第1章 あきら
東京に来たのは3回目だった。
一度目は受験だった。
大学を7校ほど受験しそのどれれにも受からなかった。
結局、地元の私大に入り4年間を過ごした。
劣等感があった。東京の大学にいって生活を楽しみたかった。
しかしそれがかなわぬ4年間だった。
就職の時期になり試験を受けた。
東京本社の会社も、地元の会社も。
結局、本社が東京にあるような大きな会社に受かることもできなかった。
地方のスーパーにしか受からなかった。
そのスーパーの中小企業家社員研修なるもので2度目の東京にいった。
大勢の中の一人で自由に歩き回ることもできなかった。
そのために二回目にきた感触はあまりに彼に残ってはなかった。
毎日同じことの繰り返し。
朝、起きる。
ご飯を食べて、シャワーを浴びる。
徒歩20分の道を歩いてスーパーにいった。
おはよう、あきら。
先輩の佐藤さんはいつも朝早くに来ている。
10時開店のスーパーでどう考えても9時にいけばいい計算のはずだ。
それが8時50分に行っても佐藤さんは来ていた。
いつも聞こうと思ってても聞けないでいる
なんか重要なことに触れそうで。
あきらは普通の家庭で育っていたって普通の高校へ行き普通の大学を卒業した。
よく言えば中流家庭の普通の男性。
悪く言えばなんの特徴もない、なんのとりえもない男性だといえる。
22歳で大学も普通に卒業し普通の就職して1年あまり。
毎日同じ事を繰り返すことに何の疑問ももたず、なんの改革もせずひたすら今を生きた。
意識はせずに。
幸せとはなんなのかを自問自答することもあまりなかった
幸せとは自分を意識しない限り、不幸せ幸せを考えることもない。
ある意味それが一番幸せだろうと思う。
おはようございます。
10時開店と同時にお店は開く。
同時に数名のおばさんが入ってくる。
開店セールを狙ったおばさんだ。
今日はティッシュが5箱で198円のセールをやっていた。
しかも一人一個(5箱)限定
ねーにいちゃん、二組だめ?
ん〜駄目です。子供さんでもつれていれば話は別だけど・・
いやー子はさ、車で寝かしてるんだ、ほら、駐車場の車の助手席見てよ
見ると助手席にベビーシートをつけて子供が寝ている。
苦笑しながらももうひとつ手渡した。
ありがとー。よかったわー物分りのいい店員さんでさ。
たまに思うこともある。
4年制の大学を出て、こんな店員さんなんて呼ばれることに対しての劣等感だ。
同じ年のやつはもっとすごい仕事とかしてるんだろうなーとか。
その度に、考えないようにした。
仕事なんてのはそんなもんだ。
あきらもそんなにお酒を飲むほうでもなく、上司も店長も忘年会など決まった飲み会以外は
部下とコミュニケーションをとろうとはしなかった。
それはそれで心地よかった。
付き合ってお酒なんてあきらには嫌だった。
おまえ、彼女はいるのか?
佐藤さんにそう聞かれて、いえ・・いないです。
こう答えたあきらだったが、もう学生時代から2年越しで付き合ってる彼女はいた
週に1度か二度、会うくらいのもので最近は会ってもそんなに目新しい会話があるわけではなかった。
最近どう?忙しい?彼女がそう聞いても
うーん・・変わんないかな。
そう答えると黙って彼女は沈黙した。
彼女は身長も155センチくらいで短大を出てビデオレンタルのカウンターでバイトしていた。
あきらはそこの常連だった。
彼女が働くようになってからはアダルトは別のところで借りるようになったいた。
それが付き合うようにまでなるのはほんとに偶然のことだった。
たまたま勤めているスーパーに彼女が買物にきたときに、彼女のほうから
声をかけただけだった。
その日は特別用事もなかったのでそのまま夜、お茶する約束をした
そうしてそのまま付き合うことになった。
あきらにとってはただの偶然の幸運だった。
いまのあきらにとってはそんなの彼女に会うことが嬉しいわけでもなかった。
いや、正確にいうと会うことにそんなに魅力を感じるわけではなかった。
理由はわからない。
彼自身にも他に好きな子ができたわけでもなく、理由がなかった。