帰路は"説教込みのハンバーガー"2
そして、帰り道。
美波留と純はあるファーストフード店にいた。
「…………」
「…………」
無言によって生まれる沈黙。
…重い。といより。怖い!
目の前でドリンクをすすっている純の顔は不機嫌そのものだ。
「恋は盲目って言うけどさあ、あんたがここまでバカだとは思わなかった」
「で、でも…」
「うっさい」
静かに、でもばっさりと切られ、汗が額から流れ落ちるのを美波留は感じた。
「あれが美波留の想い人だった"アヤナミ君"でしょ。別にさずっと好きだったんだから、友達になれたっていうのなら喜ばしい事だとは思うわよ。思うけどさ!」
純はドン!と右手に持っていたカップをテーブルに叩き付けた。
「それはあくまで"友達"ならよ!まさか美波留がまだ好きだなんて思わなかったわよ!!」
「…………っ!ゴホゴホ!」
『好き』とストレートに指摘され美波留は思いっきりむせた。
頬が熱い。
その様を見て純は情けなさそうに顔を歪ませた。
「忘れたの?」
主語も目的語もないそのセリフが、何を指しているのかわかる。
『忘れたの?』―――――彼が一体どんな人か。
美波留は俯いた。
「綾波君と知り合って、そりゃいくらかイメージ違ってよかったって所もあったんだろうけど、所詮ゲーム感覚で人の心を弄ぶようなやつだよ?」
わかってる。そう言ったら、叱られるかな。
ねぇ、それでも。助けてくれたの。
嬉しかったの。
痴漢から助けてくれた、家まで送ってくれたの。
その道中、いろんな節々で女の子慣れしてるのもわかったけれど。
朝電車で会えて嬉しかったの、手が触れただけで心がはねた。
からかわれたと勘違いした時の痛みも覚えているけれど。
走って会いに来てくれた、苦いコーヒーが優しく感じた。
そつなく奢る姿は一朝一夕で身に着くものではないだろうけど。
会話は暖かった、メールは楽しかった。
1番最初にした、あんな何気ない会話――――誕生日もうすぐじゃん。
…覚えててくれて、涙が出そうになったの。
心が逸る。
想うだけで、鼓動がはねる。
「……」
「何か言ったらどうなの、美波留?」
…うっさい、と一喝して黙らせたのはどの口だ。
と、言うほど美波留は愚かではない。
「純ちゃん」
「何!?」
「…ごめんね」
ピタリ、と純の動きが止まった。
美波留はそんな友人をじっと見つめた。
「綾波君がどんな人でも、好きみたい」
譲れない想い、とか。よく小説で表記される感情。
「もう、無理みたい」
忘れようとした想い。なかった事にしようとした想い。
淡く芽生えたこの想い。昨年は涙に譲ったこの想い。
「…バカだよね」
「美波留…」
譲る、とか、諦める、とか。一体いつそのラインを超えちゃったのかな。
数えれるくらいにしか言葉を交わしていないのに、
メールはたった1回しかした事ないのに。
感情って、どこから生まれてくるんだろう。
「……傷付くよ」
「うん。でも、好きの気持ちを失くす方がきっと泣く」
「美波留…」
この想いを隠すなら、きっと心も死んでしまう。
譲れないとか、そんな仰々しいものじゃないの。
ただ、しっかりと根付いてる。
それから散々男を見る目がないと説教された後、「負けたわ」と言って純はハンバーガーの最後の一欠片を口に放り込んだ。