第20章 医局
日中の外来診療も終わり、入院患者の回診も終わり医局で帰りの支度をしようと
自分のデスクに座っていた。
ここの病院は医師数もそんなに多くないため、医局にすべての科の医師が机を並べている
中央に応接セットが置いてあり、そこに時折居眠りして長いすに横になってる医師もいれば、テレビに興じている医師もいる。
医長クラスになると別室になる。
部屋は続いているが、囲いがあって、そこには医長クラスが少し大きめの机を何台か並べていた。
副院長や院長になると完全に別室になる。
同じ精神科の渡辺と坂田は長いすに腰掛けてテレビをつけた。
渡辺が入れた珈琲をもらって坂田も飲んでいた。
テレビはコメディアンのコントから、ニュースに変わっていた。
では、本日のニュースです。
昨日、起きました殺人事件のニュースです。
この殺人事件は妊婦が、下半身を鋭利なもので引き裂かれ、胎児を取り出すというまれにみる残虐な手口で、精神異常者ではないかという疑いや、この被害者に個人的に大きな恨みをもつものの犯行ではないかという見方の二面から捜査を開始しております。
被害者は24歳の妊婦で妊娠八ヶ月になろうとしていたところで病院の帰りに喫茶店によってその後消息はわからなくなっています。
坂田先生、この犯人は精神異常だろうなぁ。
うーむ・・怨恨か精神異常だろうけど、でも精神異常だとすると胎児を取り出すなんて事は
普通は考えられないから、人格障害だろうけど・・
怨恨だとすると、被害者の女性の妊娠にかなり怒りを覚えて?だとしてもこの殺し方は普通じゃない。
人間技じゃないよ。
坂田はこの間のあきらが、窓の外の妊婦を見ていた姿を思い出した。
まさか・・な・・
渡辺先生はこの間、気が感染力をもつようなお話をしてくれましたね?
うん、そうだね、しました。
それは感染したと仮定してその人の中で増大化すること、つまりはウイルスが進化するような
事があるとお考えでしょうか?
うーん・・難しい質問ですね。
でもありえると思いますよ。
たとえば、癌になるとしますね。気の影響で。
癌が気の影響でなるかどうかはわからないけど、癌は確実に体内で成長していくわけです。
気も増殖していくと思っていいと思いますよ。
そのうち脳細胞までおかしくなる。
とすると、この間僕が話した、人格障害は次第にどうなると?
人格障害はそのうち統合失調になるでしょう。
自己統制がとれなくなる。
正しいことと間違っていることのバランスがおかしくなるんですよ。
体は正しい気が100としますよね?
そのうち感染した気が20くらいだったら、まだ80の正しい気があるので押さえ込めることは可能かもしれません。
しかし、それが50を超えると正しい気が逆に押さえ込まれます。
邪気が勝つんですか?
そうです。
殺人事件の犯人はほぼこのパターンでしょうね。
先生はなぜこのことを精神医学会に発表しないのですか?
状況証拠と仮定だけだからですよ。気の証明が中国でもできていない。
でも、精神医学なんて、そもそも状況証拠だけでしょう?脳科学もまだまだ進歩はしていない。哲学で充分議論できる範疇でしょう?
その議論が面倒なんですよ。おそらく議論になってもディベートできない。証明できないからです。
そうなんですか・・
坂田はなんとか証明できないのか、そうしたら誰かが治療法を解決できるかもしれない。
そう思いながら席を立った。
お先に・・
そう言って医局を出た。
もしや自分の中にも?いやいや、そんな事はない・・
何度も自分の中のなにかを否定し歩いていた。