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お前は勝ち組and俺は負け組  作者: 日光さんDX
2章
17/26

俺は落胆し彼女は……

「そういえば、お兄ちゃん」

 俺と優奈は夕飯を食べ終え、その後に俺は洗い物を手伝っていた。俺の隣には優奈が洗剤を含んだスポンジで皿を洗っている。俺が手伝っていたのは洗い終わった食器を黙々と拭き取り、元あった食器棚へと戻していくことだった。

 いくつかの食器を拭き取っているときに優奈が話しかけてきた。無視しても良かったが、愛する妹の発言をシカトする兄ではない。


「何だ」

 お互いに視線を合わせることもせず、目の前の仕事に集中する。手を動かしつつ、口も動かしていく。目線を逸らしながらの仕事(洗うことの重労働)は食器を落としてしまうこともあり、危ないのでそのまま会話を続ける。


「明日、鯉のぼりを作ろうよ」

 鯉のぼりってあれか。口と尾が貫通して繋がっているやつか。風がなかったら、萎びたミミズみたいになっているやつだな。

 確かに5月5日はこどもの日だけど、旧暦でいえば来月だし、そもそもあれは男児の行事だったように記憶しているが。


「嫌だ。めんどくさい」

 俺がそう言うと、優奈は膨れっ面になり「いじわるー」と小声で言う。


「そもそも家に鯉のぼりなんてあったか? それすらも危ういぞ」

 その問い返し待ってましたと言わんばかりに優奈は得意げな表情をする。何だその顔。うざいからやめろ。


「ふふーん。お兄ちゃんがそう言うと思ったからこちらから用意してもらいました」


「俺に鯉のぼりを作らないという拒否権は?」


「えっ? お兄ちゃんなんだから拒否権はないよ」

 優奈は素で返答する。

 理由がおかしいだろう。理由が。

 せめて、誕生日だからとか理由じゃないのかよ。兄だから拒否権ないってどういうことだよ。


「ほら、お兄ちゃん。手が止まってるよ。さっさと拭いてよ」

 この妹め……!このツケはメイド服を着せて「お帰りなさい。お兄ちゃん」とでも言わせなきゃ我慢ならない。用件を言うだけ言って拒否権を受け入れるつもりないって横暴すぎるだろ。だけど、そこがまた良い。素晴らしきかな妹愛。

 ん?どうした、妹よ。何でそんな軽蔑の眼差しで俺を見る。


「今の自分の顔見てきたら? 超キモいよ?」

 若干引いているというか、妹にかなり引かれている兄。

 なんだよー。少しぐらい妹を使って妄想してもいいじゃないか。

 優奈が言ったとおりに洗った皿を鏡の代わりで自分を見てみる。成程、これはキモい。誰だこの変態予備軍は。


 俺だな。うん。


「まぁ、お兄ちゃんのキモさは後で語るとして」

 後で語るなっ!そこは重要だぞ。


「家に鯉のぼりがないので他の人に借りることにしたんだ」

 優奈は俺のキモさについて保留のまま話の続きを再開する。

 借りるのが妥当だろうな。優奈の事だ。自身の小悪魔さを利用して誰かの鯉のぼりを取ったに違いない。おおよそ従妹かお隣さんなどの幅広い人脈をつたっていったのだろう。よくそこまでやるな。


「というわけで有希さんが明日持ってきてくれるからね。良かったね。お兄ちゃん」

 了解。了解。

 深城が鯉のぼりを持ってきてくれるのか……ってちょっと待てい。

 今さらっととんでもない事口走ったよね。


「深城が来るのか?」

 俺は聞き間違いか確認するため優奈に聞く。首を縦に振り、肯定の仕草。


「そうだよ」


「何で」


「何ででも」

 今日あんな事あったばかりだというのに。優奈め。なんていうことをしてくれたんだ。


「良かったね。お兄ちゃん、これはチャンスだよ。この機会で有希さんの好感度を上げるは必至だね。いやー、やっぱり私って兄思いだー」

 優奈はニシシと楽しそうに笑う。その表情を見て、俺はドッと疲れが増した。

 賭けてもいいが、深城とは優奈が考えているようなことは微塵も起きない。容姿は美しく、性格も悪くはないのだ。むしろ、良い方。実際、中学時代の彼女は友が多く存在していたし、俺の妹ですら関係が続いている面倒見の良さである。これで性格が悪いといったら罰が当たるね。

 それでも、俺と彼女の関係は何一つ変わっていなかった。中学時代から今までずっと。


 顔も性格良い。


 だが、合わないのだ。

 お互いの信念と価値観が違いすぎる。


「じゃあ、明日頑張ってね」

 優奈は親指を突き出し、グッジョブのサインを送る。オプションで唇から少し出ている八重歯を見せつけている。

 何を頑張るか分からないが、とにかくうぜえ。一回どこかで痛い目見た方がいいと思うよ。


「何を頑張れっていうんだよ」

 と俺は呟きながらまたしても妹に根気負けして鯉のぼりを作ることになってしまった。

 深城の事だ。用が済んだらすぐに帰るだろう。俺はそう信じて明日の焼肉の出費を考えていた。


 焼肉の出費を考えてはいるが、瞬間的に今日の出来事を思い出してしまう。

 俺のやり方は昔から何も変わっていない。深城もそうだ。

 なら、彼女は今日の事柄をどう受け止めたのだろうか。俺が負け組らしくやっているのを見て、深城はどう思ったのだろうか。

 あなたのやり方に何も意味がない。

 俺は常に正しい彼女にそう言われるのが一番怖かった。


 怖いが、俺は彼女に言われたら、こういう返答をするつもりだ。

 お前のやり方も何も意味がない、と。

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