第5章 苦悩
弓子にしてみれば、ただ驚いた。
いつものように声をかけたつもりだったが、それが私服警官だった。
しまった!と思った。
最近我慢をしていた。
彼氏であるあきらはあまり会ってはくれない。
しかも、そんな癖を言ってるわけでもない。
結局弓子は、自分の体と引き換えに男性の精液をもらっていた。
今のところなによりそれが彼女の快楽につながる。
それがなにが悪いのかわからなかった。
当初は警察の取調べでは売春防止法でつかまったと思った。
たしかにそれはそうなのだが、警察官は動機になにかひっかかりがあって
それでメンタル的要因を調べたほうがいいと感じ、精神科通院を勧めた。
自分でもこれが治るのだったらと思った。
しかし病認識はまったくなかった。
自分が病気?そんなわけない。小さいころから変わらない。
小さいころの隣の席の男の子のフケが髪の毛に変わり、精液になっただけ。
それがもしかしてエスカレートしていくのだったら・・・
何度も考えた。
それで行くことにした。
担当の坂田先生は物静かな先生だった。
一通り全部話した後に、先生は悩んでいるように見えた。
フェチシズムと先生は言った。
そっか、そういう病名?なんだ・・
いや、正確には嗜好であって病名じゃない。
フェチ性人格障害と言う症状からくる名称はあってもこれは病気といえるかどうか・・
というのは、病名というのは疾病に対してつけられるもので・・これはその・・疾病とはいえない
現に君は疾病で生活が営めないというわけではないし、これは伝染性も認められないし・・
いうなれば、食人族がいたころ、その食人族自体は人を食べていたけど現在の常識からすると人を食べるのは異常であって、昔では問題なかったはずだ・・
いわばそういう類のものだから・・ただ現在に生きていくには人格障害は治療しないといけないだろうと思うけど・・うーん・・
という事は、治療法があると?
いや、今のところはない・・ここの病院でも鍼灸なんか使って治療しているけど効果は今のところでていない・・なんともいえない。
的を得ないことだが、自分が異常ではなく・・生きてる時代が違うということ?
それとも・・
坂田は弓子が帰った後も考え続けていた。
異常人格は疾病ではないのだから治療する根拠がない。
現に生活を営めないわけではない。
過去に・・いや未来に想像を絶する人格をもった人たちが現れ、そうして生活している社会が存在するのかもしれない。
過去の食人族がいたように。
それは過去のことではない。
未来にもありえることなのだ。
坂田は苦悩した。
ではどうしたらいいのか・・・・・
自問自答していたが答えは見つからなかった。
病院の窓から、外を見た。
弓子が帰り道歩いている姿が見える・・
あー、あの子の髪の毛を全部剃ってみたいな・・
自分の心に表面化したフェチにぞっとした。
ぞっとしながらも、喜びで股間が大きくなっていた。