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お前は勝ち組and俺は負け組  作者: 日光さんDX
2章
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彼女はリスタートし俺は……

 実はわかっていた。

 俺が何をするべきか。村川に対して俺はどうすべきかに。

 それは次は俺から手を差し出せば良い。その一歩で良いんだ。

 だけど、きっとそれは勝ち組の行動で俺にとって間違っていることでしかない。間違っていることをわざわざやるかと問われれば、当然ノーである。

 なら、また負け組の行動を取るか?

 それもきっと違うと思う。


――お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。勝ち組でも負け組でもない。だからね、誰かの行動じゃなくて、お兄ちゃんの行動をして欲しいな。


 優奈の一言で俺が何をするべきか分かった気がした。

 そして、どういうことを踏まえた上で行動するべきかそのヒントはもう貰っている。


――感情をうまく見極めなさい。なぜゆいは傷ついているのか。その答えは既にあなたが持っているはずよ。


 あとは答えだけだ。

 しかし、俺は俺の感情がまだわからない。

 わからないが、一つだけ感情でわかることがあった。

 

 それはあの時相沢の件で俺がした行動。なぜ俺が村川を助けたのかという動機。そこから俺は俺自身の解答に導き出した。




 学校の屋上。

 俺はある奴と待ち合わせをしていた。この待っている時間が大分長く感じる。屋上の錠は既に俺の手によって開けられていて、私が先に屋上に来ている状況だ。

 何故だか身体はひどく緊張しきっている。俺は自分の感情を抑え込むよう力強く拳に力を込めた。

 大丈夫。思っていたより、俺は冷静だ。

 キィと扉がかすかに開いた音が聞こえた。俺はまだ屋上への来訪者とは顔を見ずに背中を向けたままじっと身構える。


「上井草君……」

 俺の背後から現れてきたのは他でもない村川 ゆいだった。


「悪いな。こういう形で来てもらって」


「ううん、別にいいよ。若干感づいていたしね」

 俺は深城に屋上へ来るよう言ってくれと村川宛てで伝言係をしてもらっていた。俺からでは避けられているし、負け組に話しかけると周りがざわつくと思いこんな形でアポをとることになったのだ。


「それで? なにか用かな」

 この場から早く離れたい。

 そんな想いがひしひしと伝わってくる。俺は振り向いて彼女の方に向くと、村川の視線は俺の目を見ずに逸らしていた。俺も彼女の目から逸らしたままである。

 言葉を選びながら話すのを継続させていく。


「あのな、村川……その……もうやめにしようかと思っている」


「な、何を?」

 村川の表情はどこか怯えた風貌で少し泣きそうな顔をしていた。

 俺はごくりと生唾を飲み込む。

 ここで発言を間違えては駄目だ。ここで間違えたらまた同じことを繰り返してしまう。ここからは出来る限り慎重に言葉選びをしなければならない。

 口は災いの元。それはこの前から学んだことである。


「俺と村川の関係をゼロにする。小学生時代の俺らは全部リセット。だから、これでもう俺に関わらなくていい。これでどうだ」

 そもそも、小学生時代で引きずらなくても中学時代で挟まれて時効だ。村川 ゆいはたまたま勝手に助かっただけに過ぎない。それなのにその件だけで俺に気にかけてしまうのは申し訳なさすぎる。

 だから、あとは好きにやってくれ。そんな思いを込めた発言だったが、彼女は納得できないようだった。


「だ、だから私は上井草君のことをそんな風に思っていないよ……」

 今にも泣きそうで突けば壊れてしまいそうで俺自身少し焦った。

 だが、口を閉ざすわけにはいかない。俺はもう一つ彼女に伝えたいことがあった。


「そうじゃない。そうじゃないんだよ、村川」

 俺は首を横に振ってから、


「俺はお前とやり直したいんだ。始まりこそは違っていたが、お前が俺に気遣いをしてくれたことは事実であり、本物だ。だから、それを本当に最初からやり直すんだ」

 俺と彼女の関係を一時的になかったことにすることで新しい関係を築く。新しい関係を築くことで一時的になかった関係を上書きする。

 人生はやり直すことが出来る。全てをなかったことにはできないが、改めて一歩を踏み出せる。

 これが俺自身で導き出した負け組なりの勝ち組の方法。

 なんという自分勝手な解答なのだろう。要約すれば、全てを水に流せと言っているみたいなものだ。問題から開き直って無理やり答えを捻じ込んでいるだけである。

 それでも、俺はその答えを選んだ。なぜだ? いや、答えはもう明白だ。

 俺は彼女と本物の関係が欲しかった。

 俺は彼女と一緒に居て楽しかったのだ。

 何気ない掛け合いが心地よくて、どうでもよい会話でも心躍った。それを失いたくない。


 そして、発した一言が、


「だからなんつーか、その、な、仲直りだ」

 自分で言っていて、だからってなんだよと思った。

 思いつく言葉がこれしかでない。もう少し考えてきたつもりだったが、全部思っている事を言葉にするのは難しかった。

 俺の俺らしくない振る舞いを見て、村川は少しキョトンとする。で、クスッと笑われた。


「な、なんだよ」


「いーや、別にぃ~」

 村川は俺の心を見透かしたように得意げになる。

 なんなんですかその目は。


「そっか。うん、上井草君はそういう人だもんね」

 村川は小声で呟く。当然、何を言っているのかは俺の耳には届かない。


「言いたいことがあるなら言えよ。なんだ、俺の陰口か?」


「違うよ! ……ねえ、上井草君」


「なんだ?」


「その、ごめんね。私も上井草君を距離取ってたから不快な思いさせたよね。これからは普段の私に戻るから」

 ニッコリと笑顔を取り戻した村川は俺に握手を求めてくる。


「仲直りしよっか?」

 俺は村川の握手に応じ、手を握った。まるで国と国が同盟を結んだみたいな気分だな。

 良い年した高校生が何握手し合ってるんだか。


「それとね、上井草君にお願いがあるんだ」


「お願い?」

 珍しいこともあるもんだ。今回で村川と仲直りができたら、俺も一つお願いしたいことがあったんだよ。

 結果的に村川のお願いは俺に似て非なるものだった。


「私とお友達になってくれないかな?」

 村川のお願いを聞いた瞬間、自然に頬が緩むのが分かった。そのお願いは即答である。


「い・や・だ!」


「断られた!? しかも溜められて言われた! 結構勇気を振り絞って言ったのに」

 あうーと言いながら落ち込む村川。俺が断った理由が理解できなかったようで俺は補足を付け加えることにする。


「段階が早すぎるだろうが。いきなり友達とかってぶっ飛びすぎだろ。まずは知り合いから始めるべきだろ」

 えっ? と村川は言い俺の方へ向くと俺も本来彼女に言うセリフを切り出した。


「俺と友達前提で知り合いになってください!」

 俺は頭を下げながら必死でお願いする。その光景が実に馬鹿らしくて恥ずかしくてもう笑えた。というか、この俺が言ったセリフで村川は笑った。村川が笑っているのを見て俺も笑った。




 ゴールデンウィークが過ぎて、変わらぬ晴天の中。

 こうして、俺に知り合いができた。

今回で2章完結です。

話自体もこれで終わりです。

ここまで読んでくれた方、またこの作品を手に取って頂けて感謝致します。

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