彼女は訪ねて俺は……
予定より早く投稿できました。
なので投稿!
「ただいま」
学校が終わり、自宅に帰ってくる。良い匂い。今、優奈は夕飯の準備をしているんだろう。
しかし、玄関前には待ち伏せのようにムスーと頬を膨らませている優奈がいた。
どうした。何を怒ってんだ。怒りたいのはこっちだぞ。お弁当を引き抜かれた上に危うく深城と飯を食うとこだったんだからな。謝罪をしろ。謝罪。
あと、料理している最中だろ。余所見をしない。不味くなったらどうしてくれる。
「お兄ちゃんの意気地なし」
優奈の第一声がまさかの罵倒だった。これには俺も予想外で、
「いきなりなんだよ。俺が何をした」
「折角、私がお兄ちゃんと有希さんの間にはいって恋のキューピットになろうと思ったのに」
は?恋のキューピット?こいつ、何言ってんの。
俺がかなり呆れているように見えたのかムキーと怒り出す。
「まったくもー。お兄ちゃんの鈍感。残念な鈍感主人公だよ。お兄ちゃんの愛する妹がここまでやってあげたんだからいけるとこまでいこうよ」
無理矢理お弁当を消失させて後は丸投げなんて俺にどうしろってんだよ。鈍感もクソもねえぞ。
それと自分の事をお兄ちゃんに愛される妹だって思っているのはいかがなものか。
否定はしないが。
「お兄ちゃんはもっと人と関わるべきだと思うのです」
優奈は人差し指を俺の方へと向ける。
人を指さすんじゃありません。お兄ちゃんはそんな妹に育てた覚えはないぞ。
「いい?私はお兄ちゃんのためを思ってやっているの。分かる?」
俺は忘れない。
昨日、優奈が目をキラキラと輝かせながら、何かの作戦を立てていたあの夜の事を。
「あのな、優奈。恋のキューピットとかいらないから。別に深城とは何でもないし、これからもそういう絡みは絶対ない」
俺の発言に優奈は状況を読めなかったようで唖然とする。数秒の沈黙があり、優奈は笑顔で合図した。分かってくれたのかと俺は優奈に期待を高めた。
流石は俺の妹。話が分か―、
「そういうの期待していないから大丈夫。私がそうさせてあげるの。私ってばー良い妹だねー」
まあ、分かってたよ。雰囲気的に。
……畜生。
「だから止めろって。迷惑だから」
「もうツンデレなんだから」
優奈は笑顔を崩さずにニヤニヤと笑う。優奈のこの目は間違いなく楽しんでいる目だ。
「いや、ツンデレとかじゃないし」
「またまたー照れちゃってー」
ウザい。本気でウザい。
「そんなに俺をいじめて楽しいか?」
そう俺が言うと、楽しんでいる表情が嘘のように優奈の表情に優しい笑みがこぼれる。
「楽しいというよりびっくりしたかな」
びっくり?何で?
「お兄ちゃんは小さい頃からいろいろあったから対人恐怖症なのかと思ってた。でも有希さんから聞いたけど普通そうに話しているみたいで安心したよ」
兄弟に対して対人恐怖症になるほど俺は酷くないぞ。
俺は「有希さんから聞いた」という言葉で深城が前に言ってた優奈に話した「全部」の中の一つなのかと思い、気を遣われているのだと気づき恥ずかしくなる。
俺がイジメを受けてた時、優奈は何も聞かなかった。優奈は非情なんじゃない。俺は気を遣われていたのだ。なぜなら、初めてイジメに気づいたのも彼女で裏から深城にイジメを無くすよう頼んだのも彼女だからだ。そして、深城自身も俺に気を遣い、イジメを撲滅させる行動をとった。
最終的にその行動は善意からくるものではなく、かつ俺が納得いくものではなかったが。
「悪いな。何か気を遣わせたみたいで」
素直な気持ちを優奈に伝える。すると、また優奈は小悪魔的な表情に戻る。
「あれ?もしかしてお兄ちゃん……私に惚れちゃった?困るなー。気持ちは嬉しいけどさー」
「惚れてねーよ」
感謝はしてるけどさ。
「あら、こんにちは」
俺と優奈が話している間に第三者が声をかける。
優奈の友達かと考えも脳裏に浮かぶが、すぐに間違いだと分かった。なんと等身大日本人形がそこにいたのだ。
いや、違う。深城 有希がそこにいた。
深城は学校指定の制服の上にエプロンを着こなしていた。
「こんなとこで何やってるんだ」
俺は素直な疑問を投げかける。
「見て分からない?料理よ」
それは見ればわかる。玄関からとても良い匂いが漂ってるし、深城がエプロン姿なのも合点がいく。
けれど俺が知りたい解答はそれじゃない。
「それは見ればわかる。何で深城が俺の家で料理してるんだよ」
その質問待ってましたと言わんばかりに優奈が元気よく手を挙げる。
「はいはーい。それは私が説明しまーす」
「できるだけわかりやすく頼む」
「わっかりました!お兄ちゃんのお望みとあらば喜んで」
相変わらず調子のよい妹だ。親の顔が見てみたいよ。
「有希さんは私が呼びました。ええ、そうです。私が有希さんに料理をするように頼んだのです。仕方がなかった。なぜなら、私は―」
まさか料理するのがめんどくさかったとかいうつもりじゃないだろうな。
「料理がめんどくさかったからです!」
優奈が高らかに宣言した。駄目だこの妹。早く何とかしないと。
「優奈さん。私はそろそろ御暇させてもらうわ。料理も大体は終わったし」
深城はそう言って、エプロンを脱ぐ。
「えっ?もう帰るんですか。ここで食べていかないんですか」
優奈は意外そうに答える。深城は頷いて、
「ええ。元々、優奈さんの頼みで私はここにいるわけだし、それが達成されたわけだからここに留まる理由がないわ」
「そんな~」
優奈は心底残念そうに声を漏らす。
おい、何でそこで俺を睨むんだよ。別に俺は何もしてないぞ。
「貸してもらったエプロンは後日に洗って返すわ。じゃあ、さようなら」
「ちょ、ちょっと有希さん」
優奈は深城を引き止めるものの、願いは叶わず、
「あ~あ。帰っちゃった」
だから、何で俺を睨む。
優奈は一頻り俺を睨んでから呆れた様子で溜息をつく。そして、キッチンへと向かっていった。
俺は何をすることもなく、自分の部屋に行き夕飯ができるのをじっと待つことにする。
(明日が終わればゴールデンウィークだ)
そんな気持ちを抱きながら、俺は今後の予定を考えていた。
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