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ゲームキャラの現実世界転生記  作者: 矢野 光輔
16/21

高校デビュー

私は桜を見ながら無事に高校進学を果たせたことに安堵していた。

ルナや憩さん、そしていのに時間を割いてもらい、勉強を教えてもらった。

それなのに受験に失敗していたら、顔向けできなかった。情けないことこの上ない。

「合格出来て良かった・・・。」

「何黄昏てんだよ?」

頭を叩かれた。

横を見ると、くわが呆れた顔をしていた。

これから通う高校はブレザーの制服を着用する学校なのだが、くわはすでに着崩していた。

偶然くわと同じ高校を受験することになっていた。

試験当日、くわは受験前の緊張している美少女との出会いと恋を期待していたが、そんなものは起こるわけもなかった。当然だ。

くわは打ちひしがれた状態で受験したので、最悪の事態も想定していたが、無事合格していた。

「お互い合格できて何よりだなーと思っていたんだ。」

「はん!・・・りー。言っておくが俺にとっては高校合格は通過点でしかねーんだ。

これから美少女と仲良くなって、バラ色の高校生活を謳歌するんだ!!

そして、俺は卒業までにⅮT卒業するんだ!!」

DTがなにかは分からないが、くわの口調から恋愛関係の単語なのだと推測出来る。

ただ、近くにいる数人の生徒がくわを変な目で見ているのが気になる。生暖かい目だった。

「とにかく教室へ行こう。入学式が始まる。」

「おうよ!!」


式が終わり、自分のクラスへ行き、自己紹介や各教室の案内、授業についての話などが終わった。

そのあとは解散となるので、私は校門へ向かった。

今日は≪WEO≫の4人で、細やかだが入学を祝って遊びに行くのだ。

校門に行くと、すでにルナが待っていた。

ルナは黒を基調にしたブレザーを着ていた。正直良く似合う。

「入学おめでとう、陸くん。」

私を見つけると近寄ってきてルナが上品に微笑んだ。

周りに生徒がいるので普段の間延びした話し方はしないようだ。

「ありがとう。月子も晴れて高校生だな。おめでとう。」

ルナは有名大学の付属高校に進学したらしい。ルナの学力ならそれぐらい余裕だろう。

「月子、りー。お待たせ。」

少ししてから、いのが来た。

いのはルナが通う高校ほどではないが、偏差値の高い女子高に合格したようだ。

いのは白を基調としたブレザーを着ていて、ピシッとした感じが漂っている。

やや固い感じがするが、それがいのの格好良さを引き立てていると思う。

「ねえ、りー。くわは?」

いのが訝し気に聞いてくる。

「あー・・・。多分そろそろ来ると思う・・・。」

十数分経ってもくわが来ないので、電話をしてみた。

どれだけコール音がしても電話は繋がらなかったが、効果はあった。

くわが校舎から出てきた。

しかし、こちらへ近づくその姿に、何となく絶望と悲哀を背負っている死者の様な感じがした。

くわの足取りは遠くから見ても重そうだったが、私はその理由を知っていた。

先ほどガイダンスが終了し解散になってから、くわは同じクラスになった女子に声を掛けていた。

単純にナンパしていた。

しかし、初対面の相手からそんな気易く声を掛けられたら警戒するのは当たり前で、女子全員に嫌な顔をされた挙句に逃げられていた。

いくらか罵声を浴びせられてもいた。

正直見ていて哀れだったので、私は目を逸らして教室を出てしまったくらいだ。

その後しばらく奮闘したようだが、どうなったかはくわの今の姿から想像出来る。

「・・・じゃあ、行こうか。」

事情を察したルナといのは無言で頷いた。

おめでたい日のはずなの1人のせいでお通夜のような空気になってしまった。


いのが予約してくれたブラジル料理の店でお祝いをした。

いのは上品なイタリアンの店などよりも家庭料理や珍しい料理を出す店が好きなので、今回この店が選ばれたのだろう。

独特な味を持った野菜と肉が、癖はあるが意外と美味しかった。

食事をしながら他愛無い話をしていたら、ルナが声を潜めて私に言ってきた。

「リックー。念のために伝えておくねー。

リックの通う高校には2人以外にも転生した人がいるからー。新田っていう人なんだけどねー。

前世が格闘ゲームのキャラの人ー。男性で、かなり強いと思うよ-。」

少し緊張した。

ここにいる前世が≪WEO≫の4人以外では、妹の舞が同じ人間に転生したキャラだった。

ただ舞は家族であり、長年の付き合いから平和的な考え方をしていると理解している。

ギャルゲーのキャラの人格はゲームの進行上、まともなものでなければいけないはずだ。

その点で、舞のような前世がギャルゲーの転生者の心は一般人と変わらない。

しかし、前世が格闘ゲームのキャラだった者の人格はどうだろう?

好戦的でないと格闘ゲームのキャラとは言えないだろう。

強い人物と遭遇したら、喧嘩を仕掛けてくるかもしれない。

「大勢のプレイヤーの理想の人格が投影されることが多い」と以前ルナが言っていた。

そもそも、大勢のプレイヤーの理想の人格とは何なのだろう?

見た目から判断している場合が考えられるが、不確定要素が多すぎて、人格破綻者になっていないか不安がある。

格闘ゲームを少ししたことがあるが、ストーリーモードというものがあり、世界各地を旅して数多の強者と戦っていく流れだった。

もし私の前世を知られたら、戦いを挑まれるかもしれない。

私にはスキルがあるが、格闘ゲームの転生者にはステータス異常は起こせないらしい。

となれば、単純な身体能力で戦うしかないが・・・。

まあ、多少警戒してしまったが、特殊な手段でもない限り、私やくわを特定することは不可能だ。

ルナはスキルで特定の人物を探し出せるが、格闘ゲームのキャラにそんなこと出来ないのだから。

「万が一声を掛けられて喧嘩に発展したら、入学早々停学とかあるかもね。」

いのが淡々と言ってきた。

「まあ、私やくわの正体に気付かれることは無いだろう。大丈夫だよ。」

「野郎よりも美少女に声を掛けられたい。野郎なんて願い下げだ。返り討ちにしてやる!

あ!でも喧嘩して不良なんて噂がたったら女子にモテなくなるじゃねーか!?」

私とくわはそう考えていた。


「安達陸だな?ちょっと顔を貸してくれ。」

入学して数日後の放課後、どこかで見たような厳つい先輩らしき人に声を掛けられた。

彼の部下らしき数人の男子生徒までいる。

部活に行く生徒が多くいたので、剣呑な空気に教室がざわついた。

「・・・これから部活なんですが。」

私は合気道部に入部していた。技の研鑽には最適だと思ったからだ。

憩さんの道場には通う回数こそ減ったが、師範や師範代に相手をしてもらうことが多くなった。

ちなみにくわは中学時代と同じバスケ部だ。入部理由は「モテそうだから」らしい。

「大丈夫だ。数分で終わる。」

「・・・。」

自己紹介もしない相手に従う謂れはないが、まだ何とかなるだろうと思いついて行った。

向かった先は剣道部や空手部、柔道部、合気道部も使っている錬武館だった。

十分な広さがあり、畳が敷かれていて、かなり設備が整っている。この学校の運動系の部活への情熱が窺える。

私は困惑しながら厳つい先輩と対峙した。

目をやれば、先に来ていた合気道部の先輩たちも困惑しているようだ。

「自己紹介が遅れたな。俺は空手部主将の新田剣次だ。」

新田先輩は自己紹介の後にお辞儀をした。

「・・・合気道部一年の安達陸です。」

私も釣られてお辞儀をした。

半ば無理矢理連れてきたのに、微妙に礼儀正しい感じだ。

どこかで見たことがあるように思ったが、同じ錬武館で部活をしたことがあるので、その時に見ていたのだろう。

新田という名前から、前にルナが言っていた人物本人だろう。

「で、どんな用件でしょうか?」

「簡単だ。異種格闘技戦をしたい。」

「は?」

空手と合気道で戦うということか?

これは完全に部活でも試合でもない。ただの喧嘩だろう。学校側に知られたら、問題になる。

慌てて異議を申し立てようとしたら、新田先輩に言われた。

「本来なら道端で勝負を挑むべきなんだが、決闘罪というものがあってそれも出来ん。

なので試合形式で戦うことにしたわけだ。どうだ?十分な配慮だろう?」

何を言ってるのだろう?

高校生は異種格闘技戦などしない。普通は格闘技の団体に所属する成人男性が行うことだろう。

「俺は強い戦士の匂いに敏感でな。安達からは戦士の匂いがプンプンするんだ。

それに俺は引き寄せられたってわけだ!」

「!?」

今の言葉で一つの仮説が浮かんだ。

格闘ゲームで、キャラが次々と世界各地の猛者と戦えるのは、単純なゲームシナリオではなく、全てのキャラに強者を嗅ぎ分ける能力が元々備わっていたからだと考えられる。

くわではなくて私に声を掛けたのは、前世でより戦闘に特化した騎士だった私に本能的に気付いたからかもしれない。

しかも予想通り新田先輩は好戦的な感じだ。

そんなことを考えていたら、周りにギャラリーが集まってきていた。

全員楽しそうに囃し立てている。皆さん、楽しそうで良いですね・・・。

合気道部の皆はオロオロしていて、止めることも出来そうになかった。

「安達陸。俺たちの戦いをこんなに大勢の人が見守ってくれているぞ。ふふふ、名誉なことだな。」

フルネームで呼ばないでほしい。周りに名前を憶えられてしまう。


「万が一声を掛けられて喧嘩に発展したら、入学早々停学とかあるかもね。」


いのの言葉が頭に響く。

折角入学出来たのに・・・。泣きそうだ。

教師が来る前に、何とかしないといけない。先輩を説得しなければ!!

「先輩!」

説得するべく、新田先輩に声を掛ける。

「分かっている!!教師が来る前に試合を始めて、直ぐに終わらせよう!!行くぞ安達!!」

「違うのに!?」

私は新田先輩と不本意ながら戦う羽目になった。

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