第7章 佐藤
朝から坂田の病院に担ぎ込まれた患者は精神科に回されてきた
救急の処置で警察から回ってきたものだった。
坂田は直接の担当医にはならず医長が担当になったのだが、医療秘書の高木が
先生、人格障害の疑いがあるそうですよ。
しかもフェチ性かもという話です。
そういわれていてもたってもいられなかった。
見にいくと医長がついてとりあえず鎮静剤を注射し落ち着いていた。
先生、どういう所見ですか?
ん?坂田先生・・おそらくは君の研究してる人格障害なのかもしれない。
というと?
なんでも職場の更衣室で女性の制服にまみれ自慰行為をしているところを警備員に発見され
錯乱してかかってきたという話だ。
医長が注射した鎮静剤は軽微な鎮静剤で精神安定作用がある。麻酔剤と使うこともあるにはあるが麻酔剤を使うと話ができない。
鎮静剤であるから少し話しを聞くことができた。
坂田は語調を下げて静かに質問した。
あなたの名前は?
佐藤といいます。
えーと、警備員につかまって取っ組み合いになって警察に通報された。これで間違いないですね?
はい・・しかし、いつも同じ時間に同じことをしていました。
というと、今回は初めてではないということだね?
はい・・毎朝10時開店のお店ですが、8時半にはきて9時近くまでそうしていました。
皆がくるのは早くても9時15分過ぎですし、更衣室からは駐車場が見えますのでそれで車が停まればわかります。
今回は誰かが通報したらしいですが、心あたりは?
いや・・ありません。同じくらいに早く来る人はいません。
いや・・一人、心あたりがないわけじゃない。
ん?それは誰です?
いや職員のあきらって奴です。
たまに早く来ていた。
しかもそいつは女子トイレにたまに篭ることで店長に怒られていた。
あきら?彼は女子トイレに篭るのですか?
そうです。中でなにをやっているのかさっぱりわからない。
そういう意味ではあなたのやってることも同じだ。変わった事をしている。
私は実は女性の使用下着でお風呂にはいるのが夢なんですよ・・
変わってると思ってくれてもいい。
でも、それが夢だし、それを誰にわかってもらえなくても仕方ない。
いやいや、種類こそ違えど私も同じ・・夢を持って現実にしたいと思ってるところは一緒ですよ。
え?先生もですか?よかった。同じですね!
いや、完全に同じじゃない
あなたのは現実にするのはかなり法律に触れることになるかもしれない。
ならないかもしれない。
僕の夢は絶対にならないという点では決定的に違う。
先生。ならないって?
ん?いやそういう世の中になればという意味だよ。
じゃあ異常者ではないんですね?
それは精神鑑定をしてからじゃないとわからない・・
坂田はとりあえず長く話すのはこれでやめ、佐藤氏を病室に連れていくように看護師に指示をだした。
坂田は間違いなく人格障害を感じた。
坂田の定義する人格障害とはその事柄以外はまったく正常であり生活を営めなくなるということはありえなく、しかし人とはまったく違う価値観をもち、特にその価値観次第では反社会性をもつものを特に指していっている。
これであきらも人格障害だとしたら・・こんな近い環境の中に人格障害者が3人もいることになる。
いやもっといるのかもしれない。
しかし、今まで年に数件しか報告されていなかった人格障害は急速に増えていきつつあった。
地域性?いやそれは否定できる。
土着のものでは決してないし、過去にそういうケースはここでは報告されていない。
遺伝?
それもない。佐藤とあきら、そうして弓子の間には遺伝関係はまったくないはずだ。
しかしどこかでつながっている。
そんな気がしてならなかった。