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再会は"不意打ちのおはよう"

 人生ってのは、結構自分に都合よく出来てるらしい。




 夢かと疑った昨日から一晩明けての今朝。

 いつも通り家を出てうとうとしながら電車に揺られていると2つ目の駅をすぎた所で目が冴えた。


「・・・・よう」

「あ、綾波君・・・」


 座っている美波留の前に聖が立っていたのだ。

 ただでさえある身長差に加え、一層聖が大きく見える。

「え、え?ど、どうして・・・・」

「俺も朝、この時間だから」

「へ、へぇ・・・・」


 知ってます。


 って言ったら痛い人だ。

 ・・・なんて1人言っている場合じゃなくて!

 朝この時間?でもあの日以来同じ電車になった事はない。


 ぐるぐる回る思考に終止符をうったのは、聖ではない男の声だった。

「聖ー?」

「あれ、お前珍・・・」

「瀬口!」

 慌てたように、聖は2人いる友人の内の一人の名を呼ぶ。

 ちら、と美波留を一瞥するやいなや美波留の手をとった。



「え」

「待ってる」



 小さな手を覆うようにして大きい手が紙切れを握らせた。

 手が離れると聖は踵を返して同じ制服を着た集団の中に混じっていった。

 あっという間の出来事にあっけに取られていた美波留だったが、視線を手元におとすと少しずつ意識が戻ってきた。

 とっさに取られた左のてのひら。

 一瞬ふれた、自分とは全く違う長い指。


 ・・・・・・

 や、やばい!


 真っ赤になった頬を隠すために俯く。

 結局電車を降りるまで顔をあげられなかった。





「・・・・留?美波留ってば」

「へ?ほ、は?」

 名前を呼ばれ我に返るとすぐ目の前に純の顔があった。

「うわぁっ!」

 思わず美波留はイスから転げ落ちた。まるでコメディ。

「・・・・そのギャグは古いわよー」

「・・・・こんな体張ったドジしない」

 涙目になりながら美波留はイスに座りなおした。

 そのまま見上げるようにして純に視線を合わせる。


 ―――― はぁ


 ゴン!


「い、痛い!」

「人の顔見てため息つくたぁ、いい領分ね」

「だからってグーで殴るー!?」

「天罰よ」

 明らかに人災じゃん、という美波留の主張は軽く無視された。

「まったく、朝からずっとボーっとして何があったのよ」

 弁当箱の包みを開けながら純が美波留にたずねると、当の本人は再び「はぁー」とため息をついた。

 哀愁が漂うそれに、純がニヤリと笑みを浮かべる。

「ははーん、恋煩い?」

「ぶっ」

 思わず口に含んでいたジュースを噴出しそうになる。「汚っ!」と純が何やら文句を言うが今は無視。

「な、な、な・・・・・」

「きゃービンゴ?!」

 わざとらしく頬に手をあてて小首をかしげる純に恨みがましい眼をむける。

 こ・・・こいつっ!

 はめられた、と気付いたときはすで遅し。

 純は取り調べの刑事よろしく美波留に向かって箸を突き出した。

「ズバリ!お相手は!?」

「・・・・テレビのバラエティの司会者みたい」

「よー、早めに言ったほうが楽だと思うぜ?」

「どこのチンピラですか」

「故郷で母さん悲しんでるぞぉ?いいのか?さっさと吐いてしまえよ」

「・・・・一昔前の刑事ドラマみたいなセリフ言わないでよ」

「お相手はどなたですの?」

「敬語にすればいいってものじゃないから」

 コントのようなやりとりの末、純が先に折れた。

「もーいいわよ。美波留が言わないならあててみせる」

「はい?」

「んー・・・夕飛先輩、でしょ?うん、きっとそうだー」

「は、はぁ?なんでそこで夕飛先輩なの!?」

「違うの?」

 いい線行ってたと思うんだけどなあー?とかのたまう純にむかって思いきりかぶりを振ってやる。

「ふぅーん・・・でもよかった」

 先ほどまでのからかうような笑みを一変させて、本当に優しい笑顔をして純が言った。

「何が?」

「だって美波留、前の電車の君引きずってるぽかったからさー。吹っ切れたならよかったと思って」


 ドキン!


 ・・・・って、心臓本当に鳴るんだ。

 なんて軽い現実逃避を試みる。



 ・・・・その電車の彼の事考えてたって言ったら、どんな顔するんだろ



 1年前好きになった時は応援してくれた。

 そして告白された後は早く忘れろと慰めてくれた。

 今は・・・何と言うだろうか。

 ギュッと体を縮み込ませるとポケットでクシャっと紙がつぶれる音がした。

 取り出して見ると朝、聖に渡されたものだった。

 ・・・・忘れてた

 手を握られた事でいっぱいっぱいで

 くしゃくしゃになった紙切れをのばすとそこには数字とアルファベットの羅列。

 これって・・・・

「何ー?さっそくアドレス交換したわけー?」

「うひゃあ!」

 すっかり頭の隅に追いやってしまっていたがここは教室で隣には純がいたのだった。

「じ・・・純ちゃ」

「いい感じなんだぁ?でさー相手は?せめて何組とかさぁ。もしかして他校とか?」



 もし・・・・

 もし、これで綾波君と言ったなら



 純は反対するだろうか。

 ううん、きっとする。それは私のために。

 私が、たくさん泣いたの、知ってるから。

 でも・・・・私、は。

 きゅ、と守るように手のひらを握りしめる。



 好きだった――――それは事実。

 今も好きかと聞かれたら・・・・分からない。

 それでも。でも、



 彼と、つながっていたい。



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