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帰路は"説教込みのハンバーガー"

 

「美波留ーおはよー」

「じゅ、純ちゃん!?」

「何オバケ見たみたいな顔して。失礼な子ねー」

「ど、どうして…朝練は?」

「休みなのよー珍しく。んで、どうせならって美波留が乗る時間狙ってみた。愛ねードンピシャ。日頃の行いがいいからかしら」

「何が"愛"よぉ…」


 計算外だった友人の登場に美波留は焦った。

 どうしよう…綾波君の事まだ話してないのに・

 ゴクリとつばを飲み込む。

 ただでさえ、今日は遊園地云々の話があるというのに。


 も、もう潮時?

 そろそろ話した方がいい?


 そう考えたらこれはチャンスかもしれない。

 聖が乗ってくる駅まであとわずかだが、伝えるには十分な距離だ。

「ねぇ、純ちゃん!」

「ん?」

「…」

「何?」

「……」

「…どうしたのよ変な顔して」

「…変?」

「変よー、真っ赤な顔して。熟れたリンゴみたい」

 確かに顔のあたりが異様に熱い。

「違う!あのね純ちゃん!」

「だから何」

「じ、実はね…」


 プシュー、ガコン


 聖が乗ってくる駅に着いてしまった。

 もうあと願うのは、聖がこちらに来ることを遠慮してくれる事だけだ。

「本当の事を言う」とは決心したものの、話の核心となる人物のいるところではさすがに言えない。

「あ、ちょっと美波留ごめん」

「へ」

 そう言うと純は美波留の横をするりと抜けて行ってしまった。

 友達でもいたのかな。

 そう不思議に思っていると「貝沢さん」と後ろから声がかかった。



 ナ、ナイスタイミング!

 純ちゃんがいない間にちゃっちゃと済ましてしまおう!



「おはよう」

「お、おは、ヨウ」

 声が裏返った…。

 おかしそうに笑う聖の笑顔に恥ずかしさを覚えながらもキュンとする。

 ―――だからときめいてる場合じゃないって!!

「あ、あのさ!昨日のメールの事なんだけど」

「ああ、急に切っちゃってごめんね」

「う、ううん」

「それで、これなんだけど」

 ヒラリと遊園地のチケットが聖の手の中に握られている。

「で、でも、それ…」

「…やっぱ迷惑だった、かな」

 そんな事はない。の、だけれど…。

 左右に首を振る力が弱いのは、困っているからだ。

 迷惑ではない。けれど、困る。

 自分は1年以上前から聖の事を知っているが聖からすれば出会って1ヶ月も経っていないただの同い年の他校生だ。



 こんな事、簡単に出来ちゃうんだな。

 それは、相手が『私』じゃなくても同じなんだ。

 ねぇ、これは優しさ?

 それとも気まぐれ?

 このチケットは、あと誰に渡した事があるの?



「…会ったばかりなのに、こんな高いものもらえないよ」

「え―――!!!もったいない!!!」

「っ!純ちゃん!?」

 どこに行ってたのかは知らないが、この場にいなかったはずの純がいきなり会話に割り込んできた。

 第三者の突然の登場に聖も唖然とした顔をして純を見ている。

 その顔を見て、美波留はわけもなく安心した。

 善意を断ることで芽生える嫌悪を見なくて済んだことも、

 ―――――見間違いだとしても、一瞬聖がした傷付いたような顔を見なくて済んだことも。


 もしかして、断られたの初めてだったとか?


 ありえる話だった。聖の外見は恋心抜きにしても整っている。

 もしかして、もう彼女、いたりして…。

 それこそ十分にありえそうな話だった。

 今までその可能性を考えなかった自分があまりにもおめでたくて笑える。

 別に付き合いたいとかそんな大それたことを願ってたわけではないが、『特別』な誰かがいると思っただけで胸が締め付けられてくる。




「ねー、美波留がいらないならちょうだいよ」

 純に声をかけられハッとなる。

「え?」

「いらないんでしょ、チケット」

「何言ってるの純ちゃん!」

「だからちょうだいよ」

「そんなのダメに決まってるでしょ!」

「じゃー美波留がもらうのね」

 はい、と聖の手から華麗にチケットを抜き去ると美波留の手に収めさせた。

「え、えぇ!?」

 どうしてそうなるのか。

 聖も呆然としたまま見つめている。

「美波留ジェットコースター好きなんだよねー。楽しんできなよー」

「楽しんできなよって…誰と」

「?一緒に行くんじゃないの?」

「そ、そんなわけないじゃん!!」

 電車の中で大きな声を出してしまわないように慌てて口をふさいでボリュームを調整する。

 純は周りの目にはどこ吹く風で「そうなの?」と首をかしげていた。

「じゃ、美波留は自分の行く分のチケットだけもらったわけ?」

「だからこれは・・・!!純ちゃんがむりやり!!」

「人の好意を拒絶するのはどうかと思うのよね。もらって迷惑になるものでもないわけだし」

「でもチケットって意外と高いんだよ!?」

「うるさいわねーそんなに気になるんだったらあんたが彼の分買ってやればいいでしょーが」

「や、それはさすがに」

 純が登場してから一言も喋らなかった聖だが、純の本末転倒となるセリフに思わず口をはさむ。

「本当、そんな気にしないでほしいな。昨日メールでも言ったけどたまたま手に入ったもので、高価って言われても俺は一銭も払ってないわけだし」

「何枚?」

 純が聞く。

「よ、4枚?」

 なぜか押され気味の聖が答えると、純は「はぁ」とため息をついた。

 ボソッと何か呟いたかと思ったら、一転してニコリと笑い出した。

「余り物の1枚なんだから、美波留が気にすることはないわよ。ついでだから一緒に行ったら?」

「だ、誰と!?」

「彼とその友人君」

「なっ…な、な、なっ…!?」

「ああ、そうしなよ」

 サラリと聖が会話に加わった。

「俺はもう一人、誰か誘うから。もう1枚は貝沢さんの友達の君にあげるよ」

「あら、悪いわね」

 しれっとした顔で純が言う。

「じゅ、純ちゃん!」

「あ、着いちゃった」

 美波留の非難を込めた声をあっさりと無視して純は電車を降りる。

「それじゃ」

「ああ、うん。チケットは当日渡すから」

「そうして」

 美波留を完全に無視して2人の中で話がついてしまったらしい。

「ばいばい貝沢さん。それと友達の"純ちゃん"?」

「木下純よ。あなたは?」

「綾波聖。よろしく」

「アヤナミ…?」



 プルルルルルルル





 プラットホームにベルが鳴り響き、聖はその場を後にした。








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