高校進学
色々な人に相談し、アドバイスを貰ってから、将来の方向性のようなものを自分なりに立てることが出来た。
前世の経験から、武道を身に着けていく。
創造主が「そうあれ」と定めて下さった私だ。それを無下にはしたくない。
武道ではないが、スポーツにも挑戦してみようと考えた。
身体能力は高いので、アスリートになれる素養はあると思う。
あと、手に職を持とうと思う。
私は前世で体力や腕力だけでなく器用さも高かったので、何か創作出来るのではないかと思っている。
今までは家事の手伝い程度しかしていないが、調理に関してはそこそこ腕が立つ。
小学生時代は図画工作の成績も良かった。
将来何かの役に立つかもしれないと期待している。
・・・まあ座学が苦手なので記憶力や発想力、想像力は低いのかもしれないが。
大雑把な指針が出来たので、目の前にある受験に取り掛かることにした。
極力ルナと憩さんには勉強を見てもらうことはせず、いの、もしくは先生に教えてもらうようにした。
中学三年に上がってからも勉強時間を増やし、成績は上がっていた。
平均的な偏差値の高校には多分進学できるというレベルではあるが・・・。
しかし、受験する高校は両親の希望もあって、運動系の部活で地方大会や全国大会も出場したことのある高校にした。
成績だけでは心もとないが、体育などで学校側からそれなりに高評価されていたようで、合格できる可能性があるらしい。
中学時代に出場した、小規模だが合気道の大会で優勝したことがあるのと、中学でスポーツが得意だと学校側が推薦してくれた。あと、学校での無遅刻無欠席や授業態度なども評価する部分だったらしい。
聞くところによると、くわも同じ高校を受験するらしい。
くわは他校とのバスケットボールの試合でも活躍し、部活の顧問からも進学してもバスケットボールの道を進むべきだと言われているようだ。
噂ではバスケットボールの有名校から誘われたりしているらしい。
前世でくわは特殊工作員の職をしていた。
遠距離攻撃を得意とし、スキルを用いて道具制作や情報収集などを行うサポート要員だった。
ステータスには特化した部分は無かったが、敏捷性が高いので攻撃回避能力がとても高く、隠密行動や索敵もしていた。
その経験が部活で生かされているのかもしれない。
ルナと憩さんの件があるので、くわとは微妙に顔を合わせづらいのだが、本人は大丈夫らしい。
「よく考えれば、りーを妬んでる姿は傍から見ればみっともないしな。
モテる男は泰然自若としているもんだよな。だからクールで渋カッコイイ俺になろうと思ったんだよ。
器のデカい俺ってカッコいいだろ?」
くわはそう言っていたが、そんなことを言っているうちは格好は良くないように思う。
もしかしたら同じ高校に通うかもしれないので、本人には言わなかった。
受験日当日。
私はくわと受験会場へ向かった。
本当は1人で行く予定だったが、前日になってくわが一緒に行こうと誘ってきたのだ。
「いやー、良い天気だよなー。見事に晴れてる。青い空が目に染みるぜ。」
くわがやけにそわそわしていた。
くわは普段は自発的に話さないし、独り言も言わないのだが、今日は緊張しているのだろう。
「なあ、りー。俺って大丈夫かな?いけると思う?微妙に不安なんだけど・・・。」
眉をハの字にしながら、くわが聞いてきた。
「大丈夫だ。くわは私より成績も良いんだから、自信を持ったらいい。
くわならちゃんと合格できるよ。」
苦笑しながら答えた。
「はあ?何言ってんだ?そんなん気にしてねーよ。
俺が気にしてんのは受験会場での運命的な出会いだよ!!
受験の前に不安がってる美少女を俺が勇気づける!感動する美少女と静かに微笑み去る俺!!
合格した後の再会!熱い眼差しで俺を見つめる美少女!熱い恋の始まり!!
こういう展開の話だよ!!受験なんて合格するに決まってるだろうがよ!
何人も美少女に惚れられたら・・・ヤベ、俺の身体が全然足りねえ・・・。
俺の取り合いに発展しちまうかもしれねーし。そんなことになったら、修羅場確定だ・・・。
美少女ヤンデレに刺されるかも・・・?マジヤベ、緊張してきた・・・。」
くわの妄想が過剰になっているようだった。
周りの受験生の視線が痛い。
他人のフリをするべきだろうか?殴って正気に戻すべきだろうか?
とりあえず私はくわを置き去りにして足取りを速めた。
試験会場について、復習をしているとメールが届いた。
ルナからだった。
メール(天城月子⇒安達陸)
「只今喫茶店でお茶してるよー。リックの合格を祈ってまーす。頑張ってねー。
今私は推薦入試が終わって面接の疲れを癒してるよー。あー、ダージリン美味しいー。
リックー。試験ギリギリまでメールしない?ヒマー。」
「・・・。」
自由すぎる。面接が終わってからそれなりに時間が経ってるはずなのに。
まあルナはそういう性格だから仕方ない。
そう思っていたら憩さんからもメールが来た。
憩さんは公募推薦は終わっていて、センター入試も終わっていたはずなので、もう合否は出ているだろう。
メール(漣憩⇒安達陸)
「陸くん。試験直前にごめんなさい。
受験はいつもの通り落ち着いてやれば出来るものです。
大学入試を経験した私が言うんだから間違いないです。頑張ってください。
陸くんの合格を祈っています。
追伸
受験に失敗しても、漣家があるから安心してね。
試験が終わったらウチに来てね。将来のことをいろいろ考えないといけないし。
幸せな家族計画を立てようね。
新婚旅行はどこが良いとか、式は和洋どちらかとか、親と同居可能かとか、子供は何人欲しいとか、どんなプレイがしたいとか、どの体位が好みとか、愛人は何人までOKかとか、話し合うのが楽しみです。
夢が膨らみます。出来れば、私のお腹も膨らませてほしいです。性的な意味で!」
「・・・。」
最初は普通の激励のメールだったのに、後半が残念過ぎる・・・。
というか追伸が多すぎる。
受験に失敗した私を婿養子にでもするつもりなのかもしれない。
師範と師範代も乗り気かもしれないのが、不安を助長する。
最終学歴が中卒の入り婿は、社会的にどうなんだろうと思わなくもないが・・・。
漣家が心配になってくる。
そう思っていたら、またメールが来た。
舞からだった。
メール(安達舞⇒安達陸)
「試験前にごめんなさい。兄さん、緊張してる?
多分普通に復習してるだけで、兄さんは緊張してないと思うけど。
家族全員、兄さんが家とか図書館で勉強してるの知ってるから、きっと大丈夫だと思うよ。
今までの自分を信じて全力で頑張ってね。私も高校受験の時は頑張るから。
試験終わったらメールして。」
「・・・。」
まともだ。
やはり今の家族は素晴らしいと感じた。胸が熱くなり、活力が沸いた。
舞には感謝のメールを返信しておいた。
ちなみにルナと憩さんには、こう返信した。
メール(安達陸⇒天城月子・漣憩)
「ハウス。ステイ。」
以前、犬の太郎丸と遊んだ時に学んだ、躾のための言葉だ。
ハウスは「小屋へ戻れ」、ステイは「そのまま待て」だ。
多分この時の私は、2人のメールに静かに怒っていたのだろう。
試験を終えて、くわと帰路に就いた。
くわは美少女との出会いが無かったようで落ち込んでいた。
試験について答え合わせしようと言ったら泣かれた。
「野郎と話すことは何も無い・・・。リア充なら尚更だ・・・!」
という捨て台詞を吐いて帰っていった。
友達のことが分からない。
気を取り直して、両親と舞、勉強を教えてくれたいのにも試験の出来をメールした。
(一応ルナと憩さんにもメールした。)
将来のことは分からないが、多少の学歴はあった方が良いだろう。
未来の色々な可能性が開けてくる。
後日、郵便物が届いた。
中には合格通知が入っていた。