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1-7 大魔王SIDE

紫、赤、青、といった不気味なもやが立ち込める、宇宙のような異空間にポツンと浮かんでいる魔王城。薄気味悪い石造りの廊下にコツコツと靴の音が響く。壁には紫色に光る炎が灯された松明がかかっている。

 靴の音の人物は廊下の突き当たりにある扉の前に立ち、扉に手をかざした。

「Lapis magicus niger, da nobis fortitudinem/黒き魔石よ、我らに力を与えたまえ」

 そう唱えると扉が開いた。扉の中の部屋には、円卓とそれを囲むように立つ四人の男、そして部屋の奥にかけられた、カーテンの中には不気味に佇む大魔王の影があった。

「五分、お前のせいで会議が五分遅れた」

 懐中時計を見ながらそう言ったまるで日本の鎧兜を全身に身に着けたような男は、参謀のクロノス・マドゥ。

 彼の隣に立っているツナギ姿に般若の面を付けた屈強な男は、魔王直属の殺し屋のジョンソン。

 さらにその隣に立っているフードを深々と被った、子供とそう大差ない小柄な人物は、まじない師のクラハ・ステイシー。

「すまない、キリのいい所までやっていたからな。次から気をつける」

 遅刻した張本人であり、さっきの靴の音の人物の正体は、研究班に属する科学者のスピカ・ターヴォ。幹部の紅一点でもある。

「そんなくだらない話で時間を潰す暇があるなら早く会議を始めるぞ」

 場を仕切ろうとしたのは、なんと、ファンタジーワールド本編内ではセルア達の仲間であった、獣使いのジャイゴ・ガルシアだった。

「貴様、遅刻というのは大人としてあるまじき行為だぞ。それを分かって言っているのか?」

 クロノスが強めの口調でジャイゴに詰め寄る。

「わかっているさ。でも魔王様は早く会議を始めたがっておられるぞ」

「フン、それならいい。さあ、会議を始めよう」

 そうして五人がそれぞれ円卓を囲むように座ると、会議が始まった。

 部屋奥のカーテンの向こうで不気味に蠢くシルエット、彼らのリーダーである大魔王が初めに口を開いた。

「まず、私が聞きたいのは勇者、セルア・レイズ達の居場所だ。クロノス」

「はい。今回、刺客として魔石熊をおよそ五〇の異世界に放ちました。その結果、大きな魔力反応が一箇所だけありました。恐らく、その世界にヤツらがいるものだと推測されます」

「うん、まあそこで間違いないだろうね。視覚共有でボクも見てたし」

「クラハ、口の利き方には気をつけろ。魔王様の前だぞ」

 ジャイゴが注意を促したが、当のクラハはあまり気に留めていない様子で返事をした。

「それで、詳しい場所は分かったのか?」

「はい。ここから少し遠くの、世界〇〇〇一と区分された宇宙に存在する『天の川銀河』、それをさらに詳しく見た『太陽系』をさらにさらに拡大した『地球』という惑星の『七王子』という場所にいることが明らかになっております。地下都市謹製の異世界調査コンピューターにアクセスして調べたので間違いないはずです」

 クロノスに続き、スピカが説明した。

「そうかそうか! そこにいたのか!」

 魔王は気分が高揚したのか笑い始めた。

 だが、ここでジャイゴが「すみません魔王様、少しよろしいでしょうか」と割って入る。

「スピカたちはさっきから一体何を言ってるんだ? 世界? 区分? 異世界? そういう専門的なことは、前もって共有しといてくれよな」

「貴様が一昨日の作戦会議で昼寝をしていたのが悪いんだろう。それにしても、質問の仕方がまるで世界観説明のテンプレートのようだな」

 スピカは軽く咳払いをして続ける。

「私たちが活動していた星の外には宇宙が広がっているだろう?」

「うん」

「その宇宙のさらに外側、並の技術では辿り着くことのできない領域に、数多くの別の宇宙……専門的には『異世界』と呼称するが、それが存在していた。それを地上世界よりも数十世紀進んだ技術を持つ地下都市の科学者が総力を挙げて解明、一つ一つに番号を振り分けて調査を行った」

「うん」

「で、その結果それぞれの異世界のそれぞれの星に異なる独立した文化文明がある事が分かった。今回の地球はその一つ。ちなみに今城がある場所は異世界と異世界の繋ぎ目のような異空間、以上」

「ふ〜ん」

「反応薄すぎないか……?」

 するとその時、魔王の直属の部下が部屋に入ってきた。

「魔王様。会議中失礼します」

「なんだ?」

「ただいま、デイノケイルス様がお戻りになりました」

「そうか。入れ」

 会議室の扉が開くと、下半身が恐竜で頭には大きな角が三本生えた大柄な男、魔王軍最強のハンターともいわれる幹部補、デイノケイルスが入ってきた。幹部の面々はその大きさに若干圧倒されているようだ。

「ケイちゃん相変わらずデカいね~」

 クラハが余裕のある軽口をたたく。

 彼は部屋に入り切ると、片膝をついた。

「魔王様、大きな戦力になりうる者共をスカウトして参りました。来い」

 そう言われて入ってきたのはとても穏便にスカウトされたとは言い難い程ボロボロで、チェーンに縛られた五人組と異形の男だった。

「ほう、まずはそこの貴様から名乗れ」

 魔王が指を指して言った先には赤を基調とした近未来風のスーツに身を包んだ、熱血的な若い男がいた。

「誰がお前みたいなやつに名乗るか! 俺はお前らみたいな悪の言いなりになるつもりは無い!」

「威勢がいいな。クラハ」

「はーいっと」

 クラハは手に持っていた水晶を男の方向へ向けて光らせた。

「グッ、うぅッ」

 男はねじ伏せられて床に倒れ、気を失ってしまった。

「頭が高いぞ。じゃあ次は青のお前、赤いのに変わって自己紹介をしてくれ」

 クラハが指名したのは、熱血男の横にいた青を基調としたスーツに身を包んだクールな風貌の男だ。

「お、俺たちはゴニンジャーという名前で活動している、ヒーロー五人組だ」

「へぇ〜ヒーローねぇ……ありがと。じゃ、おやすみ」

 そう言うとクラハはまた水晶を光らせて残った四人を気絶させた。

「コイツらは地下牢に入れておけ、次」

 部下たちがジャイゴの指示でゴニンジャーを運び出し終えると、腕は腹びれで先から手が出ていて、下半身からは尻尾と尾びれが生え、背中には背びれ、髪は青いリーゼント、頬にはエラ、といういかにもサメなサメ男が前に出た。

「サメ獣人か、名前は?」

 魔王の問いにサメ男は口を紡ぐ。

「ほら、名前だ。名前を言ってみろ。まさか言えないのか?」

「お、おれはッ、なま、なまえがないんだ」

 サメ男の言葉に魔王は反応した。

「貴様、相当辛い環境にいただろう。その様子じゃ言葉も教えられてないな?」

「な、なんで、わかるッ?」

「私もそんな地獄で育ったからな。連れて行け」

「やだッ! おれちかろうやだッ!」

「誰が地下牢だと言った。お前は特別待遇だ。狭いが部屋をやろう」

「あっ、ありがとう!」

 そう言ってサメ男は連れ出されていった。

「嗚呼、魔王様、なんと慈悲深い……」

「勘違いするでない、クロノス。私は悪の道に進むと決めたのに、同じ境遇にいた者にはとことん甘い、そんな情けない男だ」

「そんなことは御座いません、私たちはその甘さで救われたんですから」

 スピカも意見した。

「そうか。これで私が聞きたいことは以上だ。最後にこれからの指示を出す。まずスピカ、お前はさっきの奴らの強化改造を。クラハ、お前は奴らの洗脳だ。他の者は出番まで自己研鑽に励め。デイノケイルス、成果次第では幹部昇格も考えてやろう」

「ありがたきお言葉」

「それでは解散」

その言葉で会議は終わった。

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