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お前は勝ち組and俺は負け組  作者: 日光さんDX
2章
19/26

俺は聞き始め彼女は……

「ただいま~」

 俺は結構な重量が入っている食材と共に家に帰ってくる。さっき買ったばかりの肉と野菜がスーパーの袋に引き詰められて、俺の両手が塞がれてしまっていた。

 思ったよりも重く、スーパーの袋を玄関に下ろすと一気に疲れが押し寄せてくる。


「おかえり。お疲れ様。有希さん来てるよ」

 優奈はリビングの部屋からひょっこりと玄関に顔を出した。俺のことは二の次でスーパーの袋を覗き込むと、露骨な表情を浮かべる。


「野菜も入ってるんだけど……」


「それぐらい喰え」

 俺は優奈に吐き捨てるように言った。

 肉ばかりじゃ栄養が偏るだろうが。それを教えてくれたのは妹の受け売りなんだが、あれは聞き間違いか。


「私はいいの。お兄ちゃんは細かいこと気にしすぎだよ」

 自分の都合で今の発言を細かいことに分類するのやめてくれない?普通に理不尽だよ。

 優奈はブツブツ言いつつも、スーパーの袋を回収する。だが、中学生の女子では持てる重さではなく、足をふらつかせた。俺は見ていられなくなったので、彼女の手からスーパーの袋を奪う。


「貸せ。俺が持つ。冷蔵庫の前まで運んでやる」

 強引に取ったせいで優奈は取り返しに手を伸ばそうとするが、頭二個分離れた身長に彼女が勝てるはずもない。


「私の肉-。返して-」


「馬鹿。運んでやるって言ってるんだよ。黙ってやらせろ」

 俺は優奈の額にデコピンをくらわす。優奈はううーと呻きながら、両手で額を擦った。

 おい、そこまで強くやってないだろ。あざとさを見せつけるの止めろ。


「……お兄ちゃんもそういう所がずるいんだよ」

 ボソボソと優奈が呟く。表情は髪で隠れて分からない。

 俺は毒舌を吐かれたのだと思い、それ以上の会話をすることなく台所へと運んだ。台所に行く途中、リビングにて深城と目が合う。深城の行儀が良く、正座の姿勢を保ちながら何やらなんかやっていた。

 

「こんにちは」


「……おう」

 俺は詰まりながらも深城の挨拶に声を出す。それからお互いに話す言葉が見つからず、俺は黙って台所に向かった。

 冷蔵庫の前に立ち、買ってきた食材を中に詰める。数秒して、呆れ顔をした優奈が俺の方に寄ってきた。

 何だそのガッカリした表情は。


「まぁ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだってことは分かっていたけどさ。これはないわ~」


「何だよ。何がないんだよ。食材はきっちりあるだろ」


「いやいや、私が言っているのはそういう話じゃなくて」

 優奈は深城をチラリと見てから、俺の顔を見る。

 そして、ハァーと溜息。

 殴っていいですか?


「もう! お兄ちゃんは有希さんと話しててよ。後は全部私がやるから」

 逆だろ。俺がやるからお前が深城と話しとけよ。友達の家なのに友達じゃない奴に話しかけられるとか意味分かんねえから。


「いいから! どっか行ってよお兄ちゃん!」

 ガーン。

 兄に無限大のダメージ。

 俺の頭にどっか行ってよ、どっか行ってよと優奈の声が鳴り響く。俺は肩を落とし、トボトボと深城にいるリビングに向かう。


「相変わらずのシスコンぶりね、あなたは」

 特に軽蔑している訳でもなく、面白がっている様子もない。ただ単に俺の性格を確認するかのように深城が話しかけてくる。

 シスコンで何が悪い。険悪になるよりはいいだろう。


「ほっとけ。それより何やってるんだ。手伝うぞ」

 妹に厄介払いされて、少し自棄になった俺は積極的に深城と言葉を交わす。


「結構よ。もう終わったわ」

 深城は自分より大きい布きれを俺に差し出す。その布きれには鯉が描かれており、俺は鯉のぼりに使う物だと確証した。

 所々破れてあった鯉のぼりを裁縫で器用に使いこなし丁寧に仕上げられていた。


「これ、お前が裁縫で直したのか?」


「そうよ。元々私の家に会った鯉のぼりだけど、ひどい有様だったからここで手直しさせてもらってたの」


「そうか」

 と俺と深城の会話が終了したところで優奈が、


「有希さん、あと、ついでにお兄ちゃん。少し出かけてくるね。すぐ戻るから」

 と言った。

 なんで今こいつ、俺の方に「ご武運を!」的な表情をかましてきたの?深城と二人っきりにするとかどんな罰ゲームだよ。あと、ついでってなんだよ……。

 俺はこのまま深城と気まずくなるのが嫌で優奈に提案を持ちかける。


「俺も一緒に行くぞ。何なら、荷物を持つし」


「やだ」

 泣いていいかな、俺。


「それじゃー、二人ともごゆっくりー」


「いってらしゃい。優奈さん」

 深城が優奈にそう告げると、ニシシと不気味な笑みで優奈はリビングを後にする。

 リビングには優奈を除いた俺と深城の二人が残った。当然の如く、暫く静寂が訪れる。

 俺はこの場に居づらくなり、自室に行こうと多少は考えていたが、


「上井草」

 俺の名字を呼ばれたことでその考えは完全に打ち消された。深城は俺の目を見つめ、


「ちょっといいかしら」

 と言ってきたので、俺は彼女の発言に肯定の仕草することにした。

 深城、奇遇だな。この際だから俺もお前に聞きたいことがあったんだよ。


 俺は彼女と対峙するように座る。

 始めは彼女の方から口を開いた。

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