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ゲームキャラの現実世界転生記  作者: 矢野 光輔
17/21

新しい友達が出来ました

新田先輩が構えた数秒後、私に向かって牽制のジャブを放ってきた。

「!?」

想像以上に速いジャブに私は後退した。

急いで両手を広げ、身体の正中線を守るようにして構える。

中段構えをし終えて、先輩の次の攻撃に備えた。

格闘ゲームからの転生者について全く知らないので、彼我の戦力が分からない。

詳しくは知らないが格闘ゲームには経験値が無く、プレイヤーの操作の上手さが勝利のカギだ。

キャラによって固有技があり、ゲージ?が溜まると大技が繰り出せるとか何とか・・・。

難易度もイージーとハードでは、キャラの実力は雲泥の差になる。

今の先輩はどの難易度で転生したと言えるのか、全く分からない。

こんなことならもう少しルナに新田先輩について質問しておくべきだった。

くわにももう少し格闘ゲームついて聞いておくべきだった。

「はあ!!」

そんなことを考えていたら、先輩の気合の入った声と共に、再び攻撃された。

先ほどの左からのジャブの後、右の突き。

空手に詳しくないので分からないが、何となく以前テレビで見たボクシングのようなスタイルだと感じた。

先輩の打撃をさばきながら、誰か止めてくれるのを待つ。

正直私は入学早々喧嘩騒ぎは起こしたくないのだ。

例え喧嘩を売られた側であっても、教師に目を付けられる恐れがあるなら、面倒事は極力避けたい。

周囲を見ても、楽しそうに「反撃しろよ!」「やれやれー!!」と囃し立てる者とオロオロしている者、何となく見ている者しかいなかった。

周りに期待は出来そうになかった。

軽く泣きそうである。

「余所見をしている場合か!?」

新田先輩が中段回し蹴りをしてきた。

咄嗟に先輩の蹴りを捌きながら懐に潜り込んで、突きを放ってしまった。

先輩には突きを防がれたので、怪我はさせずに済んだ。

やってしまった・・・。

私は暗澹たる思いに襲われた。

応戦した時点で喧嘩が成立したことになる。

周りの誰かが教師に事情を聞かれ、「安達陸がやり返した」と言えば、もうアウトだ。

もう一度言うが、軽く泣きそうである。

「むん!!」

私の手を払い除け、先輩が右突きを繰り出してきた。

「・・・ぐう!?」

私は腕で防いだが、異常に重い衝撃があり驚いた。

今の突きはそれほど早くなかったはずなのに、この威力の高さは何なのか?

考えるために後退して間合いを開ける。

新田先輩は格闘ゲームの転生者なのだから、その強さも格闘ゲームのルールに準じているはずだ。

確かくわの家にあった格闘ゲームの説明書にはボタン操作で色々なことが出来たはずだ。

パンチも「弱パンチ・中パンチ・強パンチ」の分類があり、繰り出す攻撃の速度も違った。

では新田先輩の速いジャブが弱パンチで、今の遅い右突きが強パンチだろうか。

今のところ私は、先輩の攻撃と防御はかなりのものだと感じている。

≪WEO≫なら、おそらく武闘家のレベル90以上だろう。

油断すれば痛い目に遭うだろう。

戦いたくないので、私は防御に徹するべきだ。

「どうしたどうした!?安達、そっちが来ないならこっちから行くぞ!!」

先輩も楽しそうで良かったですね。

そう思いながら防御に専念する。突きは逸らし、体捌きで避ける。

先輩のジャブと右の突きのコンビネーションは先ほどからなので大丈夫だったが、何となく勢いを増して前に出てきたような気がする。

そう思っていたら、先輩が一歩大きく踏み込んで、私に接近した。

「諸手突き!!」

そう言いながら先輩が両手の拳を突き出した。

「がは・・・!!」

腕を使って防ぐことは出来たが、身体に伝わった衝撃だけでも相当なものだった。

一瞬身体が浮き、少し後ろに飛ばされた。

どうでもいいが、攻撃する際に技の名前を叫ぶのはどうなんだろう?

「ふふふ。安達、防御の上手さだけは褒めてやろう!」

どうもありがとうございます。

返事をする元気が無いので、心の中でした。

・・・なんだか身体がムズムズする。妙な気分だ。

お互いに間合いを計りながら、徐々に近づいていく。

「はあっ!!」

先輩が気合を入れて右突きを繰り出したので、それに反応し左手で捌く。

私はそのまま身体を反転させて、右肘を先輩の首筋に当てようとした。

この回転肘打ちは、本来は肘を後頭部か側頭部に当てる危険な技だ。

当然合気道の技ではない。ムエタイか何かの技のはずだった。

恥ずかしながら、戦いの空気にあてられ、血が騒いでしまったのかもしれない。

「ぬん!!」

しかし私の反撃は、あっさり先輩に止められてしまった。

先輩はすかさず左手で私の肘打ちを防御していた。

周囲からどよめきが上がる。彼らも血が騒いできたのかもしれない。

まずい。

泥沼に嵌まっていく気分だ。早く帰りたい。

そう思っていたら、救いの声が差し伸べられた。

「コラー!!道を開けろー!どけー!!」

野次馬を掻き分けながら誰か近づいてきたようだ。間違いなく騒ぎを聞いた教師だ。

助かった。

これで多少問題にはなるが、今以上に悪化はしないだろう。

そう思って気を抜いた瞬間、新田先輩に真正面から抱きしめられた。

「!?」

私が驚いて硬直するのと、野次馬の中から中年の教師が出てくるのは同時だった。

「・・・何があった?というかお前ら、何をしている?」

「男の友情を確かめ合い、感動の抱擁をしています。」

新田先輩がさらりと言った。

気が付いて分かったが、今私と先輩は抱き合っているようだった。

いつの間にこうなったかは知らないが、新田先輩の仕業で間違いない。

「・・・意味が分からん。詳しく言え。」

「分かりました。実は俺と安達はアクション映画が大好きで、先日意気投合したんです。」

初耳である。

「さっきも熱く語り合っていたんですが、それだけじゃ満足出来ず、ちょっと映画で俳優たちがやっていた型を俺たちで再現し、真似しようという話になりました。もちろん本気なんか出しません。」

出していたと思いますが。諸手突きとか、痛かったですよ?

「それをギャラリーが喧嘩だ何だと騒いで集まりましたが、俺たちはそんなの気にしません。

野次馬って本当に厄介ですよね。目障りで仕方ないですよ。」

観客が見守っているとか名誉とか言ってませんでしたか?

「そして俺たちは互いの熱い魂を感じ合い、互いを称賛し、感極まって熱い抱擁をしていたというわけなんですよ。これがここであった真実です。」

捏造です。

当事者である私は一言も発言していない。

「ぬう・・・。まあ新田がそう言うのならそうなのだろう・・・。怪我人もいないようだし。」

明らかに嘘くさいのに事態が収束していく。

なんなのだろう。

神の見えざる手が働いているとかか?

「よし分かった。とりあえず問題なしと報告しておく。お前たち、あまり騒ぎは起こすなよ?」

「はい!!」

新田先輩の元気な返事に満足したのか、教師が帰っていく。

その後、周りにいた野次馬から拍手を浴びることになった。

これは一体何だろう?とても好意的な感じだ。問題にならなくて良かったはずなのだが。

「ああ。知らないんだな?

俺と戦うと、大体丸く収まるんだ。勝っても負けても周りは笑って許してくれることが多い。

もちろん犯罪っぽい暴力ではこんなことは起こらないがな。」

「え?そうなんですか?」

何だろう?格闘ゲーム特有のスキルか何かかもしれない。

あとでルナに相談しよう。

「安達、今回は迷惑を掛けて済まなかった。戦いたくは無かっただろう。

だが、戦ったことでお前には輝く才能が、格闘家の才能がある!それが今日分かった!!

俺は友として、お前が格闘家になる道に協力したい!!」

「すでに友に!?今日が実質初対面なんですけど!?」

驚愕する私に先輩は畳みかける。

「今日の敵は今日の友だ!!細かいことは気にするな!!」

「何言ってるんですか!?意味が分からないですよ!」

そんなやり取りをした後、新田先輩は部活に参加していった。

私も部活に参加した。

合気道部の先輩方は、無言のまま労わる様な目をしながら私の肩を叩いていった。



「あー。多分格闘ゲーム特有の世界観が適用されてると思うよー。」

「世界観?」

帰宅した後、自室でルナに今日あったことを電話で報告した。

喧嘩騒ぎを起こしたのに、何故か問題にならなかった点も伝えておいた。

「格闘ゲームの内容って現実的に考えたら、どこの国であっても単純な路上での乱闘騒ぎでしょ?

傷害罪になって現行犯タイーホ。その後、留置所か刑務所に入れられちゃうしー。警察沙汰だしねー。

格闘ゲームの世界だと、一対一の決闘は合法で、周囲にとってはお祭りみたいなものなんだよー。」

なるほど。

RPG系の≪WEO≫から転生した私たちにはスキルという特別な能力があるが、格闘ゲームから転生した者には一対一の決闘を合法にし、周囲を単純に観客にする特別な力があるのだろう。

転生者には全て特別な力が宿るのかもしれない。

もしかしたら、ギャルゲーから転生した舞にもあるのかもしれないが、今は考えないでおこう。

おぼろげに記憶していたことだが、ルナが言うには、確かに攻撃を当てたり防御したりすると、ポイントのようなものが徐々に溜まり、それが一定値を超えるとEX技・・・特別強力な技が出せるらしい。

おそらく新田先輩の出した諸手突きはEX技だろう。

戦っている最中、私の身体がムズムズして、その後に回転肘打ちを出してしまったのも、ポイントなりゲージなりが溜まったせいかもしれない。

「ところでリックー。怪我してないー?大丈夫ー?

怪我しちゃったのなら看病しようかー?それとも代わりに仕返ししようかー?」

「・・・大丈夫だ。打撲くらいだし。ルナは看病も仕返しもしなくていい。」

ルナが本気か冗談かが分からない。

その夜はルナと他愛無い話をし続けた。

やはり戦いよりも、こういう何気ない平和な時間の方が貴重だと私は思った。

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