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お前は勝ち組and俺は負け組  作者: 日光さんDX
2章
20/26

彼女は語り俺は……

 俺と彼女はお互いに目を見て話すようなことなく、会話が始まる。

 いや、違う。俺が目を逸らしているんだ。深城はじっと俺の目を見ている。

 俺が目を逸らす理由。それは恐らく、俺は真実を突きつけられるのが怖いからだ。

 深城は相沢の件で俺らの光景を一部始終見ていた。見ていたからこそ、深城は俺のやり方を否定するのではないかと考えている。


 中学時代の彼女がそうだったように。


「話の内容はこの前の相沢との件、とだけ言えばわかるかしら」


「ああ。それがなんだ」

 俺は力強く拳を握りしめグッと身構える。

 予想外な事に彼女の頬は少し緩む。


「あなたは変わらないのね」

 深城の言っている意味が分からず、俺は首を傾げる。


「変わらないって何がだよ。そもそも何の話だ?」


「あなたの話よ。あなたとゆいが相沢達と絡まれているとき、土下座したじゃない? 全部見ていたわよ」


「……それがどうした」

 恐る恐ると俺は口を開き、やっと深城と目を合わせる。

 その状態が数秒間経過した後、彼女はなぜかほくそ笑んだ。


「何がおかしいんだよ」

 俺がそう聞くと、彼女は首を振って、


「ごめんなさい。つい、ね」

 何がついなんだろうか。俺は苛立ちを覚えたので、文句の一つでも言おうと思った。

 だが、深城は口を閉ざすことなく、言葉を発する。

 その言葉だけは俺の頭によく響いた。


「あなたがやってきたことは無駄じゃない」

 俺の表情が今どういう顔をしているのかは分からない。

 けれど、他に言えることは俺の心はひどく驚いていて、彼女は真面目な表情でそう言っていることだ。深城は口を休めることなく、続けて、


「私はあなたになれないし、あなたは私になれない。生きている境遇が違えば、考え方も変わるものよ。だから、それぞれの答えに無駄なんてあるわけないじゃない」


「そうか」


「ええ、そうよ。だけど、間違いはある。あなたの場合、もう少し感情を考えるべきだわ」


「そうかい。それはご忠告ありがとよ。最初の流れから何言ってるかさっぱり理解できていないがな」


 俺は深城が中学時代と違うなと感じた。深城自身の考え方が変わったのだろう。彼女が誰かの考え方を受け入れるなんて有り得ないことだ。

 これを成長と呼ぶのだろうか?

 成長という言葉はそんなに安いことか?

 そんなに成長とは軽率に使って良いものなのか?


 俺は脳裏にそんな疑問が残りつつ、深城に確認するように告げる。


「で? 結局お前は何が言いたいんだ?」

 俺の問いから数秒の沈黙があり、深城は淡々とした口調で、


「私の行動理由を確認したかったのよ。言ったでしょう? あなたを救うって」


「……」

 深城は意味深な表情を浮かべ、俺を見つめた。しかし、一方の俺自身、目を逸らしている。今、俺が目を逸らす理由、それは先程から抱いていたものではなく、また別の方から込み上げるものだった。

 俺は彼女に期待しているのか。

 中学時代のように彼女を頼っているのか。

 だとしたら、それは嘘だ。嘘なんだ。嘘のはずなんだ。


 ふぅーと俺は息を吐き、自分の両手で自身の頬を平手打ちした。


「どうしたの」

 深城は怪訝な表情を見せながら、そう訊ねてくる。


「いや、ちょっと夢を見てたんでな」

 俺は決めていたんだ。負け組に徹するって。

 だから、俺はそんな言葉なんかに惑わされやしない。危うく自分を見失うところだった。そして、再び中学時代の間違いをここで犯すところだった。

 

 中学時代の深城 有希と俺。

 深城 有希は俺にとってライバルのようなものだった。やり方こそ納得できるようなものではなかったが、深城 有希は深城 有希の役割を全うし、彼女なりのプライドがあった。

 だからこそ、俺はそのプライドで俺のプライドとぶつかり合えるような彼女に憧れてさえいた。

 しかし、彼女のプライドはただの上辺だけのプライドで俺が求める関係ではなかった。

 なぜなら、深城 有希は周囲の目があるからこそ、俺に手を差し伸べ、いじめを解決しようとする人だったからだ。

 周囲の目がなければ、深城 有希はいじめがあっても解決しない。そういう人間なんだ。

 少なくとも、中学時代の彼女はそうだった。


 だったら、今の彼女もきっとそうだ。


 ……。

 …………。

 俺は臆病者なんだろう。きっと。


 俺は俺自身にそう思った。


「なぁ、深城。話が変わるが、いいか?」


「ええ。私の言いたいことは言ったし、別にかまわないわ」

 臆病だからこそこれ以上の会話が怖くて俺は話題転換する。

 なんて弱い奴なんだろうか。まさに負け組の称号に相応しい。


「村川の事だ。小学生の頃、あいつと小学校は同じだったんだが、何か知らないか」

 村川の事に関して実質興味本位ではある。

 しかし、今の俺はその話が話題を変えるためだけの材料にしか過ぎなかった。

 

「……一応、友達だから知ってはいるけど、覚えてないの? あなたとゆいの関係を」


「は?」

 俺は深城の予想外の返答に不意をつかれる。

 なんだ?その意味ありげな言い方は。

 まるで俺と彼女がクラスメイト以上の関係とでも言いたげじゃないか。


「これは話してもいいことなのかしら? 本当にゆいのことを覚えていないの?」


「全く身に覚えがない」

 正直な話、俺と村川が小学校が一緒だったと知ったのも最近だしな。


「当の本人が覚えていないなんて……あの子も難儀ね……」

 やれやれと呆れかえっている深城。

 仕方ないだろ、覚えていないんだから。


「それならそれで知る必要がないのかもしれないわ。あなたにとっても良くない思い出よ」


「俺は良くない思い出を聞いても別にいいし、あと何かそこで話が終わったら気持ち悪いだろうが。いいから話せよ」


「……わかったわ」

 俺と彼女の会話はまだ終わらない。

投稿が遅くなりすみませんでした。

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