俺は昼飯を食べ彼女は……
最近、暑くなってきました。
私だけですかね(笑)
「ねえねえ、上井草君」
村川 ゆいが俺に話しかける。俺は気にせずシカトを続ける。彼女の表情から察するとまだ諦めの気配がない。
何だってんだ。何、企んでるんだ。
人は何かを理由づけしなければ行動を起こさない。俺にはそんなソースがあるからこそ、なぜ村川 ゆいがここにきて、俺に話しかけるのか理由が分からない。
仮に可能性として挙げられるのならば―、
俺を騙そうとしていること。俺が村川 ゆいという勝ち組と好意を持って接することで俺が勝ち組だと錯覚させる。そうして、勝ち組は俺の反応を楽しみ、最後にはネタ晴らしをする。
お前は勝ち組ではないと。騙されていないことにも気づかれない馬鹿野郎だと。
そして、俺はこう思うんだ。
やはり、世界は悪意で満ちているんだと―。
ならば、やるべきことはもうわかる。
いっその事上っ面を剥がしてしまえばいい。本性を暴けば良い。後はもう単純。
俺に対してのいじめが始まる。俺はただそれを受け入れればいいだけの話でそれ以外は何もいらない。
一番俺が恐れているのは期待して裏切られることだ。自分が求めていたものを拒絶されることだ。
(そうと決まればシカトをするのは正しいだろう)
こちとらいじめられ歴は幼少から続いてんだ。本当の強さっていうのを教えてやるぜ。
「上井草君ってば!」
無視だ無視。
「……」
「おーい。上井草君?聞いてる?」
「……」
「あの、上井草君。そろそろこちらに視線を向けてくれないかな。私だよ。村川 ゆい。昨日、屋上で会ったじゃん」
「……」
「あっ、それ食堂の焼きそばパンだね。おいしそー。一口もらっていい?」
「……」
「……パクッ」
おおい!?俺の焼きそばパンが食われた。なんて女だ。
こいつは悪魔か。
「俺の焼きそばパン食うなよ!」
思わず、口に出してしまっていた。
しまったと失敗を悔やんでも遅い。俺が反応したことにより、村川の目を輝かせる。
「やっと、喋ってくれたね」
村川はモグモグと焼きそばパンを味わう。俺の昼飯が食われたことで先程の作戦をたてた自分を憎んだ。
今更、後悔しても焼きそばパンは帰ってこない。仕方なく、俺はしばしば村川の会話に付き合うことにした。これ以上、焼きそばパンが食われてはたまったものではない。
「何だ。なにか用か」
「ううん。特になにも用はないんだけどね」
じゃあ、何で話しかけてんだよ。理由がない分余計に腹立たしいよ。
頭が痛くなってきた。
とっとと食って屋上から出よう。そうしよう。
俺は焼きそばパンを一口食べると、村川はハッと何かに気づきオドオドし始める。やがて、顔が真っ赤になる。
「上井草君。それ、間接キスになるんじゃ」
村川は焼きそばパンを見ながら、小さな声で言う。彼女の見解では同じ個所のところを二人が同時で食べ合うと間接キスになる認識らしい。
俺の中では「お前が勝手に食ったせいだろうが」とツッコミたくなる。
「そんなもん知るか」
俺は構うことなく焼きそばパンを頬張る。パンは柔らかい触感で非常にソースと絡めあっている。焼きそばもソースが多すぎず少なすぎずと味はかなりグット。
これは美味い。はまる。
俺は村川を無視して焼きそばパンの鑑賞会に浸りたい気分だ。
しかし、村川はそれを許さないらしく、
「酷い酷い。私は女の子なんだから少しは気を遣ってよ」
と怒り出す始末である。
女の子だから気を遣うだとふざけんなよ。今の時代は平等なんだ。社会的差別はやっちゃいけないんだよ。男女雇用機会均等法を知らないのか。
「もー。上井草君はデリカシーがないよ」
事の発端はお前だがな。
「それよりも村川はなんでここにいる。いつもつるんでいる連中はどうした?」
「えっ?あー、うん。まあ、ちょっとね」
ちょっとってなんだよ。説明になってないぞ。
村川は言いづらそうに不安顔を見せる。気まずくなってきたので俺は仕方なくその話題に触れるのはやめた。
「……分かった。もういい。聞いた俺が悪かった」
「いいの?」
「何が?」
「いや、別に」
村川は俺と視線を合わせずにそっぽを向く。まるで悪戯がバレる子供みたいな表情をしていた。
俺はハァと溜息をつく。
「あのな、村川」
俺が村川の名を呼ぶと、彼女はこちらを見てきた。
「人に言いたくないことの一つか二つあるだろ。なら、無理に話さなくていい。それで軽蔑したりなんてしねえよ」
「上井草君……」
村川はほんの数秒沈黙したままじっとしてた。
そして、村川の口元が緩んだ。
「分かった。今はまだ言えないけど、近いうちに上井草君に言うね」
俺に言うなよ。他の仲良い奴に言えよ。
「ありがとう。上井草君」
なんだ。ちゃんと笑えるじゃん。
昨日みたいに愛想笑いのような笑顔ではなく、純粋に心から嬉しそうに微笑んでいた。
さて、俺は焼きそばパンも食べ終えたのでそろそろ去ることにしよう。
「行くわ。じゃあな」
「うん。またね」
だからもう会うことはねえよ。今日これっきりだから。あれ?なんかフラグのような気がする。
俺は屋上で村川に見送られ、淡々と教室に戻る。俺はある可能性を疑ったまま自分の席に座る。
ある可能性というのはただ一点しかない。
それはさっきも考えたように俺が村川 ゆいに騙されているということだ。
最終的には何も掴めぬままで終わってしまったが、結局のところ彼女はどうして俺に近づくのだろうか。
近づく理由が好意というのは有り得ない話だ。
世の中は悪意で満ちているのだから。
(だったら、どうして)
教室内で俺はそんな事を悶々と考えていた。
読んでいただきありがとうございます。
次の更新は最悪、今週の日曜日です。