第2章 弓子
弓子は22歳になるビデオ屋で働いている女性。
特に、おしゃれに関心があるわけでも頭がいいわけでもない。
取り立ててあまり目立つ存在ではなかった
子供のころからそうだった。
小学生のころに文化委員をやった以外に、学校の役員らしきものをやったことがない。
学級委員にも推薦されたこともなければ、特にクラブ活動でも目立つほうでもなかった。
2つ上のお姉ちゃんがやっていた切手の収集を自分も真似てやってみた。
たいした面白くもなかったが、お姉ちゃんがやっているのをやれば自分も面白いのかと思っていた。
面白いもなにもなく切手を集めていた。
集めるといえば弓子が楽しんだことに、5年生になったときに隣の席になった研司くんの落とす
フケを集めた。
もともとフケ症だった研司くんは机や床によくフケを落としていた。
それを休み時間などに集めて、家にあった風邪薬のはいっていた空のビンにいれた
ビンの底から3ミリくらいになったときに、それを見て興奮した。
自分の体にそれをふりかけて深夜に一人楽しんだこともあった。
高校生になって好きな男の子ができた。
今風のロン毛で茶髪の、クラスの男の子を好きになった。
彼はもとより誰にでももてた。
あまり学校には来なかったが、それがまたミステリアスでよかった。
弓子は彼が学校にくると、いつも決まって学校に残った。
掃除当番の日だったら喜んだのだが、そうじゃない時も掃除当番を代わってあげたほどだった。
弓子の目的は、彼の髪の毛を捜すことだった。
彼の座った席の周辺に落ちている髪の毛を集め、それを教科書の間に挟み、大事に持って帰った。
決まってそんな時は弓子は自分の食事は自分で作るといって、卵焼きを作った。
それを部屋にもっていって一人で食べた。
家族は不思議がったが、それほど気にするようなことではなかった。
卵焼きには彼の髪の毛を刻んで入れた。
それをおいしそうに食べた。
弓子の楽しみは唯一それだった。
高校を卒業し弓子は家を出た。
姉は大学に進んだが、弓子には大学にいく意味もわからなかった。
親に一人暮らしをしたいと言うとあっさり、許可がでた。
それで家を出ることにした。
家を出てからはいくつかの正社員の口を捜そうと思ったがどこにも受からなかった。
近くのレンタルビデオ屋でバイト募集の貼紙をみて、そのまま面接を受けた。
そうしたらその日から人がいないので来てくれと言われて、そのまま働くことになった。
バイトをして数年たったある日、よくビデオ屋にくる青年と付き合うことにした
たまに見るのだが、あまり返事もしない、暗い男性だった。
たまたま行ったスーパーに店員として働いている所を見つけた。
なんとなく声をかけてみた。
彼も顔を上げただけでしばらくは誰だかわからないようだった。
ようやくわかったのか、もう少しで仕事終わるからといわれた。
じゃ、外で待ってるから。
そう言ったはいいが、どうしようか悩んでいた。
別にどうってことない男の子なのだが、自分が待つ意味はどこにあるのだろう・・
そうしてるうちに彼が出てきた。
その日のうちに付き合うことになった。
別に好きでも嫌いでもなかったが、そうしたほうがなんとなくいい気がした。
今まで付き合ったということがなかったからだった。