表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

帰路は"説教込みのハンバーガー"2

 

 そして、帰り道。

 美波留と純はあるファーストフード店にいた。



「…………」

「…………」

 無言によって生まれる沈黙。



 …重い。といより。怖い!



 目の前でドリンクをすすっている純の顔は不機嫌そのものだ。

「恋は盲目って言うけどさあ、あんたがここまでバカだとは思わなかった」

「で、でも…」

「うっさい」

 静かに、でもばっさりと切られ、汗が額から流れ落ちるのを美波留は感じた。

「あれが美波留の想い人だった"アヤナミ君"でしょ。別にさずっと好きだったんだから、友達になれたっていうのなら喜ばしい事だとは思うわよ。思うけどさ!」

 純はドン!と右手に持っていたカップをテーブルに叩き付けた。

「それはあくまで"友達"ならよ!まさか美波留がまだ好きだなんて思わなかったわよ!!」

「…………っ!ゴホゴホ!」

『好き』とストレートに指摘され美波留は思いっきりむせた。

 頬が熱い。

 その様を見て純は情けなさそうに顔を歪ませた。

「忘れたの?」

 主語も目的語もないそのセリフが、何を指しているのかわかる。

『忘れたの?』―――――彼が一体どんな人か。

 美波留は俯いた。

「綾波君と知り合って、そりゃいくらかイメージ違ってよかったって所もあったんだろうけど、所詮ゲーム感覚で人の心を弄ぶようなやつだよ?」

 わかってる。そう言ったら、叱られるかな。



 ねぇ、それでも。助けてくれたの。

 嬉しかったの。




 痴漢から助けてくれた、家まで送ってくれたの。

 その道中、いろんな節々で女の子慣れしてるのもわかったけれど。

 朝電車で会えて嬉しかったの、手が触れただけで心がはねた。

 からかわれたと勘違いした時の痛みも覚えているけれど。

 走って会いに来てくれた、苦いコーヒーが優しく感じた。

 そつなく奢る姿は一朝一夕で身に着くものではないだろうけど。

 会話は暖かった、メールは楽しかった。

 1番最初にした、あんな何気ない会話――――誕生日もうすぐじゃん。

 …覚えててくれて、涙が出そうになったの。

 心が逸る。

 想うだけで、鼓動がはねる。




「……」

「何か言ったらどうなの、美波留?」

 …うっさい、と一喝して黙らせたのはどの口だ。

 と、言うほど美波留は愚かではない。

「純ちゃん」

「何!?」

「…ごめんね」

 ピタリ、と純の動きが止まった。

 美波留はそんな友人をじっと見つめた。

「綾波君がどんな人でも、好きみたい」

 譲れない想い、とか。よく小説で表記される感情。

「もう、無理みたい」

 忘れようとした想い。なかった事にしようとした想い。

 淡く芽生えたこの想い。昨年は涙に譲ったこの想い。

「…バカだよね」

「美波留…」

 譲る、とか、諦める、とか。一体いつそのラインを超えちゃったのかな。

 数えれるくらいにしか言葉を交わしていないのに、

 メールはたった1回しかした事ないのに。



 感情って、どこから生まれてくるんだろう。



「……傷付くよ」

「うん。でも、好きの気持ちを失くす方がきっと泣く」

「美波留…」

 この想いを隠すなら、きっと心も死んでしまう。




 譲れないとか、そんな仰々しいものじゃないの。

 ただ、しっかりと根付いてる。










 それから散々男を見る目がないと説教された後、「負けたわ」と言って純はハンバーガーの最後の一欠片を口に放り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ