対面は"機械越しの涙の残像"
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諸事情によりアドレス変更
0523-t7.03@xxxx.xx.xx
紙切れと携帯画面を見比べて深呼吸をする。
場所は自分の部屋。時刻は8時30分。
聖から渡されたメールアドレスは間違えようのないシンプルなものだった。
それを何度も見直してからもう何度目かわからない深呼吸をする。
瞳を閉じて、数秒。
―――――――よし!気合いを入れて、携帯に向き直った。
昨日はどうもありがとう!
今日はびっくりしちゃった。朝はいつも
………馴れ馴れしい、かな。
昨日は本当にありがとうございました。
きちんとお礼が言えなかったので今日、会えて嬉しかったです。
朝はいつもあの時間って言ってましたけど、
…丁寧すぎて不自然?というより言い訳がましいかな
昨日はありがとうね!
昨日は助かった。
昨日は、
…私、文才ないかも。
がっくりうなだれ、美波留はため息をついた。
件名:こんばんは
本文:貝沢美波留です
昨日は本当にありがとう
今度お礼させてください
「…シンプルすぎかなぁ」
『今朝会えて嬉しかったです』は恥ずかしくてやめた。
「…えーい、ままよ!」
目をきゅっとつむって送信ボタンを押す。
一仕事終えた達成感と、直後襲う不安。
ブー
返信にしては早すぎるバイブの音に思わず体が飛び上がる。
携帯を覗くと一通のメール。
Re:エラーレポートのお知らせ
「…え」
――――――――なにこれナニコレ何、これ。
紙を目の前にひろげ、メールアドレスを確認する。
間違ってはいない。
…再送。
数秒後、「ブー」という受信の音。
内容は先ほどと同じもの。
「どうして…」
思わずこぼれる本音。
一瞬にしてよみがえる会話。
『賭けはお前の負けだろ』
『きちんと告白しろよ』
嘘だって思いたかった。
聞き間違いだって信じたかった。
もっと優しい人だって夢見たかった。
でも、
『好きだったんだ―――――付き合ってほしい」』
どうして、って思った。
見ず知らずのあの幼い子供にあんな優しい笑顔を向けたあの人が、
見ず知らずの他人の私にそんな真面目な顔して嘘つくの。
「からかわれてたのかなぁ……」
『…っに、してんだよ!』
『まだ怖い?』
あんな真剣に怒ってくれて、あんな優しく心配してくれて、
―――――どうして、こんな強く傷付けるの。
「ぅあっ、あ――――………」
涙と一緒に情けない声が漏れた。
なんだか、ひどく切ない。
バカみたいだ。
―――――――――――バカみたいだ。
忘れなきゃ半年かけて思い出さないようにして、
だけど名前を知れただけで嬉しく、
―――――――――――バカみたいだ。
ただ見てるだけしかしてないくせに、
こんなひどい事されたのに、
だめだ。私、
綾波君が好きだ。
「ままよ!」って表現、友達に見せたとき通じなかったんですが…
大丈夫ですよね?あれ、間違ってる…?