張ってる人たちがいるんだけど、その人たちみたいに沢山の人から信頼される人になってほしかったの。」
母から自分の名前の由来を聞かされ、創造主と関係はなさそうだと分かり、残念だった。
だが、両親の強い思いが感じられ、心が温かくなる。
「舞は4月生まれでしょ?その時期は桜が綺麗で、薄紅色の花弁がよく舞っていたからなの。
桜って名前にしようか迷ったけど、パパが舞の方が素敵だって言ったから舞になったのよ。」
素晴らしい理由だった。
正直、感動して少し泣きそうだったが、我慢した。
「・・・素敵な話を聞かせてくれてありがとう。・・・僕も舞も産まれてきて良かったと思うよ。」
そう言うと、二人は微笑み、母が私の頭を優しく撫でてくれた。
以後会話は特に無かったが、静かで穏やかな朝食となった。
この二人は素晴らしいと思う。創造主もそう思われるだろう。
期待した情報は得られなかったが、気長に探し続けるしかない。
この家族といることは、辛くはない。探し続けられるだろう。
※以下、夫婦のアイコンタクトによる会話。
「ふおおおおおー!今の返し、ママ天才!しびれるー!」
「ふふふ!崇めてもよいぞ!?」
「ていうか、その後の陸のセリフと表情、激シブだよね!?」
「確かにグッと来たわ。マイエンジェル・リックの魂が宿っていてもおかしくないわ!」