第13章 診察
2日前に救急で運ばれてきた矢部 弓子は最初こそ錯乱したような感じを受けたが
今は落ち着いていた。
昨日に引き続き今日も外来診療が終わり次第、入院患者の回診だった。
矢部さん、後で診察室に来てもらえないでしょうか?
えーと、1時間後くらいにでも。
はい。わかりました。
矢部の話を再度聞くつもりだった。
昨日聞いた話では、フェチ性が進行してるように見えていた。
しかしその進行具合も基準がないのでわからない。
このまま退院して同じことが繰り返されればやはり治療の必要は間違いなくある。
しかしその治療法はまったく見えなかった。
矢部さん、もう一度おっしゃってください、えーとあなたの勤めていたラブホテルでは同じような嗜好の人がまだいたと?
はい・・話はしていませんからわからないのですが、おそらく・・
その根拠はなんですか?
いえ・・勘っていうと怒られるかもしれませんし状況的にっていう話ですけど、二人一組でホテルの部屋の清掃に入るんです。
でも、決まってその人は私をお風呂清掃をするように命じてベット周りはその人がするんです。
でも、いつも使ったコンドームがその人と組むとなくなっているんです。
でも、コンドームを使わない人もいるんだろう?
はい・・でもそなえつけのコンドームはいつもなくなっていましたから使ってるカップルだと思うのです。
ふーむ・・じゃ、その人はいくつくらい?
たぶんですけど・・・30歳代の半ばまでいってないのではないのかなと思うんですよ。
坂田は少し沈黙して考えた。
もし事実だしたら、やはりこの街には多すぎる。
こんな比率で人格障害は発生するものなのか・・・数年前なら考えられなかった。
じゃ矢部さんの件にもどろうか。
矢部さんはフェチシズムという性癖を持っているのだと思う。
フェチですか?
そうそう。サドやマゾと同じ。
はい・・
で、それ自体は癖なんだけど、性欲と結びついてるだけあってなかなか治せないことなんだ。
はい・・
いや今までは治す必要もなかった、しかし今回のようなことになるのだったら問題だから少し真剣に取り組みしないといけない。
はい、でも治す事が可能ですか?今回のことはみんなにも迷惑かけたので反省はしていますが
私自身、治すつもりはないですよ
自分のたったひとつの楽しみなんです。
それを取り上げるのだったら、子供がおもちゃ取り上げられるのと同じことです。
なるほど・・正論だ。しかし事故が起きないようにしなくちゃね。
今度そうならないよう、部屋以外でそうなったら、手の第4指のつめのつけねを押すんだ。
え?
これはうちの病院の精神科医で中医師の渡辺先生が言ってたんだけど神経のツボらしい。
なんでもここを押すと正常な神経の興奮にもどるとか・・つまり我に帰るということらしい。
はい・・わかりました。
よろしい。
じゃ明日でも退院できるように事務に手続きしておくから。
はい・・
勤務してたホテルはどうするのかな?
ちょっと考えたんですけど、迷惑かけちゃったし、あそこは辞めようかと。
他にもラブホはたくさんありますしね。
他で働きます。
わかった・・
矢部弓子はそういって、病室にもどっていった。
坂田は考え事してから、電話をとった。
もしもし?ラブホテルラブラブさんですか?
実は週に2回くらいバイトをしたいんですが人手は足りていますか?
あ、はい。じゃ今日これからうかがいます。
久しぶりのどきどきが坂田を襲った。
まるで運動会の前の日の子供のような気分だった