俺は真実を聞き彼女は……
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「何か飲むか?」
「いえ、結構よ。このまま話させてもらうわ」
深城は俺の気遣いを遠慮なく断る。深城の返答を聞き入れ、俺は立ち上がり、自分の分だけの飲み物をコップに注ぐ。
そのまま一口で飲み干した。キンキンに冷えている。まるで俺と深城が話し合っているこの雰囲気並に冷たい。
「ゆいは……。村川 ゆいは小学生の時、イジめられていたのよ」
深城の最初の発言で耳を疑った。
何だって?村川がイジめられていた?
今ではクラスの人気者で勝ち組と共にいる奴だぞ。
いや、だからこそ彼女はイジめられていたのだろうか。俺が知っている彼女はスポーツができて、勉強ができて、その上友人関係もうまくいっていてまさに完璧な勝ち組だ。
だが、その圧倒的な勝ち組に妬みや憎しみを覚えるものだっている。勝ち組であることがイジメの対象として認識することもあるんだ。
小学生のイジメはその人に興味さえあればその場で成立する。それが妬みや憎しみに然り、好意やその場の流れですらイジメの動機としてなり得るんだ。
「イジメのきっかけは些細な事だったらしいわ。それが少しずつ少しずつ酷くなっていって気がついたらもう手遅れになっていた。そして、そんな状況で現れたのは……」
深城は俺の顔をじっと見る。
何だよ。そんなに凝視して。俺の顔になんか付いているか。
「あなたよ。あなたがゆいを助けたのよ」
「はあ? いきなり何だよ。意味が分からん」
なんだそれは。冗談でも笑えないぞ。誰の差し金だ。
「いいえ、嘘ではないわ。もっとも、正確には結果的にゆいが助かっただけと私は思っているけど」
「……本当なのか」
俺は生唾を飲み込んでもう一度深城に確認をとる。
やけに深城の返答する時間が長く感じられた。
「ええ。本当よ」
俺の期待は裏切られ、深城の首は縦に振られる。
「だけど、それは結果論よ。小学生でのあなたのやり方は自分にイジメを押しつけただけだったらしいわ。言ってしまえば、昨日みたいな感じ。あなたは自分にイジメがくるように仕向けたのよ」
それはどうでもいい。
俺のやり方がどういうものだったかはどうでもいいことなんだ。
俺にとって重要な事は俺と村川はどういう関係だったのかということだけ。そして、それが今分かった。
「ゆいはそんなあなたのやり方に感謝しているの。私は決して納得はしていないけれど、それでも、ゆいは……」
「やめろ」
ピシャリと言った。深城は口を閉ざし、何も言わなくなる。
俺は一言、
「少し一人にしてくれ」
と言う。深城は俺の気持ちを察したかのように、
「わかったわ」
と返答した。
俺は自室に戻り、ベットで横になる。
村川は勝ち組で俺は負け組。それは現時点での立ち位置だ。小学生の時は俺も彼女も負け組だった。
昔は負け組だと分かっていても、俺は態度を変えたりしない。今が勝ち組ならそいつは勝ち組だし、大事なのは過去ではなく、今だ。
だが、俺は彼女の態度を変えようと考えている。
それはなぜか。
その理由は村川の行動からだった。
いつからか俺は彼女に期待していたのだ。
初めて屋上で俺に話しかけてきた彼女に疑いしかなかった。
どうせ、俺の事を騙そうとしている。俺の事を貶めてクラス中の笑い者にしようと企んでいる。としか考えていなかった。
だけど、徐々に彼女と接するうちにその疑問は消えていた。いつの間にか本当の友達のように接する部分があった。
俺は甘かった。
純粋に彼女の「好意」を信頼してしまっていたんだ。
村川 ゆいが「優しい人」だと思い込んでいただけだった。
俺みたいな負け組に話しかけてくれる勝ち組。だからこそ、もっと疑り深くすれば良かった。
そうすれば、こんな気持ちにならずに済んだのに。
こんなに自分が傷つかずに済んだのに。
俺に話しかける理由。それは「好意」なんかではない。
ただの同情だったんだ。
同情からくる嘘っぱちの「好意」だったんだ。
俺は村川を助けた。そんな村川は俺に感謝している。
感謝しているからこそ、彼女は俺を手を差し出した。
元負け組から差し伸べられる慈悲の手。自分のせいでイジメを請け負った俺にせめてもの罪滅ぼしをというわけだ。
単純な話、勝ち組がただ純粋な「好意」で負け組に話しかけるわけなかった。
自分を負け組と称しているのにこの体たらく。全く、負け組と聞いて呆れる。
俺も勝ち組と触れてついボケちまったようだな。
「お兄ちゃーん。ただいま。もう折角、有希さんと二人っきりにしたのになんでいないのよ」
俺の部屋のドアが大きく開かれる。
優奈が膨れっ面でこちらを見ていた。腕組みをしてぷりぷりと怒る優奈に、
「悪い。少し考え事してた」
と素直に俺は謝る。優奈は俺の行動が意外だったようで困惑する。
「す、素直だね。お兄ちゃん。何かあったの?」
「いや、なんもねえよ」
「ふーん。まぁ、それならいいんだけど。今から夕飯だから早くリビングに来てねー」
気が付くと時刻は夕方を示していた。
俺が頷くと優奈は微笑んでリビングの方に向かっていく。軽いステップで「お肉~お肉~♪」と口ずさみながら俺の部屋から去っていった。
「誕生日か……」
今日は優奈の誕生日。優奈は優奈の欲しいものがちゃんと目の前にある。
だったら、俺は俺の欲しかったものを見つけることができるだろうか。
俺が欲しかった「好意」とはどこにあるのだろう。